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リベリオ、口ごもる

「あ、ああ、まあな。目が覚めてしまって……。どうも剣を振らないと落ち着かなくてな」

「あの、エドモンド様。ぼくを運んでくださってありがとうございます」


 エドモンドにアントーニ家の別荘からカルデローネ家の別荘まで背負って連れ帰ってくれたお礼は、きっちり言わなければならない。


「ミオ、気にしないでくれ。いい鍛錬になったからね。だけど、ミオ。やはり、きみは少し太ったんじゃないのか?重くなった気がする」

「そんなこと、そんなことありませんっ!」


 エドモンドのいわれのない非難に、思わず声を荒げてしまった。


「そ、そんなに大声を出すなよ」


 エドモンドは、開いたままの扉から廊下をうかがった。


 廊下どころか、建物全体がシンとしている。


 彼は視覚と聴覚とでだれも起きてこないのを確かめ、居間に入ってそれを閉めた。


人間ひとというのは、本当のことを言われると怒ったり怒鳴ったりする」

「リベリオさん、そんなことありませんよ。だいたい、ぼくはその分よく動いています。太る要素なんて、どこをどう探してもありません」

「わかった、わかったよ。そういうことなのだな。エドモンド様、どうやらそういうことにしておくしかなさそうですよ」

「ああ、そのようだ。さて、剣を振ってさっぱりしてからもうひと眠りするとしよう」


 エドモンドは、そう言いながら半身を扉に向けてノブに手をかけた。


「エドモンド様っ」


 そのとき、リベリオが呼び止めた。


 ドキリとした。


 もしかして、いまこのタイミングでわたしの正体を告げるつもりなの?


 もしも告げられたら?わたし、どうすればいいの?


 だけど、真実を知ったいま、たとえ正体を知られても命をとられることはない。驚かれて、祖国に帰されるくらいでしょう。


 そうなったらそうなったとき。お願いすれば、もしかするともう少しの間側に置いてくれるかもしれない。


 命の危険がなくなったいま、知られたってかまわないじゃない。


 でも、やはりこれまでと同じような関係にはならないのでしょうね。


 どのようにかわってしまうかは、実際に彼らが知ってからでないとわからない。


「リベリオ、どうした?」


 エドモンドは、ノブから手をはなしてリベリオとわたしに向き直った。


「エドモンド様……」


 ドキドキが止まらない。


 思わず、リベリオに合図を送ろうとした。だけど、すぐに思いなおした。


 リベリオは、本来なら報告しなければならないことをずっとだまっていてくれた。それこそ、彼自身とアントーニ家の命運がどうなるかわからないのに。


 これ以上、わたしのわがままで彼に迷惑をかけるわけにはいかない。彼を悩ませるわけにはいかない。


 充分だわ。充分、好き勝手させてもらった。


 覚悟を決めた。


「その……」

「おいおいリベリオ、きみが口ごもるなどとはめずらしい。いったいどうしたというのだ?」


 エドモンドが困惑している。


「ミオの、ミオのことです」

「ミオ?彼がどうした?」

「じつは……」


 リベリオがこちらに視線を走らせたのを感じた。


 もうどうにでもなれ、よね?


「ミオに見られたのです」

「見られた?いったい、何を?」

「口づけをしているところを、です」

「く、口づけ?いったいだれと……」


 エドモンドは、さらに困惑している。


「ああ、ああ、もしかして……」


 それから、彼はハッとしたような表情になった。そのときには、彼はリベリオに近づいている。


「そうか。そうだったのか。よかったな、リベリオ。わたしもうれしいよ」


 言葉通り、彼はうれしそうな笑みとともにリベリオの肩をたたいた。


「本当によかった。きっと、ミシェル嬢もよろこぶだろう」


 彼の笑顔は最高である。


「まぁ、前途は多難ですがね。ですが、なにかしら打開策はあるはずです。まずは、おたがいの両親と話し合うことからはじめてみます」

「そうだな。進撃あるのみだ。わたしに出来ることがあったら、どのようなことでも協力するからな」

「ありがとうございます」


 二人は、握手をかわしている。


「いい知らせは気分をよくしてくれるな。肩が軽くなった気がする。剣を思いっきり振れそうだ」


 エドモンドはもう一度リベリオの肩を叩いてから、今度は廊下の扉ではなく居間のガラス扉へと向かおうとした。


「エドモンド様」


 リベリオは、その背に呼びかける。


「なんだ?まだ何かあるのか?」

「ええ。ミオが……」


 今度こそ、ね。


 さっきのは前座だったのね。


 つぎこそは、告げられてしまうに違いない。


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