ど、どうして正体を見破られたの?
「出会ったとき、わたしたちはあなたを捜していると言いましたよね?」
たしかに、そうきいた。
「あなたの情報の詳細は、わたしが一番よく把握していました。じつは、タルキ国の国王陛下や王太子殿下、王子殿下や王女殿下たちから依頼され、わたしが直接彼らに会ってつぶさに情報を得たのです」
「なんですって?で、では、お父様やお兄様、お姉様たちは無事なのですか?」
「無事?ああ、やはりあなたは誤解されているのですね。だから、性別身分素性を隠していた、と。王女殿下、説明が長くなりますよ」
いろんな意味でショックと驚きを隠せないわたしに、彼はわたしに事の顛末を語ってくれた。
事の起こりは、サラボ王国がタルキ国に脅しをかけたことらしい。
わたしという人質をとっておきながら、さらに多くのものを求めたという。
すべての要求をのまなければ、すぐにでも軍勢を差し向け潰してしまうぞ、と。もちろん、王太子の側妃として人質同然に嫁いでいるわたしの生命も奪う、と。
実際、サラボ王国の軍勢が越境してタルキ国の王都へ進撃を開始した。が、タルキ国軍は弱すぎる。戦わずしてどころか、戦う姿勢すらとることが出来ない。
サラボ王国のあまりの無茶な要求と非道なふるまいに、お父様やお兄様たちは決断せざるをえなかった。
より強大な国の庇護下に入ることを。
となれば、トラパーニ国とソルダーニ皇国ということになる。
トラパーニ国は、定期的に人質を差しだしているという経緯がある。そのため、そちらに打診をした。が、トラパーニ国も内情が厳しく、他国の為に兵を割く余裕はないと突っぱねられた。
おそらく、王太子殿下即位の件でもめにもめていたんでしょう。
結局、ソルダーニ皇国に頭を下げるしかない。
ソルダーニ皇国は、すぐに動いてくれた。エドモンドが軍を率い、タルキ国を蹂躙しつつあるサラボ王国軍を叩きのめした上で追い払ってくれた。そして、念のためタルキ国に駐屯することになった。
タルキ国の王都に入ったエドモンド軍であったが、軍監として同道しているバラド将軍の部隊が勝手な振る舞いをした。大豆などすべての物資を押収し、タルキ国内だけでなく他国への輸出を禁止してしまったのである。それがタルキ国の人々の反感を買ってしまった。
結局、バラド将軍の部隊による暴挙は、タルキ国内だけでなくトラパーニ国にも影響をあたえてしまったのだけれど。
一方、痛い目にあったサラボ王国は、まさか痛い目にあったとはおおっぴらに出来ず、事実を伏せてただ単純にタルキ国がソルダーニ皇国軍に攻め入られ、王都を奪われたと噂を流した。
わたしは、そのでっち上げの噂を鵜呑みにしていたわけである。
「わたしは、国王陛下からあなたが行方不明になっていると相談をもちかけられました。あなたの肖像画を見せられ、特徴をつぶさにきいたのです。それをエドワード様に伝えました。すぐに捜索をしたいとベルトランド様に打診し、許されました。そこで、わたしたちはタルキ国から直接サラボ王国に潜入したのです。肖像画を見たのはわたしだけです。特徴をきいたのもです」
彼はいったん口を閉じると、「あとは、あなたのご存知の通りです」と付け加えた。
「では、お父様やお兄さま、お姉様たちは……」
「ご無事です。わたし直属の部下たちがついています。それから、あなたのことはこっそり伝えております。『ソルダーニ皇国でちゃんと庇護されています。お元気です』と。皆様、ご安心されています」
「よかった。ほんとうによかった」
つぶやきと涙が同時に出て来た。
涙が出てくると、必然的に鼻水も出てくる。
そうだわ。人影を追って部屋を出て来たから、ハンカチなど拭ける物を何も持っていない。
「これがミオだったら、ひどい顔だって笑えたのに……。まさか王女殿下にそんな非礼なことを申し上げるわけにはいかないですね」
「心の声がきこえていますよ、リベリオさん」
「おっと失礼。どうぞ」
彼がハンカチを差し出してくれたので、それで涙と鼻水を拭こうとした。
が、ほんのり湿っている。
先程、門前でロゼッタが泣いていたことを思い出した。
おそらく、この湿り気はロゼッタの涙ね。
気にせずに涙を拭ってから、鼻をかんだ。
ハンカチをひろげてみると、月光の中、白いハンカチに涙と鼻水の跡がべっとりついている。
とりあえず、ハンカチをたたんでから彼に差しだした。
「それは、謹んで王女殿下に差し上げます」
彼は受け取ってくれない。だから、遠慮なくいただくことにした。




