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勝負の行方

「ミ、ミオ――ッ!やめてくれーーーっ!顔が怖すぎるし、速度が速すぎる」


 またパオロが何か叫んだかもしれない。


「ミオッ!追いつかれるわよ。もっと速く速くっ!気合が足りないわ」


 ミシェルが叫んでいる。


「わかってるっ!うおおおおおっ」


 さらに気合いを入れた。


「やめてくれーーーーっ!」

「パオロ様っ!あなたも応援しなきゃ」

「出来るわけないよ」


 二人が言い合っているけど、そんなことはどうでもいい。


「ああああっ!もうやけくそだ。ミオッ、追いつかれるぞ」

「ミオ、もっと速く速くっ!」


 パオロの声とミシェルのそれで、ほんのわずか平常心が戻って来た。


「ミオッ、がんばれ」

「ミオッ、モレノに負けるな」


 岸にいる皇太子殿下とエドモンドが、わたしたちの競争に気がついたのね。


 二人の応援が、耳に飛び込んできた。すると、不思議と力がわいてきた。


 モレノとアマンダのボートは、すぐそこまで迫っている。モレノの背が、やけに大きく見える。


 二の腕がちぎれ飛んでしまうんじゃないかというほど、両腕を動かし続ける。


「ミオの勝ちよ」

「ああ、ミオの勝ちだ」


 ボートが岸に近いギリギリのところに達したところで、ミシェルとパオロが歓喜の声を上げた。


 なんてこと……。


 ミシェルとパオロは、全力をだしきって疲労困憊しているわたしの前で抱き合って大よろこびしているじゃない。


 ミシェル……。


 ついこの前までの病弱なイメージが、ガラガラと崩れ去ってゆく。


 ほんとうに元気になったのね。


 抱き合う二人を見ながら、彼女が元気になったことにたいしてつくづく神に感謝をしてしまう。


「同時だった」


 モレノがボートをよせてきた。


「ええ。モレノ様と同時でした」


 アマンダが断言した。


「モレノ様、すごくかっこよかったです」

「え?ほんとうかい、アマンダ?」

「ええ。必死に漕いでいるときのモレノ様の顔に魅入ってしまいました」

「うれしいなぁ」


 アマンダ。そんなにおべんちゃらを言って、まさかわたしの分のポットパイにありつこうというんじゃないでしょうね?


 それからモレノ、ダメよ。いまのはわたしの方が速かった、はずよ。


 そのとき、ボートがガクンと揺れてとまった。


「ミオ、おりるんだ」


 リベリオが桟橋からボートを寄せてくれている。


「ミシェル、漕ぎ方はわかった気がする。ミオの漕ぎ方をさんざん見たからね。わたしが漕いでみるよ」

「ええ、パオロ様。湖をグルッと回ってみましょう」


 ミシェルとパオロは、いまは肩を抱き合っている。


「リベリオさん、パオロさんに漕ぎ方を教える約束をしている……」

「ミオ、いいからおりろって。いまのをきいていなかったのか?パオロは漕げるって言ったろ。いいから、もうおりろ」

「そうですか?」


 リベリオが真剣な表情で命令してくるので、仕方なしにしぶしぶボートをおりた。


 すると、パオロが立ち上がり、バランスをとりながらわたしが座っていた方に移動した。


「ミシェル、行くよ」

「はい、パオロ様」


 リベリオがボートの縁を押してやると、パオロが漕ぎはじめた。


 彼らの乗るボートがスッと桟橋からはなれ、静かに湖を進んで行く。


「さすがはパオロ様です」

「そ、そうかな?やってみると、何とか出来るものだよね」


 ミシェルとパオロの会話がのどかな湖面に響き渡っている。


 モレノとアマンダは、すでにボートからおりて釣り竿を持ち、向こうの方に向かって歩いて行っている。


「ロゼッタ、乗るんだったらはやくしろ」


 リベリオがモレノたちのボートを係留していると、ロゼッタがズカズカとやって来た。


 彼女はリベリオの差しだす手を無視し、ボートに身軽に乗るとドシンと座った。


 その拍子にボートが揺れたけど、彼女は意に介さない。


「ったく、ほんとうに可愛くないよな」


 リベリオはプリプリしている。つぶやきながらボートに乗って座り、オールを手にとった。


 そのとき、ふと思った。


 もしかして、もしかしてロゼッタとリベリオって……。


「あの……」


 思わず声に出していた。


「もしかして、もしかしてロゼッタ様とリベリオさんて……」


 言いかけると、二人はハッとしたような表情で桟橋にたたずむわたしを見上げた。


「お二人って、もしかしてモレノさんのボートの方が速かったと思ってらっしゃいませんか?」

「……」

「……」


 二人は、わたしを見つめたまま絶句している。


 やっぱり。二人はそうなのね。


 先程のボート勝負は、モレノの方が速かったって思っているのね。


 ショックを隠しきれないわたしになどおかまいなしに、リベリオはオールを漕ぎはじめた。


 そして、二人の乗るボートもまた、静かに桟橋をはなれていった。



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