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第20話

 爆発に身を晒した直後、誰かの呼びかけので目を覚ますのは何度目だろう。


 予想通りオレの身体には目立った外傷も服が弾け飛んだ跡もない。だが、身体に掛かる妙な負荷だけはあった。


「よかった⋯⋯デント、戻ってきた⋯⋯」


 負荷の正体はオレに馬乗りになりながら泣きじゃくっているカティだった。


「ちょっと太った?」

「なっ⋯⋯それが目覚めて最初に言う言葉!?」


 ぶたれた頬が痛い。てことは戻ってこれたのか。


 その側では地面に放置されながらも、冷静に状況分析に努めるドロミーもいる。


「カティ様も同様に倒れましたが、デント様だけがなかなか目覚めなかった次第です」


 なかなか降りてくれそうにもなく、そっとしておいてもよかったがオレはカティの身体を起こした。


 その際胸に触れてしまった気もするがきっと気のせいだろう。


「触った! 今触ったよね!?」


 どうやら触っていたみたいだ。だが、ハッキリと触った確証は得られなかったということはカティのはその程度だということ。


 口にしなければ気に留めることもなく、自ら傷つくこともなかったというのに。


「なに真面目な顔言ってんのさ」

「いや本物かどーか確かめただけで他意はない」

「それっぽい後付けをするな!」


 今ので伝わるということはカティも同じような現象に見舞われたのだろう。なら深く問いただす理由もない。掛ける言葉は一つで十分だ。


「大丈夫だったか?」


 オレでさえかなり精神にきている。そのおかげで踏ん切りがついたのもまた事実だが、誰しもががそうじゃない。


「今朝はごめん⋯⋯だから、その、デントもさ私に言うこと⋯⋯ない?」


 気恥ずかしさと申し訳なさの同居で気まずそうに呟く。


「気にするなって。全部精霊の仕業なんだから。カティも自分の可能性を信じて生きていけ。オレも信じてるからさ」

「ちっがーう! デントも私に謝れって言ってるんだよ! それに今どこ見て喋った? なんのこと言ってるの?」


 感情に任せたカティの攻撃を全て躱していく。これ以上は無意味だと悟ったのか、息が荒くなったところで悔しそうにオレを睨みつけてくる。


 せっかくの応援を無下にするとはないだろ。


「ねぇドロミー⋯⋯これほんとにデントなの?」

「私の見る限りでは⋯⋯ですが、どうなんでしょう⋯⋯」


 随分とひどい言われようだが以前よりそう悪い気はしない。


「ひとまずそれは置いといてだ。ドロミーに試してもらいたいことがあるんだ」

「私にですか?」


 ドロミーに任せたいこと。それはオレの現在位置の確認だ。


 いつも通り適当に森の中を彷徨い、元の場所に戻ってくる。それを何度か繰り返してドロミー側で得た情報と照らし合わせる。


「どうだった?」

「デント様のおっしゃる通り、その場から一歩も動いてません」


 やっぱり思った通りだ。オレの位置情報がある程度進んで戻ってくるならまだしも、その場から一歩も動いていないのは変だ。


 なんの前触れもなくオレたちが幻覚のようなものに取り込まれたことを踏まえると、今いるこの森もきっと同じ原理でできている。


 最初から出口なんてものは存在していない。抜け出す必要があったのは森ではなくこの魔術的なにかからだった。


「ほんとにいいの?」

「おいおいそれはこっちのセリフだぞ? もしかしたら現実のほうで爆発に巻き込まれてるかもしれないんだからさ」


 唯一これを破る可能性があるとすればそれははオレの爆発だ。これでも現実で作用する確証もなければ被害を抑える術もない。


 いわばこれは賭け。思えばいつも危険な賭けばかりやってる気がするな。


「それはまぁ、ね?」

「私たちはデント様を信じていますので」


 だったらあとは実行に移すだけだ。成功すれば今度こそ痛みを伴うだろう。




 ☆




「痛ってーな!」


 硬い地面の上、魚のように跳ね起きた。


 木々の焼け焦げた臭いが鼻をつく。オレを中心として地面が陥没してしまっているが2人の姿は近くにはない。


 2人は後方で木に引っかかるようにして転がっていた。爆発の衝撃によって目覚めたのかカティがドロミーを拾い上げるのを確認する。


「待たせたなって言いたいところだが⋯⋯その様子じゃそんなに時間は経ってないみたいだな」


 随分と時間が過ぎていたはずだが、最初ここにやってきたときと何も変わっていない。


 巨大な狼とそれに随伴する少女。どちらも目を丸くしていることを除けば。


『プッ⋯⋯ハハハハッ⋯⋯! 随分と派手なご帰還じゃないか』

「わ、笑い事じゃないんですのよ!?」


 ボロボロになったオレたちを他所目に狼は笑い続け、それに呼応するかのように森全体がざわめきだす。


 木の葉が舞い、地面が震え、他に住みつく精霊の動きが活発になる。


 ひとしきり笑い終えた後は隣の少女に視線を向けた。


『あそこから戻ってきたということは、話ぐらいは聞いてやらぬとな⋯⋯』

「もし目覚めないままだったら⋯⋯オレたちは喰われてたのか?」

『我ら肉を好むが人肉には興味ない。森の外へ放り出しはするがその後のことは知らん』


 どうにも腹の底が読めない。カティの読心術も人間以外では効果がない。


 そもそも精霊相手に真意を測ること自体意味がないことか。


『では改めて汝らの目的を問おう』

「オレたちは⋯⋯」


 折れてしまった聖剣『ディスペアー』今じゃ魔剣へと転化してしまっているが、かつてはオレの愛剣であり頼もしい相棒だった。


 ここへは聖剣の浄化が目的だったが今は⋯⋯。


「コイツをこの地に弔ってほしい。こう見えて元は聖剣だ⋯⋯きっとコイツにとっても居心地の悪い場所じゃないと思う」


 続けて『不浄解体』も見せる。


「この場所にあるコレと同じ物⋯⋯それを譲ってほしい」


 何も包み隠すことなく全てを告げた。それを受けて狼は魔力を帯びた体毛を揺らす。


『なるほど。聖剣のほうはなんとかできよう⋯⋯しかしもう一つの方は⋯⋯』


 言葉を濁されたわけじゃない。自分が答えることではないとそう判断された。


 なぜなら少女の首元に『不浄解体』の輝きがあった。


「私も一つ言いたいことがありますの」

「なんだ⋯⋯」


 少女が顔を伏せ怒りで身体を震わせていることに、少々事を急かし過ぎたかもしれない。


「とにかく服を着てくださいませ!」

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