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第21話

 狼の後を着いていけば小高い丘に出る。


『この辺でいいだろう』


 そう言って精霊に語りけ始めると空気が震え小さな光が浮き上がってきた。


 光は一つ一つが形を持たない精霊で、一箇所に集まると薄く平らな円形へと変化する。やがて大きな皿のようになり地面に覆いかぶさっていく。


『耐性の強い精霊に協力してもらう。ここに聖剣を差し込めばそ奴らが浄化してくれる。あとは地脈にへと勝手に還元されていくだろう』

「精霊にも色んな種類がいるんだな」

『人の子と同じよ』

「あんたみたいなお喋りの精霊もか?」


 オレの軽口に狼は盛大に笑う。その様子に最初に出会った時のような威圧感は感じられない。


 快く協力してくれることもそうだが、今では近所に住む気前のいいオッサンのような感覚だ。


『我は本来お喋りだ。たまに精霊の主たる風格を出したくなる時もあるがな』


 その軽口は笑えなかった。気持ちはわからないでもない⋯⋯むしろ心当たりがあるぐらいだから曖昧な返事で会話を切り上げる。


「とりあえず試させてもらうぜ」


 早速折れた聖剣を円の中心に突き立てた。地面とは異なる感触。だがしっかりと固定されると細い蔦のようなものが絡みついてくる。


 そして辺り一面に無数の白い花が咲き誇った。


「すごいな⋯⋯」


 目の前で起こっている光景にそれぐらいしか言葉が出てこない。


 花の一つを手に持ってみると感触は本物と差異はない。だがすぐに綻び光の粒子に姿を変える。


『それは精霊たちの浄化の際に起こる現象。花が咲きそして散ることで地脈へと還元されていく。地脈とは全てが還る場所であるのと同時に全てが生まれる場所だ』


 その言葉の通り他の花も散っては光の粒子となって吸い込まれ、そして再び新しい花を咲かせていく。


 全てが還る場所。聖剣自体もやがては粒子と成り果てるのか。


 これでようやく一区切りついた。こんな姿になるまで共に戦ってくれた聖剣と、この地を貸してくれた精霊たちへの感謝を静かに浮かべる。


『今宵はゆっくりと休め』

「それはありがたい話なんだけどな⋯⋯オレなんでか嫌われてるよな?」


 例の少女にはあれから一度も口を聞いてもらえていない。


 トレーシーの知り合いだからというわけでもなく、根本的な部分で嫌悪されている気がする。


 やっぱり全裸を晒したことが問題だったのか。それとも他になにかあるのか。


『しかしそうは言ってられないだろ。 少なくともお主の仲間は上手くやっているみたいだぞ? それに⋯⋯ここは人間が長居していい場所でもない』


 どうすればいいかそう聞いたつもりだったが、言葉はそれだけで続きは風に乗って消えていく。


 狼の姿もまた気づいた時にはこの場から居なくなっていた。




 ☆




 広大で入り組んだ森を教えられた順路で進んでいく。そうすると簡単に今夜の宿、少女が住む小屋へとたどり着けた。


 すでに到着していたカティたちの話し声が外にまで漏れ伝わる。普通に混ざればいいものをなぜかこっそりと様子を伺ってしまう。


 あの3人がどんな話で盛り上がってるのか大いに気になるところだ。


「これ手作りの干し肉だよ! アイリスお手!」

「私犬じゃありませんのよ?」


 そう言いつつも干し肉への興味は尽きないようで、尻尾と耳は忙しなく動いている。


 カティもそれを理解したうえでわざと焦らしている。なかなかに意地悪い。


「カティ様、まずはおすわりが先ではないでしょうか」

「私犬じゃありませんのよ!?」

「じゃぁいらない?」


 手にもった干し肉が上下左右と移動する。鋭い眼光でしっかりとその後を追い続け、やがて観念する。


「⋯⋯も、貰いますわ⋯⋯美味しいですわ⋯⋯」


 今度はピンと立てていた耳が力なく下がっているが、干し肉を食べる度に心なしか尻尾のほうは元気に揺れている。


「よしよしー」


 カティが頭だけではなく尻尾まで撫ではじめたではないか。


 ゴクリと、思わず喉が鳴ってしまう。オレも一度はあの尻尾を撫でてみたい。モフモフと感触を味わってみたい。


 右腕の疼きをなんとか押さえ込み、大事に至らずに済む。


 確かにすでに仲良く? やっているみたいだ。あぁ見えて怖いもの知らずなとこあるし、さすがはカティたちだ。


 だがこうしているうちに完全に入るタイミングを失った。一度出直そうかと考えていると少女の耳がこちらに向く。


「覗き見とは悪趣味ですわね? それに気持ち悪い動きまでして」


 どうやら気づかれてしまった。隠れる必要もなくなり観念して姿を見せる。


「すげー美味そうに食べてたもんだから」

「なっ⋯⋯そんなことありません! こんなのに興味はありませんわよ!」

「えー? ほんとか?」


 鋭い眼光がオレを射抜く。


「勇者かなにか知りませんが⋯⋯自らその責務を放棄するような半端者⋯⋯私はとことん気に入りませんわ⋯⋯」

「なるほど⋯⋯」


 すでに勇者でもなんでもないが、あえて言及することもないだろう。


 少女は脱兎の如くこの場から去ってしまう。手には持てるだけの干し肉を持って。


 少しからかいすぎただろうか。


「あーあ、行っちゃった⋯⋯」

「なんか邪魔しちまったな」

「デントのことは最初から気づいてたけどね。気持ち悪い動きしてるのとか」

「ぐぅ⋯⋯」

「アイリスのほうはどうかわかんなかったけど」


 やっぱり興味深々じゃないですか。最初は絶対に気づいてなかったなアイツ。


「デントがいないと普通なんだけどね。私たちの知らないとこでなんかしたの?」

「そんなのオレが知りたいぐらいだよ」

「やっぱり全裸が原因なのかな⋯⋯」


 そこはそうじゃないって否定してほしいんだけどな。

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