表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
293/373

(伯爵)3

 終えると大拍手。

さっきより拍手の圧が凄い。

それで気付いた。

慌てて圧の厚い方を振り返った。

フロア入り口に人溜りが出来ていた。

 先頭には笑顔の王妃・ベティ様。

隣には同じく笑顔のポール細川子爵。

供回りの侍従侍女達も笑顔で拍手をしていた。

そしてその背後には隣室に移動した面々。

カトリーヌ明石少佐やシンシア達。

近衛と国軍の魔導師にそれぞれの副官。


 ベティ様が歩み寄って来られた。

「もう一曲お願い」

 これは断れない。

音楽の教科書でお馴染みの曲にした。

デュオ『かぼす』の曲で『栄光への駆け足』。

勿論、直訳の英語で。

スキルの影響か、余裕で弾いて歌えた。

 意味は分からない筈なのに、終えると再びの大拍手。

歌唱もサウンドの一つとして捉えられているのだろう。

絶対にそうだ。

俺も前世では、児童の頃から洋楽一般が好きだった。

英語なので何を歌っているのかは分らなかったのだが、

それでもサウンドに魅せられた。

購入する価値ある物と理解していた。


 俺は弾き終えると立ち上がって、皆に向けて一礼した。

「良かったわ、子爵。

中々のものね。

いいえ、それ以上ね。

そこで質問があるのだけど、良いかしら」

 ベティ様だ。

目がランランと輝いていた。

これは、隙を見せれば喰い付かれる。

それは彼女一人だけではなかった。

殆ど全員がそんな空気を醸し出していた。

中でも要注意はピアノ教師だ。

業界の一員であるので、下手な答えは避けるが吉。

俺は一抹の不安を押し殺して、スキル演技を起動した。

即座に嘘設定を整えた。

「答えられる事なら」


「聞き慣れない言葉で歌っていたけど、それは何語なのかしら」

 我が国は天然の要害で囲まれていた。

西の大砂漠、北の大山岳地帯、東の大樹海、南の大海原。

大が付くのは便宜上だ。

正確を期すなら大々々ではなかろうか。

為に侵攻して来る国はなかった。

けれど、交流がない訳ではない。

西や北、東からは陸地なので、

踏破を試みる者は洋の東西に関わらずいた。

多大な費用と年月、人員で彼等は挑む。

結果、到達し、獣道に近いルートが拓かれた。

「吟遊詩人から覚えました。

ただ、言葉が通じないので身振り手振りです。

それが何語かまでは分かりません」


 外国との交流は貿易に限られていた。

財力のある商会が組してルートを拡張、途中に中継地を置き、

年に何度もキャラバンを送り込んで来た。

そのキャラバンに相乗りする形で、旅人等が我が国に入国した。

当然、吟遊詩人も含まれていた。

「外から来た吟遊詩人が、あの辺りまで流れるの」

 確かにうちの村は僻地だ。

でも昔から特産品があった。

馬車と牛馬、そして三河大湿原で獲れるミカワサイ等の部位。

そう馬鹿にしたものではない。

「何故か来るんです。

正確には流れて来る、ですね。

そういえば、彼等はマジックバッグを所持していた様な気がします。

今から思えば、ミカワワニやミカワサイ等の部位を、

楽器用として確保しに来たのかも知れません」

 完璧だ。

ミカワワニやミカワサイは魔物ではないが、

魔物と互角に戦える力を有しているので、

その部位は優良品としての地位を確立していた。

見ると、ピアノ教師が大いに頷いているではないか。

楽器用でもあるらしい。

俺の設定が通用した。


 ベティ様が納得したのか、納得していないのか、それは知らない。

頭を軽く捻って言われた。

「まあ、良いでしょう。

少佐、後の話を任せるわ」

 カトリーヌ明石少佐に委ね、当人はイヴ様を抱かれると、

ソファーに腰を下ろされた。

侍女に注文をなされた。

「珈琲を頂戴」


 カトリーヌが私の方へ歩み寄って来た。

「意外で驚きました」

「それはこちらもです。

久しぶりで、指が痛いですね」

「また機会がありましたら、お聞かせください」

「承知しました」

 カトリーヌが一枚の紙切れを差し出し、本題に入った。

「これが見積りです」

 俺はそれを見て驚いた。

破損品なのに大した金額だ。

「凄いですね」

「鑑定でドラゴンと分かりました。

破損していた物は鱗、赤い液体は血液でした。

ただ、邪龍であるとも分りました。

それで買い取る前に浄化する必要がある、そういう結論にも達しました。

破損した鱗と血液の浄化は当方の魔導師だけでは足りないので、

神社や教会の術者の手を借りて完全に浄化します。

邪龍である事とその浄化費用とで、金額が大幅に引き下げられました。

了解頂けますか」

 

 俺の後ろに興味津々の子供組が集まって来た。

キャロル、マーリン、モニカ、シェリル。

なので俺は紙切れをシェリルに手渡した。

侯爵家の娘とは思えぬ声が漏れた。

「げっ、ええっ、凄い金額ね」

 残り三人がシェリルに圧し掛かる様に群がった。

「見せて、見せて」

「うわー」

「丸が多過ぎ」


 俺はシンシア達大人組を見た。

シンシアとルース、シビル、ボニー。

視線を合わせると、誰もが頷いた。

なら問題はない。

「了承します」

「そう、良かったわ」

 と、近衛と国軍の魔導師とそれぞれの副官を合わせた四人が動いた。

一斉に踵を合わせ、ベティ様に低頭して一礼。

直ぐに踵を返した。

フロアから出て行く。

それを見送りながら、カトリーヌが説明した。

「シンシア殿に地図を書いて貰ったので、早速その現場に向かうそうよ。

何か残り物でもあれば良いけど」

 アリスが掃除済みなので期待は持てない。

「あれば良いですね」

「それでこのお金はどうします」

 大金だ。

さてどうする。

ああ、あれがあった。

俺はまず皆に確認を取った。

「僕達は冒険者だよね」

 皆は顔を見合わせ、頭に疑問符を浮かべながら頷いた。

俺は続けた。

「だから冒険をしよう」


 俺を除いた八人が相談を始めた。

「あのお金で冒険をするのかしら」

「大金よね」

「子供には持たせられない大金ね」

「ダンに任せて大丈夫なの」

「不安しかないわ」

「あの子、こんな大金使った事あるのかしら」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ