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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
292/373

(伯爵)2

 イヴ様はまだ四才。

低いMPにも関わらず、スキルが生えていた。

土魔法。

それも大地魔法に進化する可能性を秘めたもの。

そのイヴ様が意識してかどうかは知らないが、

ピアノに魔力を染み込ませていた。

 土魔法は土だけでなく、草木とも相性が良い。

木製品のピアノは当然、イヴ様の魔力を受け入れた。

全く反発しない。

運指どうのこうのではなく、弾き手の意志に寄り添う気配が感じ取れた。

そしてそれが音色に表れた。

結果、イヴ様のスキルにピアノが加わった。


 ピアノ教師が言う。

「それですよ、それ。

イヴ様、ピアノと友達になれましたよ」

 やはり運指だけでなく、土魔法によるピアノへの干渉も教えていた。

自分の風魔法の経験を応用したとはいえ大したものだ。

物の見事にスキルに昇華させたのだから。

「ほんとうに友達になれたのね」

「そうですよ。

お疲れ様でした。

お茶にしましょう。

姫様のお友達も来てらっしゃいますから、ご一緒に」


 俺達を見たイヴ様の顔が弾けた。

天使の笑顔。

駆けて来る。

その視線が俺に向けられていた。

意味する事は分る。

俺はソファーから腰を上げた。

二歩ほど前に出て、腰を下ろした。

両手を前に差し出し、身体強化した。

 イヴ様が躊躇いなくダイブした。

それを俺は掬い上げる様に受けた。

姫様にする行為ではないが、会う度の恒例行事なので誰も驚かない。

違った、ピアノ教師から悲鳴が聞こえた。

俺は彼女に軽く頷き、イヴ様を操作した。

立ち上がりながら右手で支え、左手を忙しく働かせた。

クルリ、クルリと二転、三転させた。

頭上から喜ぶ声。


 締めが大事。

今日は新しい形にした。

キモは落す感じ、そして一旦、途中で止めた。

姫様の声が止んだ。

訝しむ感触。

俺は無視して、姫様を両足でスッとソファーに着地させた。

「おおー」とイヴ様。

 喜んで頂けたようだ。

臣としては嬉しい限り。


 姫様付きの侍女が姫様を抱き上げた。

「あちらを」

 別の侍女が姫様専用の椅子を持って来た。

「こちらへ」

 もう一人がハンカチで、椅子に腰掛けた姫様の額を拭いた。

汗汗していないと思うのだが、それが役目なのだろう。

「お疲れ様です」

 もう一人がジュースを運んで来た。

「ご希望通り冷たいですよ」


 ジュースを一口飲んだイヴ様が俺を振り返った。

「ニャ~ン、どうだった」

「上手いですね。

このままピアニストになりますか」

「フッフフ、ところでニャンは何か出来るの」

 ここで退いたら、詰まらない奴だ。

空気を壊す、大災害。

大事なのは、付き合い。

目の前の幼女を満足させるには・・・。

軽く頭を捻って答えた。

「少々」

 

 俺は椅子一つを持ってフロアの真ん中に移動した。

腰を下ろして、失敗に備えて言い訳した。

「久しぶりなので、腕が鈍っているかも知れません」

 手元の楽器は一つだけ。

肩掛けバッグ経由で虚空からギターを取り出した。

手作り逸品のアコースティックギター。 

スティール弦、六弦。

このギターは前のダンジョンマスターの遺品だ。

たぶん、彼も俺と同時代の人間だったのかも知れない。

 手の平の中で、錬金でそっとピックを造った。

フィンガータイプで親指、人指し指、中指。

小さな物なので誰にも気付かれない筈だ。

完成品を右手の指に付けて、左手をネックに添えた。

弦の感触は、ゆるゆる。

チューニングからだ。


 耳を傾け、一弦、一弦を爪弾き、調整した。

六弦なので手間は掛からない。

でも、音程が合ってるかどうかは別。

自分の音感と世間の音感が違う場合は多々にしてある。

覚えているコードを弾いて、まず自分の耳で確認するしかない。

 サムピックで試しにジャラ~ン。

ああ、久しぶり。

自分としてはグッジョブなのだが、他人の耳はどうなんだろう。

それでピアノ教師を見た。

すると彼女は理解したらしい。

「相手が玄人なら詰めが甘いと言うしかありません。

でも貴方は素人でしょう」

「はい、立派な素人です」

「結構です。

素人にしても点数は付けられます。

六十点。

それでやっても構わないでしょう」


 虚空のカポタストを確認した。

すると赤色と黄色、緑色があった。

赤カポを取り出してネックに装着した。

準備は終えた。

そこで場の空気に気付いた。

物音が一つもしない。

こういうのを、静寂に包まれたと言うのだろう。

怖い。

 皆を見回した。

当然だが、全ての視線が俺に集まっていた。

期待する目色ばかり。

ますます怖い。


 イヴ様から声が掛けられた。

「ニャン、聞かせて」


 俺は出だしのコードを押さえた。

指慣らしの曲。

前世のヒット曲だ。

『ウインドウショッピングブギウギ』。

難波から転勤して来た女の子が、ニューヨークを歩き回り、

ボロカスに馬鹿にする歌。

 途中で指の痛みに気付いた。

だよな。

そうなるよな。

そこで身体強化、両手の指先のみをちょいと剛化した。

イメージはゴム的な感じ。

ああ、良い感じ。

ついでだ、歌も付けよう。

直訳の英語で。

付け焼き刃だけど、誰からもクレームはないだろう。


 終わると大拍手。

イヴ様から注文が入った。

「もっと聞かせて」

 そう言われては引き下がれない。

やっちゃえ。

二曲目はギター教本の定番曲。

『サイガー』というデュオの『ボクサーからの卒業』。

勿論、英語で。

音色に干渉しよう。

左手に土魔法を重ね掛けした。

 三曲目は『カーターズ』という兄妹デュエットの曲『カレンの誓い』。

この三曲目にして、脳内モニターに文字が走った。

「新たなスキルを獲得しました。

ギター☆」

 演技もあった。

ここでギターが来た。

はて、俺は何を目指しているんだろう。 

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