(伯爵)2
イヴ様はまだ四才。
低いMPにも関わらず、スキルが生えていた。
土魔法。
それも大地魔法に進化する可能性を秘めたもの。
そのイヴ様が意識してかどうかは知らないが、
ピアノに魔力を染み込ませていた。
土魔法は土だけでなく、草木とも相性が良い。
木製品のピアノは当然、イヴ様の魔力を受け入れた。
全く反発しない。
運指どうのこうのではなく、弾き手の意志に寄り添う気配が感じ取れた。
そしてそれが音色に表れた。
結果、イヴ様のスキルにピアノが加わった。
ピアノ教師が言う。
「それですよ、それ。
イヴ様、ピアノと友達になれましたよ」
やはり運指だけでなく、土魔法によるピアノへの干渉も教えていた。
自分の風魔法の経験を応用したとはいえ大したものだ。
物の見事にスキルに昇華させたのだから。
「ほんとうに友達になれたのね」
「そうですよ。
お疲れ様でした。
お茶にしましょう。
姫様のお友達も来てらっしゃいますから、ご一緒に」
俺達を見たイヴ様の顔が弾けた。
天使の笑顔。
駆けて来る。
その視線が俺に向けられていた。
意味する事は分る。
俺はソファーから腰を上げた。
二歩ほど前に出て、腰を下ろした。
両手を前に差し出し、身体強化した。
イヴ様が躊躇いなくダイブした。
それを俺は掬い上げる様に受けた。
姫様にする行為ではないが、会う度の恒例行事なので誰も驚かない。
違った、ピアノ教師から悲鳴が聞こえた。
俺は彼女に軽く頷き、イヴ様を操作した。
立ち上がりながら右手で支え、左手を忙しく働かせた。
クルリ、クルリと二転、三転させた。
頭上から喜ぶ声。
締めが大事。
今日は新しい形にした。
キモは落す感じ、そして一旦、途中で止めた。
姫様の声が止んだ。
訝しむ感触。
俺は無視して、姫様を両足でスッとソファーに着地させた。
「おおー」とイヴ様。
喜んで頂けたようだ。
臣としては嬉しい限り。
姫様付きの侍女が姫様を抱き上げた。
「あちらを」
別の侍女が姫様専用の椅子を持って来た。
「こちらへ」
もう一人がハンカチで、椅子に腰掛けた姫様の額を拭いた。
汗汗していないと思うのだが、それが役目なのだろう。
「お疲れ様です」
もう一人がジュースを運んで来た。
「ご希望通り冷たいですよ」
ジュースを一口飲んだイヴ様が俺を振り返った。
「ニャ~ン、どうだった」
「上手いですね。
このままピアニストになりますか」
「フッフフ、ところでニャンは何か出来るの」
ここで退いたら、詰まらない奴だ。
空気を壊す、大災害。
大事なのは、付き合い。
目の前の幼女を満足させるには・・・。
軽く頭を捻って答えた。
「少々」
俺は椅子一つを持ってフロアの真ん中に移動した。
腰を下ろして、失敗に備えて言い訳した。
「久しぶりなので、腕が鈍っているかも知れません」
手元の楽器は一つだけ。
肩掛けバッグ経由で虚空からギターを取り出した。
手作り逸品のアコースティックギター。
スティール弦、六弦。
このギターは前のダンジョンマスターの遺品だ。
たぶん、彼も俺と同時代の人間だったのかも知れない。
手の平の中で、錬金でそっとピックを造った。
フィンガータイプで親指、人指し指、中指。
小さな物なので誰にも気付かれない筈だ。
完成品を右手の指に付けて、左手をネックに添えた。
弦の感触は、ゆるゆる。
チューニングからだ。
耳を傾け、一弦、一弦を爪弾き、調整した。
六弦なので手間は掛からない。
でも、音程が合ってるかどうかは別。
自分の音感と世間の音感が違う場合は多々にしてある。
覚えているコードを弾いて、まず自分の耳で確認するしかない。
サムピックで試しにジャラ~ン。
ああ、久しぶり。
自分としてはグッジョブなのだが、他人の耳はどうなんだろう。
それでピアノ教師を見た。
すると彼女は理解したらしい。
「相手が玄人なら詰めが甘いと言うしかありません。
でも貴方は素人でしょう」
「はい、立派な素人です」
「結構です。
素人にしても点数は付けられます。
六十点。
それでやっても構わないでしょう」
虚空のカポタストを確認した。
すると赤色と黄色、緑色があった。
赤カポを取り出してネックに装着した。
準備は終えた。
そこで場の空気に気付いた。
物音が一つもしない。
こういうのを、静寂に包まれたと言うのだろう。
怖い。
皆を見回した。
当然だが、全ての視線が俺に集まっていた。
期待する目色ばかり。
ますます怖い。
イヴ様から声が掛けられた。
「ニャン、聞かせて」
俺は出だしのコードを押さえた。
指慣らしの曲。
前世のヒット曲だ。
『ウインドウショッピングブギウギ』。
難波から転勤して来た女の子が、ニューヨークを歩き回り、
ボロカスに馬鹿にする歌。
途中で指の痛みに気付いた。
だよな。
そうなるよな。
そこで身体強化、両手の指先のみをちょいと剛化した。
イメージはゴム的な感じ。
ああ、良い感じ。
ついでだ、歌も付けよう。
直訳の英語で。
付け焼き刃だけど、誰からもクレームはないだろう。
終わると大拍手。
イヴ様から注文が入った。
「もっと聞かせて」
そう言われては引き下がれない。
やっちゃえ。
二曲目はギター教本の定番曲。
『サイガー』というデュオの『ボクサーからの卒業』。
勿論、英語で。
音色に干渉しよう。
左手に土魔法を重ね掛けした。
三曲目は『カーターズ』という兄妹デュエットの曲『カレンの誓い』。
この三曲目にして、脳内モニターに文字が走った。
「新たなスキルを獲得しました。
ギター☆」
演技もあった。
ここでギターが来た。
はて、俺は何を目指しているんだろう。




