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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
291/373

(伯爵)1

 それぞれがステータスの開示に手間取った。

それでも一人も諦めずに挑む。

まずボニーの表情が変化した。

「取得していますお嬢様」

「よかったわねボニー」

 そしてシェリルにマーリン、モニカ、キャロルと喜びを爆発させた。

あまりの喜び様に周囲の注目を浴びてしまった。

疑問を持ったのか、複数の者達がこちらへ足を延ばす。

なんて欲深い。

まあ、人の事は言えない。

問題はクリアされつつある。

アリスが奮闘し、鱗や血液の回収に走り回っているからだ。

 アリスは本来の透明化に加えて光体をも利用しているで、

魔力の漏れもない。

その姿はランクやレベルの低い者に見る事は叶わない。

この速度なら、直に終了する。

彼等は何も手に出来ない筈だ。


 俺達は待機してる馬車の所へ戻った。

そこで入手した物の処理に付いて話し合った。

「これは冒険者ギルドや商人ギルドでは買い取りは無理だと思う」

 シンシアが応じた。

「これがドラゴンの物だとしたら、高価過ぎるわね」

「鑑定では何と」

「明らかにレベルが違うわね。

だから名前も数値も出ないわ」

 ルースが提案した。

「錬金ギルドか、薬師ギルドは」

 シビルが却下した。

「そこも駄目でしょう。

ねえダン、王宮はどうかしら」


 俺達は一旦、屋敷に戻った。

ライトクリーンで身体は身綺麗にしたが、それだけでは不満と言われた。

主に女子組が。

風呂に入って洗わないと満足しない、そうも言われた。

なんて贅沢な、まあ、目を瞑ろう、女子だから。

王宮に行くのだから着替える必要もあるし。

賑々しく女子組が風呂に向かった。


 着替えてから軽く食事した。

そんな急ぐ必要はない。

イヴ様も昼寝するので、起きる時刻に合わせれば良いのだ。


 俺達は予定通りの刻限に王宮を訪れた。

イヴ様の遊び相手としてだ。

案内は何時もの様にカトリーヌ明石少佐。

昇進しても、この役目は付いて回るらしい。

嫌な顔一つせずに、内郭の南門で待っていてくれた。

「ようこそ」

 手続きは既にカトリーヌが済ませていた。

そのカトリーヌに俺は商取引を持ち掛けた。

商品は今朝の取得物だ。

鱗の破片に血液と説明した。

それにカトリーヌが驚いた。

「なんと、噂は聞いています。

ここからは見えなかったので、声だけの判断になりますが、

誰もがドラゴンだと申しておりました。

私もそれに同意します。

ぜひ、近衛にお売りください。

ただ、物が物ですので、近衛魔導師が鑑定いたします。

それで宜しいですね」


 カトリーヌは配下の近衛兵を走らせた。

一人は近衛の司令部へ。

もう一人は王妃様の元へ。

それを見送りながら、カトリーヌが改まった口調で俺に告げた。

「子爵様、近々、新たな人事が布告されます。

お楽しみに」

「えっ」

 ということは、俺も含まれるのか。

お楽しみというよりも、成人せぬ者に何をさせるのだ。

不安しかない。

俺は率直に尋ねた。

「そこを詳しく」

「そこまでは申せません。

ただ、お楽しみにとしか」


俺達は馬車のまま、イヴ様が持つ場所へ案内された。

そこは意外な所だった。

王宮本館の傍の建物。

庭ではなく、廊下を一階奥のフロアへ。

音が聞こえて来た。

ピアノ。

カトリーヌが説明した。

「イヴ様は新しく音楽の授業を開始されました。

手始めはピアノです」

 ピアノは高価過ぎるのと、運搬と維持管理の問題があるので、

一般にはそう広まっていない。

高位貴族がオーナーの楽団か、大人気楽団くらいのもの。


 フロアの真ん中でイヴ様が一際小振りなピアノを弾いていた。

特注品なのだろう。

音が綺麗だ。

イヴ様の演奏は、所々で乱れがあるが、許容範囲。

というか、指導が良いのか、本人に素養があるのか、判断に迷う。


 俺達は授業中を配慮して、フロア片隅のソファーに腰を下ろした。

イヴ様付きの侍女が俺達に飲み物とお茶菓子を運んで来た。

「姫様は集中されると、他の物が目にも耳にも入らないのです。

もう暫くお待ち下さい」声を潜めて説明した。

 その通り。

イヴ様が俺達には気付いた様子はない。

全身全霊でピアノに向かっていた。

教師の声と、自分の演奏しか、今は関心がないのだろう。


 フロアに新たな魔力が接近して来た。

俺は用心してフロア伝いに鑑定した。

五名。

先頭はカトリーヌ配下の近衛兵。

付いて来るのは近衛魔導師とその副官。

残り二名は意外な者達。

国軍魔導師とその副官。

その組み合わせに驚いていると、案内の近衛兵が説明した。

こちらの話を聞いた魔導師が国軍の魔導師を誘った、と。

カトリーヌが苦虫を嚙み潰した様な声。

「お人好しにも程がある」演奏の邪魔にならぬ声量。

 俺にとっては好都合だった。

近衛と国軍の魔導師が二人揃って俺の鑑定に気付かない。

それを知れたのは好都合だ。


 カトリーヌがシンシアに囁いた。

「商取引は隣の部屋で行いましょう」

「ええ、ここでは邪魔になりますものね」

 シンシアとルース、シビル、ボニーの大人組が頷いた。

こちらの取得物は大人組のマジッバッグに移し替え済み。

商取引は子供組抜きで進めるつもりで、そうした。

音を立てずに関係者が全員、隣の部屋へ移動した。


 シェリルが俺に囁いた。

教えているのは街で人気の楽団のピアニストだと。

魔法学園の出身者で、

風魔法を活用してピアノの音色に干渉しているのだそうだ。

 よく分からないので、鑑定して調べた。

確かに。

ピアノに魔水晶が組み込んで有るとばかり思っていたが、違った。

ほんの微量の魔力を感じ取った。

イヴ様からピアノに染み込んで行く。

身体強化の応用で、弦に何らかの影響を与えているのだが、

その深い所は分からない。

まるで手品師だ。

種がさっぱり分からないのだ。

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