(伯爵)1
それぞれがステータスの開示に手間取った。
それでも一人も諦めずに挑む。
まずボニーの表情が変化した。
「取得していますお嬢様」
「よかったわねボニー」
そしてシェリルにマーリン、モニカ、キャロルと喜びを爆発させた。
あまりの喜び様に周囲の注目を浴びてしまった。
疑問を持ったのか、複数の者達がこちらへ足を延ばす。
なんて欲深い。
まあ、人の事は言えない。
問題はクリアされつつある。
アリスが奮闘し、鱗や血液の回収に走り回っているからだ。
アリスは本来の透明化に加えて光体をも利用しているで、
魔力の漏れもない。
その姿はランクやレベルの低い者に見る事は叶わない。
この速度なら、直に終了する。
彼等は何も手に出来ない筈だ。
俺達は待機してる馬車の所へ戻った。
そこで入手した物の処理に付いて話し合った。
「これは冒険者ギルドや商人ギルドでは買い取りは無理だと思う」
シンシアが応じた。
「これがドラゴンの物だとしたら、高価過ぎるわね」
「鑑定では何と」
「明らかにレベルが違うわね。
だから名前も数値も出ないわ」
ルースが提案した。
「錬金ギルドか、薬師ギルドは」
シビルが却下した。
「そこも駄目でしょう。
ねえダン、王宮はどうかしら」
俺達は一旦、屋敷に戻った。
ライトクリーンで身体は身綺麗にしたが、それだけでは不満と言われた。
主に女子組が。
風呂に入って洗わないと満足しない、そうも言われた。
なんて贅沢な、まあ、目を瞑ろう、女子だから。
王宮に行くのだから着替える必要もあるし。
賑々しく女子組が風呂に向かった。
着替えてから軽く食事した。
そんな急ぐ必要はない。
イヴ様も昼寝するので、起きる時刻に合わせれば良いのだ。
俺達は予定通りの刻限に王宮を訪れた。
イヴ様の遊び相手としてだ。
案内は何時もの様にカトリーヌ明石少佐。
昇進しても、この役目は付いて回るらしい。
嫌な顔一つせずに、内郭の南門で待っていてくれた。
「ようこそ」
手続きは既にカトリーヌが済ませていた。
そのカトリーヌに俺は商取引を持ち掛けた。
商品は今朝の取得物だ。
鱗の破片に血液と説明した。
それにカトリーヌが驚いた。
「なんと、噂は聞いています。
ここからは見えなかったので、声だけの判断になりますが、
誰もがドラゴンだと申しておりました。
私もそれに同意します。
ぜひ、近衛にお売りください。
ただ、物が物ですので、近衛魔導師が鑑定いたします。
それで宜しいですね」
カトリーヌは配下の近衛兵を走らせた。
一人は近衛の司令部へ。
もう一人は王妃様の元へ。
それを見送りながら、カトリーヌが改まった口調で俺に告げた。
「子爵様、近々、新たな人事が布告されます。
お楽しみに」
「えっ」
ということは、俺も含まれるのか。
お楽しみというよりも、成人せぬ者に何をさせるのだ。
不安しかない。
俺は率直に尋ねた。
「そこを詳しく」
「そこまでは申せません。
ただ、お楽しみにとしか」
俺達は馬車のまま、イヴ様が持つ場所へ案内された。
そこは意外な所だった。
王宮本館の傍の建物。
庭ではなく、廊下を一階奥のフロアへ。
音が聞こえて来た。
ピアノ。
カトリーヌが説明した。
「イヴ様は新しく音楽の授業を開始されました。
手始めはピアノです」
ピアノは高価過ぎるのと、運搬と維持管理の問題があるので、
一般にはそう広まっていない。
高位貴族がオーナーの楽団か、大人気楽団くらいのもの。
フロアの真ん中でイヴ様が一際小振りなピアノを弾いていた。
特注品なのだろう。
音が綺麗だ。
イヴ様の演奏は、所々で乱れがあるが、許容範囲。
というか、指導が良いのか、本人に素養があるのか、判断に迷う。
俺達は授業中を配慮して、フロア片隅のソファーに腰を下ろした。
イヴ様付きの侍女が俺達に飲み物とお茶菓子を運んで来た。
「姫様は集中されると、他の物が目にも耳にも入らないのです。
もう暫くお待ち下さい」声を潜めて説明した。
その通り。
イヴ様が俺達には気付いた様子はない。
全身全霊でピアノに向かっていた。
教師の声と、自分の演奏しか、今は関心がないのだろう。
フロアに新たな魔力が接近して来た。
俺は用心してフロア伝いに鑑定した。
五名。
先頭はカトリーヌ配下の近衛兵。
付いて来るのは近衛魔導師とその副官。
残り二名は意外な者達。
国軍魔導師とその副官。
その組み合わせに驚いていると、案内の近衛兵が説明した。
こちらの話を聞いた魔導師が国軍の魔導師を誘った、と。
カトリーヌが苦虫を嚙み潰した様な声。
「お人好しにも程がある」演奏の邪魔にならぬ声量。
俺にとっては好都合だった。
近衛と国軍の魔導師が二人揃って俺の鑑定に気付かない。
それを知れたのは好都合だ。
カトリーヌがシンシアに囁いた。
「商取引は隣の部屋で行いましょう」
「ええ、ここでは邪魔になりますものね」
シンシアとルース、シビル、ボニーの大人組が頷いた。
こちらの取得物は大人組のマジッバッグに移し替え済み。
商取引は子供組抜きで進めるつもりで、そうした。
音を立てずに関係者が全員、隣の部屋へ移動した。
シェリルが俺に囁いた。
教えているのは街で人気の楽団のピアニストだと。
魔法学園の出身者で、
風魔法を活用してピアノの音色に干渉しているのだそうだ。
よく分からないので、鑑定して調べた。
確かに。
ピアノに魔水晶が組み込んで有るとばかり思っていたが、違った。
ほんの微量の魔力を感じ取った。
イヴ様からピアノに染み込んで行く。
身体強化の応用で、弦に何らかの影響を与えているのだが、
その深い所は分からない。
まるで手品師だ。
種がさっぱり分からないのだ。




