(大乱)81
この場合、俺が取るべき最善手は。
忖度、だよね。
領地から届けられた竹筒を王妃・ベティ様に差し出した。
至極当然の様に受け取る王妃様。
遠慮もしないけど、傲慢でもない。
「ダンタルニャン、先に読ませて貰うわね」感謝の目色。
封を切ると、中から書状を抜き取った。
広げて目を走らせた。
無表情を貫くが、目色は違う。
驚きと呆れの二重奏。
再読を終えると空になった竹筒と書状を俺に戻した。
「ありがとう」
俺は竹筒を執事・ダンカンに渡し、書状を読んだ。
カールらしい書き方だ。
丁寧かつ無駄がない。
読み進めながら脳内で要約した。
伯爵軍は全軍撤退した。
その理由は不明。
領内を隈なく調べて、被害を確認した。
こちらの被害は軽微なもの。
土魔法使いと領民で復旧できる。
だから、心配無用。
子爵様は学業に励んで欲しい。
念の為、領内を巡回させていた隊が伯爵らしき人物を保護した。
人物は、領都へ向かう街道の道の駅で、全裸で倒れていた。
それもたった一人で。
警護の兵も側仕えもいなかった。
まるでここに放置されたかの様。
領都で鑑定スキル持ちが、その人物を伯爵と確認した。
伯爵は身体の至る所に傷があり、昏睡状態。
ポーションと治癒魔法使いで対処したが、今もって目覚めない。
この伯爵をどうすればいいのか、兄のポールと相談して欲しい。
繰り返すが、子爵様は学業に専念すること。
こちらに来る必要はない。
カールの俺への愛が伝わって来た。
教育ママかっ。
でも表情にはしない。
大人達を見習わねば。
俺は書状をポール殿に手渡した。
流石は宮廷貴族の代名詞の様な細川子爵。
読む速度が俺とは違う。
表情すらも練達の域。
目色すらも消して、読ませない。
ポール殿は再読を終えると、それをカトリーヌに手渡した。
カトリーヌはまだ若い。
読み進むに連れて、今にも声を漏らしそうな表情を見せた。
更には時折、確認する様に前段に戻った。
王妃・ベティ様が読み終えた俺達を手招きされた。
「皆さん、腰を下ろして下さい」
パラソルの下には丁度、人数分の椅子が用意されていた。
俺に断る選択肢はない。
ポール殿に背を押される様にして一つの椅子に腰掛けた。
カトリーヌが王妃様の右隣。
ポール殿が左隣。
俺は王妃様の対面。
侍女の一人が全員にお茶を淹れてくれた。
大人三人は珈琲。
俺には紅茶。
一口で分かった。
美味過ぎた。
うちの紅茶ではない。
王室御用達に違いない。
用意周到に馬車で持参したのだろう。
王妃様が俺達をゆっくり見回された。
「対応をここで決めます」
評定衆に計ってからと思っていたのだが、外された。
ポール殿は当然とばかりに頷いた。
カトリーヌは分かり易い。
目を泳がした。
それでも反対はしない。
王妃様主導で進む話し合いに、積極的に意見を述べた。
ポール殿が政観点から意見を述べ、カトリーヌが軍人観点で補足した。
それらを基に王妃様が組み立てて行く。
俺っ、俺は当然、蚊帳の外。
耳だけ参加した。
結果、兵を出す事になった。
その日のうちに前触れの兵を領地に派遣した。
騎兵五騎に書状を持たせて送り出した。
更には翌日、領地へ向かう近衛軍にも案内の兵を出した。
こちらも騎兵五騎。
当家の国都屋敷の関与はここまで。
近衛軍は二個中隊百名。
これに医師三名、薬師三名、治癒魔法使い三名、尋問専門家五名、
計十四名が帯同した訳だが、どちらかと言えば十四名が主で、
近衛軍はその護衛という役割にしか過ぎない。
治療チームが伯爵を治療し、五体満足に、もしくは、
それに近い状態にまで回復させる。
その後を尋問チームが引き受ける。
尋問チームには、自白させる事が最優先で求められたが、
伯爵の身に関しては何も言及がなかった。
自白調書は国都に持ち帰るが、他は闇に葬られるという事なのだろう。
大人同士の暗黙の了解。
それだけ王妃様の怒りが分るというもの。
一日置いた深夜、俺の部屋にアリスとハッピーが顔を出した。
『ただいまなのだわ』
『パー、パッパラパー』
二人とも何やら機嫌が良い。
『お帰り。
何か掴んだのかい』
『当然でしょう。
この私よ、何でも出来るわ』
『ピー、ピークル、ピークル』
アリスがハッピーを睨み付けた。
『私のお手柄でしょうよ』
『プー、ボクだよ、ボク~』
何かがあったらしい。
進展か・・・。
『ペー、アリスがね、見つかったの』
『違うでしょう』
訳を聞いて呆れた。
尾行した連中の拠点は把握した。
国都外郭西区画のパム・ペインの商会。
同じくクリトリー・ハニーの商会。
同じくジイラール教団が教会としている建物、外観は倉庫。
アリスはより深く偵察しようとしてジイラール教団建物に侵入した。
そこで鑑定スキル持ちに感付かれた。
「何かいるぞ。
これは侵入者だ。
全員起きろ、侵入者を捕えろ」
外観は倉庫ではあるが、暗殺教団の巣窟。
練達の術者が大勢、寝起きしていた。
彼等は目を覚ますと、侵入者探しに躍起になった。
対してアリスは逃げない。
ランクがAクラスなので、余裕で逃げられるのだが、反撃した。
好んで反撃したと言っても過言ではない。
得意の風魔法で倉庫のあちらこちらに穴を開けた。
それで引き上げた。
「人は殺してないわよ」
堂々と胸を張った。




