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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
279/373

(大乱)80

 俺は興味から馬車の中のブライアンを鑑定した。

そのスキルに驚いた。

騎士爵。

ランク、C。

HP、110。

MP、80。

スキル、剣士☆☆☆、縫製☆☆☆。

 ブライアン明智は細川子爵家に代々仕える執事家に生まれた。

文官仕事は当然ながら、武官として剣士スキルを活かし、

文武両道で子爵家を支えていた。

それが縫製スキル持ちだというのだ。

まさしく便利使いが出来る人材だ。


 流石はスキル持ち。

それほど時間はかからなかった。

明るい顔でブライアンが馬車から降りて来た。

バックパックを恭しく俺に差し出した。

「どうでしょうか」

 俺の持ち物だから検分は当然だろう。

王妃様を差し置いて改めた。

強度も剛性も問題ない。

否、それ以上だ。

足された革と布はブライアン手持ちの部材なのだろう。

それが上手く組み合わされていた。

バックパックが優しい背負子に、ベビーキャリアに改造されていた。

これならイヴ様四才児を入れても余裕で耐えられる。

「驚きました、これがスキルの技ですか。

小銀貨で買った物が小金貨に化けましたね」

 ブライアンが照れ笑い。

「そこまで褒められますと、こそばゆいですね。

でも、自信はあります。

イヴ様を入れても、破れも壊れもしません」

 この遣り取りをイヴ様が嬉しそうな顔で見上げていた。


 褒めてから気付いた。

足を出す為に開けた部分が、ちょっと広い。

足の可動域が広いと言うべきかな。

それを指摘すると、予想外の答え。

イヴ様を憚っているのか、そっと耳打ちされた。

「イヴ様の性格からすると、背中では満足されないでしょう。

余計な事かも知れませんが、胸元でも使えるようにしました」

 出来る男は違う。

当人の性格まで読んでいた。


 俺はベビーキャリアを王妃様ではなく、カトリーヌ明石少佐に手渡した。

軍人だから装備品には詳しい筈だ。

ついでにブライアンから耳打ちされた危惧も伝えた。

勿論、イヴ様に聞こえぬ様に、こちらも耳打ちした。

受け取ったカトリーヌは苦笑いし、念入りに調べた。

「解れの一つもありませんね。

それにしてもブライアン殿が縫製スキル持ちで、これ程だとは。

私の嫁に欲しいですね」

 ブライアンより先にポール殿が反応した。

呆れたとでもいう表情。

「貴女の嫁にはさせません。

この服もそうですが、私の着る物は全てブライアンの手作りです。

そのブライアンを取られたら私は着る物に困ります。

王宮に裸で出仕しろとでも言うつもりですか。

ねえ、カトリーヌ殿」

「失礼しました、撤回します」

 ブライアンがカトリーヌに言う。

「私奴の為に有り難いお言葉、感謝申し上げます」


 カトリーヌはポール殿に詫びて、王妃様にベビーキャリアを差し出した。

「問題ありません」

 その際、何事か耳打ちした。

それに王妃様は笑顔で頷かれた。

「その懸念は正しいわね」

 王妃様はベビーキャリアの確認を終えると、視線を転じた。

「イライザ、こちらに来なさい」

 言葉に硬直するイライザ。

その頭をチョンボが甘噛みした。


 カトリーヌがベビーキャリアを受け取り、イライザの背中に着装した。

要所要所を引っ張り、確認作業。

「どうかしら、緩い所はない」

「ございません」

「痛い所は」

「それもございません」

 そんなカトリーヌの足下にイヴ様が駆け寄られた。

「のりたい」

 逆らえない。

「はい」

 カトリーヌはイヴ様を抱きかかえてベビーキャリアに入れた。

するとイヴ様が不満を述べられた。

「イライザのあたまがじゃまだわ。

どうにかして」

 ブライアンの読みが正しかった。

ベビーキャリアは一旦外され、胸元に再装着された。

イヴ様も前向きに乗せられた。

子育ての経験のないイライザだが、勘は良い。

直ぐに身体強化してバランスを取った。


 俺はチョンボにも分る様にイライザに注意点を述べた。

「飛ぶ範囲は皆の目が届く庭の上だけ。

高さは大人の手が届く所まで。

早さは求めない、ユルユルで。

分かった」

「はい」

 王妃様が口を出された。

「イヴの我儘は無視してね」


 風魔法が起動した。

チョンボだ。

一声上げて助走を開始した。

「グッチョー」

 次第に速度を上げて行く。

速度が上がり切ったところで姿勢を低くし、大きな声を上げた。

「ゲッチュ、ゲッチュー」

 間髪入れずに浮き上がった。

イヴ様が黄色い声を上げられた。

「キャッ、キャー、とんだ、とんだ、とんだわ」

 庭の上限定なので、五周もするとイヴ様は飽きられた。

両手を振り回してチョンボに命じた。

「もっとうえをとぶのよ。

おそらよ、おそらをとぶのよ」

 チョンボも上へ飛び上がりたい様子だが、その度に動きが鈍る。

イライザが念話で制止しているようだ。


 幼女とチョンボ、そしてイライザ、その戦いの決着は意外な形で付いた。

幼女が睡魔に負けたのだ。

幼女をお付きの侍女が受け取り、パラソルの方へ運んで行く。


 何やら表門が騒がしい。

近衛兵がとある一行を案内して、中に招き入れた。

見覚えのある五名と五頭。

当家が美濃に送り出した偵察ではないか。

その五名が馬を牽いて、こちらに向かって来た。

 こちらから小隊長のウィリアムが飛び出した。

五名に駆け寄り、声を掛けた。

何度か遣り取りの末、竹筒がウィリアムに手渡された。


 竹筒を手にしたウィリアムが俺の方へ駆けて来た。

「美濃のカール殿からの書状です」

 竹筒が手渡された。

封は切られていない。

その封を切る前にウィリアムが口にした。

「美濃の寄親伯爵様を捕えたそうです。

委細は書状に」

 アレックス斎藤伯爵が捕えられた・・・。

道の駅に全裸で放置したアレが・・・。

死ぬ寸前ではなかったのか・・・。


 近くには王妃様は無論、カトリーヌやポール殿等が居合わせた。

全員にウィリアムの声が聞こえたようだ。

どよめきが起きた。

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