(大乱)80
俺は興味から馬車の中のブライアンを鑑定した。
そのスキルに驚いた。
騎士爵。
ランク、C。
HP、110。
MP、80。
スキル、剣士☆☆☆、縫製☆☆☆。
ブライアン明智は細川子爵家に代々仕える執事家に生まれた。
文官仕事は当然ながら、武官として剣士スキルを活かし、
文武両道で子爵家を支えていた。
それが縫製スキル持ちだというのだ。
まさしく便利使いが出来る人材だ。
流石はスキル持ち。
それほど時間はかからなかった。
明るい顔でブライアンが馬車から降りて来た。
バックパックを恭しく俺に差し出した。
「どうでしょうか」
俺の持ち物だから検分は当然だろう。
王妃様を差し置いて改めた。
強度も剛性も問題ない。
否、それ以上だ。
足された革と布はブライアン手持ちの部材なのだろう。
それが上手く組み合わされていた。
バックパックが優しい背負子に、ベビーキャリアに改造されていた。
これならイヴ様四才児を入れても余裕で耐えられる。
「驚きました、これがスキルの技ですか。
小銀貨で買った物が小金貨に化けましたね」
ブライアンが照れ笑い。
「そこまで褒められますと、こそばゆいですね。
でも、自信はあります。
イヴ様を入れても、破れも壊れもしません」
この遣り取りをイヴ様が嬉しそうな顔で見上げていた。
褒めてから気付いた。
足を出す為に開けた部分が、ちょっと広い。
足の可動域が広いと言うべきかな。
それを指摘すると、予想外の答え。
イヴ様を憚っているのか、そっと耳打ちされた。
「イヴ様の性格からすると、背中では満足されないでしょう。
余計な事かも知れませんが、胸元でも使えるようにしました」
出来る男は違う。
当人の性格まで読んでいた。
俺はベビーキャリアを王妃様ではなく、カトリーヌ明石少佐に手渡した。
軍人だから装備品には詳しい筈だ。
ついでにブライアンから耳打ちされた危惧も伝えた。
勿論、イヴ様に聞こえぬ様に、こちらも耳打ちした。
受け取ったカトリーヌは苦笑いし、念入りに調べた。
「解れの一つもありませんね。
それにしてもブライアン殿が縫製スキル持ちで、これ程だとは。
私の嫁に欲しいですね」
ブライアンより先にポール殿が反応した。
呆れたとでもいう表情。
「貴女の嫁にはさせません。
この服もそうですが、私の着る物は全てブライアンの手作りです。
そのブライアンを取られたら私は着る物に困ります。
王宮に裸で出仕しろとでも言うつもりですか。
ねえ、カトリーヌ殿」
「失礼しました、撤回します」
ブライアンがカトリーヌに言う。
「私奴の為に有り難いお言葉、感謝申し上げます」
カトリーヌはポール殿に詫びて、王妃様にベビーキャリアを差し出した。
「問題ありません」
その際、何事か耳打ちした。
それに王妃様は笑顔で頷かれた。
「その懸念は正しいわね」
王妃様はベビーキャリアの確認を終えると、視線を転じた。
「イライザ、こちらに来なさい」
言葉に硬直するイライザ。
その頭をチョンボが甘噛みした。
カトリーヌがベビーキャリアを受け取り、イライザの背中に着装した。
要所要所を引っ張り、確認作業。
「どうかしら、緩い所はない」
「ございません」
「痛い所は」
「それもございません」
そんなカトリーヌの足下にイヴ様が駆け寄られた。
「のりたい」
逆らえない。
「はい」
カトリーヌはイヴ様を抱きかかえてベビーキャリアに入れた。
するとイヴ様が不満を述べられた。
「イライザのあたまがじゃまだわ。
どうにかして」
ブライアンの読みが正しかった。
ベビーキャリアは一旦外され、胸元に再装着された。
イヴ様も前向きに乗せられた。
子育ての経験のないイライザだが、勘は良い。
直ぐに身体強化してバランスを取った。
俺はチョンボにも分る様にイライザに注意点を述べた。
「飛ぶ範囲は皆の目が届く庭の上だけ。
高さは大人の手が届く所まで。
早さは求めない、ユルユルで。
分かった」
「はい」
王妃様が口を出された。
「イヴの我儘は無視してね」
風魔法が起動した。
チョンボだ。
一声上げて助走を開始した。
「グッチョー」
次第に速度を上げて行く。
速度が上がり切ったところで姿勢を低くし、大きな声を上げた。
「ゲッチュ、ゲッチュー」
間髪入れずに浮き上がった。
イヴ様が黄色い声を上げられた。
「キャッ、キャー、とんだ、とんだ、とんだわ」
庭の上限定なので、五周もするとイヴ様は飽きられた。
両手を振り回してチョンボに命じた。
「もっとうえをとぶのよ。
おそらよ、おそらをとぶのよ」
チョンボも上へ飛び上がりたい様子だが、その度に動きが鈍る。
イライザが念話で制止しているようだ。
幼女とチョンボ、そしてイライザ、その戦いの決着は意外な形で付いた。
幼女が睡魔に負けたのだ。
幼女をお付きの侍女が受け取り、パラソルの方へ運んで行く。
何やら表門が騒がしい。
近衛兵がとある一行を案内して、中に招き入れた。
見覚えのある五名と五頭。
当家が美濃に送り出した偵察ではないか。
その五名が馬を牽いて、こちらに向かって来た。
こちらから小隊長のウィリアムが飛び出した。
五名に駆け寄り、声を掛けた。
何度か遣り取りの末、竹筒がウィリアムに手渡された。
竹筒を手にしたウィリアムが俺の方へ駆けて来た。
「美濃のカール殿からの書状です」
竹筒が手渡された。
封は切られていない。
その封を切る前にウィリアムが口にした。
「美濃の寄親伯爵様を捕えたそうです。
委細は書状に」
アレックス斎藤伯爵が捕えられた・・・。
道の駅に全裸で放置したアレが・・・。
死ぬ寸前ではなかったのか・・・。
近くには王妃様は無論、カトリーヌやポール殿等が居合わせた。
全員にウィリアムの声が聞こえたようだ。
どよめきが起きた。




