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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
116/373

(ダンジョンマスター)5

 五人が駆け付けて来るのが分かった。

俺はアリスと援護に向かおうとした。

ところが杞憂に終わった。

妖精は感情を昂ぶらせてはいるものの、周囲にも気を配っていた。

直ぐに対応した。

駆け付けた者達に容赦なく、壁越しに迎え撃った。

ウィンドボール、風弾。

人数分だけ壁を突き破って廊下側に消えていく。

風弾が壁を突き破る物音と命中して重なる悲鳴、倒れる物音。

致命傷を与えたかどうかは知らないが、近付く足音が途絶えた。

 アリスが壁に空けられた穴から室外に飛び出した。

廊下の左右を見回し、手持ち無沙汰気味に戻って来た。

『みんな倒してる、問題ないわ』

 妖精のリンチが続いた。

鼻血に加えて飛散する歯の欠片。

次第に小さくなる悲鳴。

ついに子爵が口から血を流しながら気を失った。

 そこで妖精は一息ついた。

倒れた子爵を見下ろし、隣でホバリングするアリスに何事か語った。

安易に頷くアリス。

妖精が止めの風弾を子爵の顔に無数撃ち込んだ。


 全てを終えた妖精が俺の傍に飛んで来た。

満足感というより苦渋の表情で俺を見上げた。

俺はその頭をくちゃくちゃ撫でまわした。

妖精から溢れる涙。

それを傍に寄りそうアリスが手で拭う。

誰も何も言わない。


 時間の経過は分からない。

アリスが妖精を伴って俺の肩に乗った。

それを確認した俺は妖精二人を光体で覆い、

光学迷彩スキルを再起動した。

驚く妖精にアリスが説明しているようだ。

 天井の穴から屋根に出た。

見下ろすと屋敷の者達が大勢、下から上を見上げて騒いでいた。

子爵や兵士達の悲鳴に恐れおののいて避難した様子。

みんながみんな、及び腰。

忠誠心、怖い者見たさ、雇用、その辺りどうなんだろう。

 光学迷彩が見破られる心配がないので、ゆっくり周辺を見回した。

前のように奉行所の者が駆け付ける様子はない。

国軍兵士の姿もない。

と、北区画方面が異様に明るい。

・・・燃えていた。

大きな炎が夕暮れの空に舞っていた。

火災だ。

『物凄いわね』アリスも驚いた。

 俺達の逃走する方向なので迷った。

それに、例の侯爵家が北区画にはある。

取り敢えずアリスに同意を得て、火災現場へ直行した。


 風魔法との連携で屋根から屋根へ飛び移った先が、

懸念した北区画の貴族街だった。

その一画が激しく燃え上がっていた。

逃げ惑う者達と押し寄せる野次馬達で押し合い圧し合い。

周囲の道路は騒然としていた。

 俺が尋ねる前にアリスが教えてくれた。

『侯爵家とは違うわね。ちょっと離れてる。

ねえ、先を急ごう』

 俺の目は現場に吸い寄せられていた。

異常なのだ。火災現場が。

敷地内のまだ燃えていない建物に火を放つ奴等。

それを阻止しようと斬り掛かる兵士達。

その兵士達に襲い掛かる武装した者達。

焼け出された使用人達までもが襲われ殺される始末。

何が起こっているのか、国都の中で。


 外壁の近くの暗がりに移動して光学迷彩を解いた。

傍でホバリングする二人を心配した。

『この先は大丈夫か』

『問題ない、問題ない』相変わらずアリスは脳天気だ。

『ダンジョンでの生活は』

『現状でも快適に過ごせる。

けど、もう少し手を入れてみるわね』

 二対四枚羽根の妖精が感謝のつもりか、

俺に飛び付いて頬にキスをし、妖精語で短く何事か言う。

意味は分からないが、何やら温かいものが伝わって来た。

俺は彼女に言葉を返した。

「ゆっくり休むと良いよ」

 アリスが彼女の手を引いて、外壁に向かって飛んで行く。

その外壁は無人ではない。

厳重な警備の元にあった。

外壁の上には人が歩ける細い通路が設けられ、

国軍兵士による定期的な巡回が行われていた。

その上、所々に兵士が詰める櫓もあり、死角はないに等しい。

低ランクの目には映らない妖精だが・・・、それでも心配になった。

 アリス達は垂直に上昇した。

あー、そうか。

そこまで見張っている者が居るとしても二人は点にしか見えない。

探知スキル持ちの見張りが居たとしても、映るかどうか。

二人は高々と飛翔し、簡単に外に出た。

こうやってアリスは自在に出入りしている訳だ。

納得した。


 クラスは火災の噂で持ち切りだった。

翌朝ということもあり、詳細は分からないのだが、

みんなが持ち寄った噂が無責任に流された。

「北区画のスラム街から武装した男達が現れた」

「子爵邸が武装した連中に襲われた」

「武装した一団が子爵邸に押し入り、全ての建物に火を放った」

「奇襲だったので子爵邸の兵士達は防戦一方だった」

「武装した連中は焼け出された者達を容赦なく斬り捨て、

一人として逃さなかった」

「奉行所の者達や国軍の一隊が駆け付けつけて鎮圧した」

「襲撃者側は逃げずに最後の一人になるまで抵抗した」

「子爵邸は小さな小屋に至るまで、完全に焼け落ちた」

「子爵様やご家族は一人として姿が見られない」


 国王のブルーノ足利は執務室の窓を開け放って外を見ていた。

昨夕の火災は禍々しいものであった。

今もって怒りは消えない。

失火であれば珍しい事ではないが、昨夕のは襲撃に伴うもの。

焼き討ち。

前代未聞の出来事。

国王のお膝元で許される行為ではない。

 奉行所や国軍の魔法使い達が水魔法を放って鎮火させたお陰で、

延焼には至っていないが、忌々しい。

魔法使い達の奮闘、それだけが救いだ。

 侍従長がその背に声を掛けた。

「近衛のアルバート中川子爵がご報告に参りました」

 背を向けたまま答えた。

「聞こう」

 侍従長がドアに向かう足音。

ドアが開け閉めされる音。

一人が入室する足音。

 ブルーノはゆっくり振り向いた。

顔馴染みの近衛軍中佐が歩みを止め、丁寧な敬礼した。

「バイロン神崎子爵邸に向かわせた者から報告が来ました」

「それでどうであった」

「もぬけの殻であったそうです」

「やはりか。

・・・行方は」

「三つの捜索班を出しました。

一つは子爵の家族を。

一つは主立った家臣を。

もう一つは子爵の領地に走らせました。

先回りになれば宜しいのですが。

それとは別に一個小隊を北区画のスラム街に送り込みました」

「三つは分かったが、スラム街の方は一個小隊で足りるか」

「外郭は我等の管轄では有りませんので、

スラム街に詳しい奉行所や国軍の協力の下、

共同で捜査活動を行うよう指示いたしました」

「襲撃した者達の身元や手懸かりは・・・」

「全員が最後は意識的に燃え盛る屋敷に飛び込んだそうです」

「自ら消し去ったか」

 ブルーノは溜め息を付いた。

「エリオス佐藤子爵や家族の行方は」

「奉行所が焼け落ちた屋敷の捜索を行っていますが、未だ・・・」

「助かった者はおらぬのか」

「襲撃時に外出して難を逃れた者が数人おります。

それらの者の証言を元にして捜索が行われているそうです」

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