(ダンジョンマスター)3
脚力を試した。
すると、あっという間に先頭の目前。
俊足を超えていた。
イカ天・・・否、韋駄天・・・か。
俺も驚いたが先頭の奴も顔を引き攣らせた。
其奴の脇を擦り抜けた。
二頭目、三頭目をひょひょいと躱し、高い木が目に付いたので、
大きくジャンプして太い枝に飛び乗った。
群は転がるかのようにして急停止。
取り乱しながら方向転換した。
怒り露わに、こちらに向かって来た。
まずは水魔法、ウォーターチップソー。
丸ノコギリをイメージ。
直径1メートル、厚歯とした。
勢い良く回転し、空気を揺るがした。
レベルが上がったのを感じ取った。
それを先頭に向けて縦回転で放った。
其奴も野性の勘が働いたのだろう。
訝しむ目色。
でも魔物如きに見極められる訳がない。
直ぐに身体が真っ二つに切り裂かれた。
チップソーはそのまま地面をも切り裂いて、大きく破裂した。
二頭目には土魔法、アーススピア。
長さ1メートルの太い土槍をイメージ、放った。
それが二頭目の額から入って下腹部へ突き抜けた。
これまた地面に突き刺さって破裂した。
威力が過大だ。
突き抜ける必要はない。
EPを微調整。
置かれた状況に気付いた三頭が再び急停止。
悲鳴を上げて方向転換を図った。
逃走するようだ。
見逃す訳には行かない。
三頭目には威力を下げた火魔法、ファイアーボール。
火弾を放った。
後頭部を直撃して破裂、派手な炎が周囲に飛んだ。
四頭目にも威力を下げた風魔法、ウィンドボール。
放った風弾が尻に当たって破裂、下半身を細切れにした。
五頭目には、もっと威力を下げた光魔法、ライトボール。
光弾をコントロールし、脇腹直撃で、身体を真っ二つにした。
破裂した火弾によって三頭目とその周辺に火災が発生していた。
これは拙い、拙い。
調子に乗りすぎた。
俺は慌てて辺りに水魔法、ウォーターボールを連発した。
火災を抑え込もうと必死で放った。
十発ほどで鎮火させた。
反省、反省。
透視スキルを活用して魔卵を探した。
三頭が持っていた。
切り剥がしは風魔法、ウィンドカッターの出番だ。
ススッーと縦横斜めに深く切り分け、念力で魔卵を取り出した。
付着していた血肉は光魔法、ライトクリーンで洗い落とした。
大きさに差はあるが、売り物になる。
そのまま虚空の魔卵スペースに収納した。
嶺に駆け上がった。
探知スキルの地図で位置確認。
間違ってはいなかった。
そのまま山を駆け下った先が国都だ。
途中で魔物達と遭遇したが、FとかEの低ランクばかり。
時間の無駄なので脚力に物を言わせて突っ切った。
暫く駆け下っていると、破裂音が聞こえて来た。
魔法ではなく、魔物のブレスに違いない。
探知スキルで確認すると、正しくそうだった。
地形的にも、人数的にも来る途中で見た連中だった。
冒険者パーティ五人が魔物三頭に押されていた。
大きな岩を挟んでの攻防。
既に三人が負傷、残った二人は防戦一方。
Cランクの魔物三頭に押され、全滅は必至の状況になっていた。
ヒヒラカーン。
猿の種から枝分かれした魔物で、長い手足を活かして跳ぶ、走る、
木から木へ飛び移ると厄介だ。
二足歩行時は2メートルほど、おまけに知能も高い。
加えて火魔法、ブレスフレイムを吐く。
奴等は自分達が優位に立っているのが分かっているのか、
けっして無謀な攻めはしない。
ブレスフレイムや投石で牽制しながら、ジワジワと締め上げて行く。
それを見て俺は助ける事にした。
姿を隠した通りすがりの名無しなら問題ないだろう。
冒険者達の死角を探して加勢した。
使う魔法は一般的な水魔法、ウォーターボール。
探知スキルで三頭をロックオン、ホーミング誘導。
威力を微調整、それぞれに命中するように放った。
高々と打ち上げられた水弾三発が極端な曲線を描きながら、
目標に向かって降下して行く。
一頭が気付いたのか見上げた。
すると其奴の顔に当たって破裂した。
運悪く首の骨が折れたようだ。
そのまま真後ろに倒れた。
ピクリともしない。
二頭目は肩に当たって破裂した。
身体を捻るようにして転倒、二転、三転。
それでも執念か、起き上がろうとした。
三頭目は頭に当たって破裂した。
前に倒れるが石頭なのか、こちらも起き上がった。
冒険者二人は驚きながらも機を見て反撃に転じた。
弱っている二頭を目掛けて駆け寄った。
一人は槍を両手で構え、起き上がった奴に突っ込んで行く。
二人目は弓を投げ捨て、起き上がろうとする奴を蹴り倒し、
腰の短剣を抜いた。
結果は知らん。
知ろうとも思わない。
俺は即座に現場から離れた。
足を急がせた。
暗くなる前に帰らなくっちゃ、子供なんだから。
山を下りたあたりでスキルを解いた。
子供が身体強化スキルを使い熟していたら注目を浴びてしまう。
鑑定スキルも解き、探知スキルだけを微調整、緩め。
スキルを自重した。
麓の草地の獣道を伝い歩くと予想通り、冒険者パーティと出くわした。
重装備の六人組。
リーダーらしき男に尋ねられた。
「おう、ボウズ、一人か」懸念する声。
「はい」
「一人で薬草採取か」
「はい」
「大丈夫だったか」
「逃げ足には自信があるので」
「ハッハッハ、そうだな、それは良い。一緒に帰るか」
他の連中も心配そうな顔で俺を見ていた。
「お願いします」猫を被ることにした。
何事もなく北門を潜ることが出来た。
真っ直ぐ幼年学校に戻ったが、アリスは戻らなかった。
翌朝、朝早く目を覚ましたのでアリスを探してみたが、
戻っていなかった。
念話も通じない。
もしかして、脳筋だからコアに手こずっているのか・・・。
たぶんそうなんだろう。
国都の南区を管轄する南町奉行所の奥まった一角で、
関係者を集めた会議が行われていた。
奉行が口を開いた。
「ザッカリーファミリーがアジトの屋根を修理した件だが、
例の倉庫の屋根に空いていた穴と同じだと言うのか」
スラム地区を担当する与力が答えた。
「修理中の業者をこっそり呼び出して尋ねましたところ、
綺麗に空けられていたそうです。
件の業者も不思議がっていました。
おそらく倉庫と同じ様に闇魔法が使われたのではないでしょうか」
ザッカリーファミリーを担当する同心が言う。
「ザッカリーの護衛の一人が姿を消しました。
箝口令が敷かれているので不確かなのですが、
何やら暴力沙汰に遭って殺されたようです」
スラム地区を見廻る同心が言う。
「アジト周辺の警戒レベルが上がっています」
「正体不明の闇魔法の使い手か」奉行が全員を見回した。
「ファミリーの結束が固いので、
事情を知ろうにも突っつきようがありません」ファミリー担当の同心。
「倉庫で半殺しになっていた二人に【奴隷の首輪】を嵌め、
聞き出すのが早道ではないかと思われます」スラム担当の与力。
奉行が与力に尋ねた。
「口が利けるまでに回復したのか」
スラム担当与力が応じた。
「もう二日もあれば口が利けるようになるそうです」
「よし、回復したら【奴隷の首輪】を嵌めて、しっかりと聞き出せ。
ついでだ、鑑定スキル持ちを呼び寄せろ。
二人のスキルを調べて役に立ちそうなら、そのまま奴隷にしてしまえ。
今にも死にそうなところをボーションや治癒魔法を使って助けたんだ。
奉行所の奴隷にしても罰は当たらんだろう」




