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異世界ブギウギ。  作者: 渡良瀬ワタル
112/373

(ダンジョンマスター)1

 俺はアリスに言った。

『傍に居てくれ。何が起きるか分からない』

 素直に従うアリス。

『いいわよ』俺の右肩に飛び乗り、髪を掴んだ。

 俺はダンジョンマスタースキルを始動した。

どう転ぶかは分からないが、

脳内モニターが薦めるのなら問題ない、たぶん。

「EPをMPに変換します」脳内モニター。

 EPがごっそり消費されるのが分かった。

途端、周りの景色が歪む。

それに伴い、何やら持ち上げられる感じ。

足場が不確かなものになった。

上下左右の感覚をも失った。

俺は尻餅をついた。

『大丈夫よ、これは結界』アリスの口調は確信そのもの。


 俺達は山と山に挟まれた空中の高所に居た。

全面をガラスのような物で仕切られた箱の中に閉じ込められていた。

周りの山中の景色は代わらないが、隔たりを感じた。

床のかなり下に魔物数頭を見つけたが、奴等は俺達には気付かない。

山林の息吹も感じ取れない。

まるでモニター越しに見ているかのようだ。

 右から飛んで来た大きな鳥の群が、本来なら衝突する筈が、

何事もなかったかのように結界をスキップして左へ飛び去って行く。

『これが結界よ。

でも随分大きいのね』感心するアリス。

 体育館を思わせるような大きさだ。

しかも空調設備でもあるかのように、微かな空気の流れを感じた。

取り入れ口を探したが見つからない。

『結界が分かるのか』

『妖精は本来、結界の里で暮らすのよ』

『でも捕まっただろう』

『興味本位に外に飛び出したからよ』他人事のように言う。


 床に両手を付いて立ち上がった。

頑丈そうだが念の為、ジャンプして強度を確かめた。

足が痛いだけに終わった。

 事前にダンジョンマスターのプロパティを読んでいても、

初めての事なので戸惑うばかり。

まあ、大きな事も小さな事も、一歩一歩、コツコツと進めるしかない。

ロマンは一日にしてならず。


 中心部の何も無いところで小さな輝きが発せられた。

輝きが上下左右斜めに、アンバランスに回転しながら成長を始めた。

ピンポン球の大きさからテニスボール、ソフトボール、

バレーボールを経て、ついには直径2メートルほどの大きさになった。

透明な水晶。

ダンジョンコアだ。

『これは大き過ぎない』呆れるアリス。

『初めてだから比べようがないよ』

『大抵の物はこの半分ほどの大きさよ』


 ダンジョンコアの回転は止まらない。

今度は成長ではなく、色彩を帯び始めた。

絶えずの変化で、目まぐるしい。

最終的な色は鮮紅。

これで決まったらしい。

そのまま下半分を床に沈み込ませた。

『珍しい色ね』

『そうなのか』

『たいていは透明か、黒か白よ。

アンタおかしいんじゃない』

『俺の所為、俺がおかしいの』


 結界そのものが動き始めた。

ゆっくり降下して行く。

床下に高木が数本見えるのだが止まらない。

接触か・・・。

ここでもスキップ。

押し潰しもせず、何も無かったかのように降下して行く。

森も岩も押し潰さず、何ら干渉することなく降下を続けた。

魔物も数頭いるが、これまた問題なし。

奴等は全く気付かない。

結界に閉ざされた世界は亜空間なのだろう。


 降下は地面に接しても止まらない。

浸透するかのようにスムーズに降下して行く。

全体が飲み込まれるように地中に没した。

けれど天井部分にサンルーフでも組み込まれているのか、

数箇所から温かい陽射しが差し込む。

空調にも問題なし。

 木々の様々な太さの根。

魔物らしきものの骨。

埋まっている巨大な岩。

砂利が重なり合った層。

厚い岩盤の層。

緩やかに流れる水脈。

そしてまた厚い岩盤の層。

 アリスが説明してくれた。

『空中の結界は維持するのが大変だから、こうして地下に潜るのよ』


 随分と降下してから止まった。

全面を覆っていたガラスのような物がツルッツルの岩肌に変じて行く。

それだけではなかった。

ダンジョンコアが3メートルほどの大きさの台座に鎮座して、

せり上がってきた。

それを見届けたアリスが言う。

『ダンジョンの名前を決めなさい』

『名前ね。一番目だから一番かな』

『ものぐさね。もっと考えなさい』駄目出し。

『地名から・・・、山城ダンジョン、・・・どうかな』

 アリスは肩を竦めた。

『しかたないわね。

次はダンジョンマスターの次席に眷属の私を指名するのよ』

『ダンジョンボスってこと』

『違うわよ。

ダンジョンボスはダンジョンコアの前部屋の木偶の坊。

ダンジョンマスターの次席は忙しいマスターに代わって、

ダンジョンを管理運営する役目の者よ』

『それをアリスがやるの』

『これからが大変な作業なの。

でもダンはそろそろ国都に帰る時間でしょう。

代わりに暇な私が代行しておくわ』

『アリスで大丈夫なの』

 ムッとした顔で睨まれた。

『言ってくれるわね、この馬鹿。

見くびっているの、この私を。

これでも妖精の里の結界には詳しいんだからね。

素人のアンタよりは、ましでしょうよ。

さあ早くしなさい』怒られた。

『で、どうするの』

『そうか、初めてだったわね。

ダンジョンコアに触れてみて。掌を当てるのよ』


 言われた通りにした。

すると微かな痛みが掌から腕、肩、首、そして頭に走った。

まるで疑似感電。

「接続しました」脳内モニター。

 情報が頭に流れ込んで来た。

産まれたばかりなのに、この情報量。

これを俺が処理するのか。

面倒臭い。

ステータスを見るだけした。


「名前、なし。

種別、ダンジョンコア。

マスター、ダンタルニャン。

年齢、一才。

住所、足利国山城地方。

ランク、B。

HP(222)残量、100。

MP(333)残量、85」


 はあー、やるか。

マスターとして名前を付け、アリスを次席に任命した。


「名前、山城ダンジョン。

種別、ダンジョンコア。

マスター、ダンタルニャン。次席、眷属妖精アリス。

年齢、一才。

住所、足利国山城地方。

ランク、B。

HP(222)残量、100。

MP(333)残量、85」


 直ぐにコアのステータスに反映された。

突っ込みたい気分だが、後はアリスに丸投げすることにした。

本人もやる気十分だし問題ないだろう。

コアの情報の分析は脳内モニターに丸投げだ。

AIのように仕事してくれるから、こちらも問題ないだろう。

OK、俺のAI。

はあー、仕事が捗る、捗る。

俺は何もしないけど。

 あっ、この地下から・・・。どうやって地上に出るの。

子供だから暗くなる前に国都に戻らなきゃならないんだけど。

子供だから、ねっ。

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