(アリス)35
探知スキルの範囲外だが地響きが凄い。
それに妙な声、いや鳴き声か。
複数、聞こえて来た。
「ゲコーゲコー」「ゲロッゲロッ」「グエッグエッ」重厚にして、広がる低音。
完全に蛙ではないか。
地響きの大きさからするとフロッグレイドしか思い浮かばない。
蛙の種から枝分かれした魔物で、巨椋湖の主と言われている奴だ。
縦横5メートルほどに成長した身体で跳躍して来たのだろう。
ありとあらゆる物を踏み潰して、なんて厄介な奴。
クランクリンの群が敏感に対応した。
蜘蛛の子を散らすかのように一斉に逃げて行く。
後方や左右から襲って来た魔物達も例外ではなかった。
一瞬、身体を硬直させたものの判断は早かった。
これまた、てんでに逃げて行く。
遅れたのは盾の陣の前に蹲っている冒険者四人。
ようようの事で上半身を起こし、周辺を警戒した。
「フロッグレイド」一人が呟いた。
「逃げろ」言葉より足の方が早かった。
盾の陣を回り込むようにして国都方向へ一目散に逃走して行く。
相手はBランクだが、一頭だけなら戦ってみたかった。
大人達もいるので負ける気がしない。
でも地響きからすると、三頭以上の可能性があった。
そうなると現状では無理。
撤収するしかない。
俺は急いで盾を収納した。
シンシアが俺に言う。
「慌てる必要はないわ」ノンビリ口調。
「でも、こちらに向かって来てますよ」
「繁殖地の辺りで止まるわよ」
「そうなんですか」
「鳴き声や移動の方法からすると、これは完全に繁殖目的ね」
「・・・」
「普段は獲物を捕獲する目的があるから、忍び足で移動するの。
今のように派手に登場する時は、
完全に盛りのついた繁殖祭り状態なのよ」
「繁殖祭りですか。
そうすると今が繁殖期ですか」
シンシアが言い淀む。
代わりにルースが答えた。
「獣は繁殖期があるけど、魔物はないの。
人間と同じで、盛って来たらヤルだけ。見境なくヤルわよ。
雄雌関係なく、雄同士とか、雌同士とかもね」悪戯っぽい言い方。
俺はただ頷いた。
呆れたようにシェリルが言う。
「ヤルじゃなくて交尾でしょう」
「お上品に言えばそうかな」ルースが苦笑い。
「でしょう。
心配なんだけど、繁殖祭りが行き過ぎて、
こちらに向かって来るということはないのかしら」
ルースが断言した。
「その点は大丈夫、ないわ。
あの辺りには冒険者やクランクリンが大勢、倒れているからね」
要するに、餌場になっているということだ。
魔卵回収や素材回収は諦め、俺達は急いで撤収した。
ルースの言葉通りに追跡はない。
フロッグレイクの鳴き声が聞こえぬ辺りに来て、ようやく足を止めた。
幸い、人影はない。
俺はみんなを一箇所に集めた。
戸惑い顔のシェリルとボニーにキャロルが言う。
「これから面白いわよ」
俺はみんなに纏めて魔法を掛けた。
光魔法。
まず身体を身に着けて居る衣服ごと綺麗にするライトクリーン。
そして心身の疲労を取り除くライトリフレッシュ。
おまけで香り付け。
慣れてきたので一人一人ではなく、集団で掛けられるようになった。
これにシェリルとボニーが更に戸惑った。
問い顔の二人に俺は釘を刺した。
「今見た事は忘れてね。
質問禁止、他人に吹聴しない、いいね」
キャロルが笑いながら言う。
「それを破ると、ウンチの臭いを付ける呪いを掛けるそうよ」
冒険者の服装からパーティ用のローブに着替えた俺達は、
何の問題もなく国都の東門を潜った。
そのまま冒険者ギルドに向かった。
途中、俺は収納から竹籠を取り出した。
採取した薬草を入れていた物だ。
それをキャロルに手渡した。
「これから急ぎで会う奴がいるから、これ頼むよ」
「デートでも約束していたの」
「そんな可愛いもんじゃないよ」
俺は早足にみんなと別れて外郭の北区画へと向かった。
落ち合う場所は決めていなかったが・・・。
ウロウロしていると、俺の魔波に気付いたのか、呼び掛けてきた。
『待ったわよ。待ち草臥れちゃった』アリスの心底、疲れた声。
『地図はどうだった』
外郭南区画スラムのボス、ザッカリーに描かせた三枚の地図だ。
『三軒とも概ね正直に描かれてるわね』
西区の子爵家、東区の伯爵家、北区の侯爵家。
子爵家と伯爵家はザッカリーファミリーが妖精を売った先。
侯爵家は亡くなった先代が妖精を買ったという噂。
『屋敷の中に入ってないよな』
『私はそんな馬鹿な真似はしないわよ』
信じられない。
『でも敷地内には忍び込んだよね』
『当たりっ、よく分かったわね』
言葉と同時に太腿に衝撃。
振り返ると、白い子猫に体当たりを喰らっていた。
何時の間にか背後に忍び寄られていた。
『また子猫の姿か』
妖精の姿ならランクが下の者には見つからないというのに。
『良いんじゃない』反省の欠片もない。
俺はアリスをフードの中に隠して北門から出た。
目的は妖精を匿うダンジョン造りだ。
外に出ると再び探知スキルと鑑定スキルを連携させ、
ソロ活動用のローブに着替え、身体強化スキルで先を急いだ。
国都は西方、北方、東方と三方を険しい山々で囲まれていた。
深い谷あり、急な河川あり、所々に沼地や断崖絶壁があり、
そして魔物が生息していて人間には厳しい環境にあった。
同時にそこは冒険者にとっては最高の環境でもあった。
多様な魔物が居るので魔卵や素材が豊富なのだ。
山中に一歩足を踏み入れると、そこは薄暗い世界だった。
日光が枝葉に遮られてする所為だ。
それで静かな世界かと思いきや違った。
一山越えると五月蠅い、五月蠅い。
複数の魔物の雄叫びが交差していた。
探知スキルに魔物が引っ掛かる、引っ掛かる。
低ランクが多いが油断は出来ない。
数があれば、それは圧力なのだ。
時折、冒険者パーティも引っ掛かった。
それほど多くはないが、魔物討伐を行っていた。
間近では右手100メートルほどの所で戦闘が繰り広げられていた。
冒険者五人に魔物三頭。
魔物のブレスに苦戦しているようだが、撤退する気配はない。
フードから抜け出したアリスが俺に問う。
『冒険者のパーティが心配にならないの』
『ならないな』
関わり合う時間が惜しいので俺達は次の山を駆け上がった。
脳内モニターに文字。
「この辺りの魔素の質量は最高です。
ダンジョンにも最適です」久々にダンジョン創造のお勧め。




