第25話 一緒にテスト勉強
テスト前になると友達同士でよく躱されるようになる会話がある。
「ねぇねぇ、テスト勉強してる?」
「全然」
「だよねぇ~」
「「あはははは~」」
果たして当人たちは、それが真実であるとどこまで信じているのだろうか?
今回はそんな話。
◆◇◆
「いいか? ここはテストに出すかも知れなくもないような気がするような気がしなくもないからな。覚えておけよ~」
先生のどちらとも言えない言い方に、内心で「どっちだよ!」とツッコミをしながら、とりあえず板書のメモをする。と、書いている途中で、先生がさっさと黒板の文字を消してしまった。
……あ、まだ書いてる途中だったのに……。
仕方ない……。
ここだけは後で六花に見せてもらおう。
そう思いながら六花の方に視線を向けると……、六花は机に突っ伏して、口から涎を垂らしながら見事に熟睡していた。
……うん。
正直、六花の気持ちも分かる。
そりゃ、ただでさえ昼休憩が終わって一番眠くなる時間帯ってだけでも大変な上に、六花の席は日当たりがいい。誘惑に負けて微睡んでしまうこともあるだろう。
だけどさすがに机に突っ伏して、よだれをたらすのはいかがなものでしょうか、六花様。
あ、ほら、先生が頬を引きつらせてる。
「起きろ! 粟飯原!」
先生は怒鳴り声を上げると、六花めがけてチョークを思いっきり投げた。
しかし、六花は見事としか言いようがない反射で、勢いよく飛んできたチョークを避けた。
そして、目標を外したチョークは勢いそのままに六花の頭の横を通って、六花の後ろで真面目な顔をしていた文芸部員、里井の額に見事に命中した。
ぱこ~ん!
そう音が鳴ったとしか思えないほど見事に里井の額にヒットしたチョークはそのまま砕け散り、衝撃で里井は気を失ってしまった。
『あっ』
一部始終を目撃した生徒一同が、いっせいに声を出し、先生は顔を青褪めさせて慌てた。
「すすすす、すまん里井! 大丈夫か!?」
「怪我は無いので大丈夫です」
「そうか……よかった」
里井がにっこり答えると、先生はあからさまにほっと息を吐いた。
だけど、次の瞬間に里井から放たれた言葉に、先生は再び青褪めた。
「ただ……、体罰はよくないと思いますよ? 先生?」
「っ!? たた、体罰なんて……。ただちょっとチョークがすっぽ抜けただけじゃないか……。な、なぁ!」
「チョークがすっぽ抜けて僕の額に命中した挙句、砕け散ったと?」
「そ、そうそう! その通り! だから、これは……、そう! 事故なんだ! だから決して故意ではないし……その……」
「先生?」
先生の言葉を遮って、里井はにっこりと笑う。
その笑顔に何かを感じたのだろう、先生が動揺して震えていた。
「な、なな、何だ?」
「言い訳は見苦しいと思いますけど?」
「うぐっ!」
言葉に詰まる先生にゆっくりと歩み寄った里井は、ぽんと先生の肩に手を置くと、耳元でぼそぼそと何かをつぶやいた。
先生は驚愕に目を見開いていたけど、やがて、がっくりと項垂れた。
「……分かった……。条件を飲もう……」
「はい。それじゃあよろしくお願いします」
何かしらの取引がなされたようで、先生は項垂れながら授業を再開した。
しばらくして授業が終わった後、先生は早足で教室を出ていき、クラス全員が里井の元へ殺到して、さっきのことを訊こうとしていた。
わいわいと騒ぎ立てるクラスメイト達に何とも言えない笑みを見せていた里井は、全員が静かになったところでゆっくりと口を開いた。
「別に大したじゃないよ。ただ、ちょっとテストの難易度を下げてもらうようにお願いしただけさ」
それを聞いたクラスメイト全員が歓喜した。
◆◇◆
「…………ということがあったんですよ」
「そうか。しかし、直重君も中々に強かだな」
僕が放課後の部室で、部長に今日の事件のことを話すと、部長はくつくつと笑いながら、里井をそう評した。
「いえいえ。僕なんてまだまだですよ」
「ともあれ、大事なくてよかったな、直重君」
ありがとうございますと軽く頭を下げた里井は、そのままテスト勉強に戻った。
そのまま話題が途切れ、僕たちが静かに勉強していると、不意に部長が声を変えてきた。
「時に文隆君」
「……? 何ですか部長?」
「六花君はなぜここにいないんだ?」
「いや、いるのが当然みたいに言わないでください。むしろいないのが当然なんですから」
「そこは気を利かせて連れてくるのが、後輩というものだろう! 君には失望したよ!
絶望した! 後輩が私の癒し成分を連れてこないことに絶望した!」
「すごく軽い理由で絶望された!?」
「私が絶望するのはどう考えても君が悪い!」
「僕のせい!? い、異議あり!」
「異議を認めるとおもうか?」
「ですよねぇ~!」
僕ががっくりと肩を落とすと、部長は満足そうな顔をした後、こういった。
「まぁ、冗談はともかく、たまにはみんなで勉強するのも悪くないだろう?」
「うっ、ま、まぁそうですけど……」
「というわけで、明日の放課後は、私の家でみんなで勉強会だ!」
あまりに唐突な展開に、だけど僕も里井も驚きすらしなかった。
うん、部長の滅茶苦茶なところにはすでに慣れました。
◆◇◆
というわけで、翌日の放課後。
午前中に友人三人の了解を得た僕は、彼らを引きつれて部長宅があるマンションまでやってきた。
早速、玄関ホールで部長の部屋にコールを掛けると……。
『ぎゃ~~~す! 痛い痛い! でも気持ちいい!』
というとても聞き覚えのある、歓喜と苦痛が入り混じった悲鳴が聞こえてきた。
僕らが玄関で唖然としていると、スピーカーから部長の声が聞こえる。
『すまない。すぐに開けるから、部屋まで来てくれ』
ぶつっと音を立てて通話が途切れ、すぐに玄関ホールの扉が開けられた。
すでにあの人の奇行には慣れていた僕は、戸惑う友人三人を引きつれてエレベーターに乗り込み、部長の部屋の前に辿り着く。
そして、インターフォンを襲うとした瞬間。中から扉が開けられ、里井が姿を現した。
「やぁ、よく来たね。部長が待ってるよ」
そう言って中へ招き入れようとする里井に、僕はついツッコミを入れる。
「インターフォンを押す前に扉を開けるとか。お前はエスパーか」
「いやだなぁ。僕は君のことなら何でも分かるだけだよ」
「はいはい」
里井の戯言を適当に受け流して、僕らは部屋の中へ入った。
『おじゃましま~す』
声をそろえてそう言った後、リビングに入った僕らが目にしたものは、ぐるぐるに縛られて天井からつりさげられている向井さんと、その向井さんをサンドバッグにして両側からボクシングのようにして殴る部長と生徒会長の姿だった。
『……………………』
玄関で固まっている僕らに気付いた黒野さんが、顔を引きつらせながら出迎えてくれた。
「すまないな。いつものことだから気にしないでくれ」
「毎度毎度大変ですね……」
僕の言葉に苦笑いを返した黒野さんは、事前に部長から許可を得ていたのだろう、別室へ僕らを案内してくれた。
「君達はここを使ってくれだとさ。分からないところがあったらいつでも俺に声を掛けてくれ」
そう言って黒野さんは、まだ騒がしいリビングに戻っていく。
「さてと、僕らも勉強を始めようか」
いつの間にか勉強道具を机に広げた里井が、僕らに胡散臭い笑みを向けていた。
何となくその胡散臭い笑みは腹立つけど、まあ今は置いておく。
そして僕らは勉強を始めた。
途中途中で、部長や美月生徒会長が向井さんを詰る声や、向井さんがそれに対してあげる嬌声が聞こえてきたりするけど、僕らは結構な集中力を発揮してそれを無視していた。
その後、部長が作ってくれた軽食を皆で食べたり(前回の部長の誕生会の反省を活かして、今回は食べ物で遊ばなかった)、意外に向井さんの教え方がうまくて驚いたり、途中で集中力が切れて皆でス○ブラ大会をして、そこから何故か一部の人がリアルファイトを始めたりと、中々に有意義かつ楽しい時間を過ごした。
果たして、こんなで期末テストは無事に乗り切れるのか。
そんな不安は誰一人として抱いていなかった。
それを証明するように、数日後に執り行われた期末テストで僕らは意外なほどの好成績を納め、無事に高校生活初の冬休みを迎えることができた。
あ、そうそう。
例の六花にチョークを投げたつもりが里井にぶつけてしまった先生だけど、翌年に地方の小さな高校に左遷されたらしい。
そのニュースを聞いて、里井がにやりと黒い笑いを浮かべていたけど……。
里井……お前、一体何をしたんだ……!?
~~おまけ~~
文隆「里井……お前、マジで先生に何をしたんだ!?」
里井「いや何……。ただ、今回のことを生徒会長に伝えただけだよ?」
部長「そうか……。この間彼女が電話していたのはもしかして……」
文隆「え!? 会長どこに電話してたんですか!?」
部長「……文隆君……。世の中には知らないほうがいいこともあるのだよ?」
文隆「お願いだから教えてください! 私気になります!」




