第17話 文化祭準備編
新学期が始まってしばらくすると、学校全体が俄かに浮ついた雰囲気になる。
理由は九月下旬に開催される文化祭の準備が始まるからだ。
各クラスで文化祭実行委員を選出し、彼らの進行に従ってクラスの出し物を決めたり、所属する部活や友達同士の有志でイベントを開催するための準備をしたりと、徐々にみんなが文化祭に向けて動き出した。
僕らのクラスも出し物をしようということで、実行委員を選出し(空と楓、僕と里井は外れ、六花は何故か立候補していた)実行委員の監修の元、ああだこうだと意見を出し合い、激論の末、動物喫茶なるものを催すことになった。
具体的にどういう物かと問われれば、動物のきぐるみパジャマを来て、普通に接客するだけと答えるしかない。
ともあれ、やることが決まり役割分担が決まりと、僕らのクラスも徐々に文化祭に向けて動き始めた。
逆に、部活の方はと言えば、あまり準備はできていなかった。
最初は、文芸部らしく文集でも作って売ろうと言っていたのだけど、部長の「そんなありきたりなものはつまらん」という鶴の一声を以って、文集路線は立ち消えとなった。
じゃあ、代わりに何をやるのかと聞いてみたところ、部長は少し考えてから(やりたいことを決めてなかったのかよ! というツッコミはしなかった)、こう言った。
「男女逆転喫茶だ!」
「……………………はっ?」
よく分からなかった僕が訊きかえすと、部長は早口に説明を始める。
「ただの喫茶店ではつまらないからな。この喫茶店では、全員の性別を逆転させる。もちろん店員だけじゃなくて、客にもだ。衣装などは準備に手間がかかるので必要ない。ルールを守らなかった客には、ペナルティとして料金を倍にする。どうだ?」
「いや……、どうだと言われても……。この狭い部室で喫茶店は無理だとか、三人で喫茶店をするのは不可能だとか、僕たちはクラスで喫茶店をするから無理だとか、そもそも文芸部らしくないだとか、いろいろ言いたいことはありますけど…………、ってあれ? 部長?」
部長は僕が無理だというたびにどんどんへこんでいき、最終的に両手と両膝を床についてがっくりと項垂れてしまった。
しばしそのままの格好でいた部長はゆらりと立ち上がりながら、何故か僕に不敵な笑みを向けた。
「腐腐腐腐腐腐腐…………。君も中々鋭い意見を言うようになったじゃないか…………ぶぼぁっ!」
部長が何か噴き出したように口を押さえながらわざとらしくその場に倒れ込み、
「部長!? ぶちょ~~~~~~~~~~~~~っ!!」
里井がわざとらしく涙ぐみながら、部長を抱きかかえる。
「ぐふぅっ! 直重君……私はもうだめだ……。私に構わずに文隆君と一緒に先に行くんだ……」
「そ、そんな! 部長を置いていくことなんて僕にはできません!」
「っ!? ばかやろう! ばきっ!」
部長が里井を殴りつける真似をする。「ばきっ」とか効果音を自分で言っちゃってるし……。
僕の呆れた視線を無視して、部長と里井が三文芝居を続ける。
「ぶ、部長!?」
「私を見捨てれば助かるんだ。迷わず私を切り捨てろ! 生きろ! 生きて生き抜いて……いつか、私の墓前に華を添えてくれ……」
部長……、死にかけのはずなのによく喋るなぁ……。
僕が生暖かく見ていると、里井は涙をぐっと涙を堪えるふりをして立ち上がると、
「~~~~~~~っ! イエス・ユア・ハイネス!」
「…………部長も里井もいい加減やめませんか?」
頃合いを見計らってそういうと、部長と里井は口をそろえて僕に文句を言ってきた。
「何だ……、相変わらずノリが悪いな……」
「そうだそうだ。こういう時は乗ってこないとダメだろ?」
「踊る阿呆に見る阿呆」
「同じ阿呆なら踊らにゃ損損」
そう言って突然、阿波踊りを踊り始めた。
「あんたら、本当に息ぴったりですねぇ!」
「そんなこと言われたら照れるじゃないか……」
「褒めてませんけど!?」
「だっはっはっはっは……」
「ボケてもないです!」
「……うぅ……、ぐす……、ひぐっ……」
「怒っても……いや……ある意味合ってるのか……? ……ん? あれ?」
完全に混乱してしまった僕は、誤魔化すためにも強引に話を戻す。
「えぇい! 今はそんなことはどうでもいい! 話を戻します!」
「やれやれ、仕方ないな文隆君……。この程度のボケに対応しきれなくてどうする?」
「どうするって言われても……」
「そんなことでは、いつまでたっても一流のツッコミストになれないぞ?」
「なりませんよ!? というか、何ですかそのツッコミストって!?」
「説明しよう! ツッコミストとはツッコミをする人のことである」
「そのまんま!?」
「その○んま○」
「元宮崎県知事!?」
「ほう……、良く知ってるじゃなイカ」
「イ○娘!?」
「侵略するでゲソ! 今日からここの部長は私じゃなイカ?」
「侵略するまでもなく、部長ですよねぇ!?」
「間違えたでござる。今日からここの校長は文隆君でござる」
「僕が校長!?」
「そして、三秒で校長を解任されるでござる」
「短い! 歴代の校長の中で圧倒的に任期が短い!」
「中二病でも校長になりたい」
「中二病でもないですし、別に校長にもなりたくないですよ!」
「僕は校長になりたくない。略して『僕は校長』」
「間違ってる! 略し方を間違っていて、もう校長になってます!」
「やはり俺が校長になるのは間違っている……」
「うん、僕もそう思います。というか、なんでさっきからラノベのタイトルみたいに!?」
「我が校長は捻じれ狂う……性格が」
「そんな校長は嫌だ!」
「あいあむざぼーんおぶまいこうちょう……」
「『無限の校長』!? というか、もう校長ネタはいいですよ!」
「む? じゃあ次は教頭に……」
「いい加減にしてください!」
最後に僕がそうツッコんで里井に向かって頭を下げると、里井が拍手をしながらつぶやいた。
「部長と君の方が息が合ってると思うな……」
――直重君に言われ、僕はこの時初めて彼のことを………。
「人の後ろで勝手にナレーションしないでください部長。あと勝手に人をホモ扱いしないでください」
「すまない。テヘペロ……」
部長が自分の頭に拳を当てて小さく舌を出すと、文芸部室が何とも言えない沈黙に満たされた。
「「……………………」」
「………………………」
「「……………………」」
「………………………すまない。あれはないな……」
「「ですよねぇ~」」
ギャグを外した部長が顔を真っ赤にし、僕たちはそれを忘れることにした。
「んんっ! さ、さて、何をどこまで話したのだったかな……? ええっと、ああそうだ男女逆転喫茶がだめだということだったな」
まだ若干動揺を引き摺りつつ、部長が話を戻した。
「まぁ、人数的にも喫茶店はきついだろうから、何か代替案を……」
「部長」
部長が考え込んでいると、珍しく里井が自ら意見を発した。
「いっそのこと、即興で何かを披露するというのはどうですか?」
「即興で……ふむ……例えば?」
「そうですね……。文芸部らしい即興というと、三題噺を即興で作るとか……」
「お! それはいいな」
珍しくまともな里井の意見に、僕も乗る。
「それなら、いっそのこと、お題を客に出してもらうというのは?」
「それもいいね」
「ふむ……、客にお題を出してもらっての即興三題噺か……。悪くはないが、そもそも小説を書くのには時間がかかるぞ?」
そう、いくら即興とは言え、短編を一本仕上げるのに最低二時間はかかる。
その間、客はどうするのか。
その問題の解決策を出したのは里井だった。
「でしたら、一日二回、午前の部と午後の部みたいに時間を決めて、お題を出してもらったお客さんにはいつごろ仕上がりますというのをお知らせしておけばいいのでは? そうしたらお客さんはその間の時間は他の出し物を回れるわけですし……」
「………………そうだな。その手で行けば問題はないか……。それでは、文芸部の今年の文化祭は、即興三題噺に決定だ!」
部長の宣言に、僕と里井が声をそろえて『はい』と返事をしてこの日の部活は終わった。その後の準備期間は看板やポスター作り、三題噺の細かなルールや時間の設定、即興三題噺の練習をしたりして過ごした。
そして、数週間後。
いよいよ僕の高校生活始めての文化祭が幕を開ける。




