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第5話 最強タンク、有名配信者を救う。


 ※猫山ミクル視点。


 (私、ここで死んじゃうんだ……)


 有名ダンジョン配信者、猫山ミクルは己の運命を悟っていた。

 新宿大空洞ダンジョン、その下層で起こったイレギュラーによって。

 現れたエンペラーオーガは、今まで猫山が出会ったどんなモンスターよりも危険な存在だった。

 

 猫山ミクルは探索者として、常に邁進してきた。

 『魔法剣士』という希少職は本体ではなく、あくまで猫山の魅力を底上げする要素にすぎない。

 最初こそ、職の珍しさありきで配信を観られることが多かった。

 だが、彼女の明るさと頑張り屋な所、そして時折見せるドジっ子な一面、皆が彼女の虜になっていった。

 日々の努力が、登録者数と同接数という形で現れる。

 彼女は夢中になって配信活動を続けた。

 いつしか画面を通して、その実力を認められるようにもなった

 そして……いつしかチャンネル登録者数は500万人を迎えた。


 だが、全てが順風満帆とはいかない。


 現在の猫山は……伸び悩んでいた。

 分かりやすいほど、日々の登録者の増加数が減っていた。

 今までの配信は、主に中層か下層をメインにしていた。

 ダンジョンアタックに安全マージンは必要不可欠、猫山は自らの実力を考え、深層に近付くことはしなかった。

 だが、いつまでも同じ画では視聴者が離れていくかもしれない。

 自分を形作ってくれた物が無くなる感覚。

 それが……とにかく恐かった。

 そんな思いの中、彼女は近々深層に向かう決意を固めていた。


 無論、新たな配信の画を見せるため、そして己自身を鍛えるために。

 

 ――強くなりたい、そんな純粋な気持ちがエンペラーオーガに挑むという判断をさせた。

 

 だが、現実はあまりに残酷だった。

 猫山の攻撃は、エンペラーオーガにはまるで通用しなかった。


 (こ、ここまで、違うなんて……)


 たった一太刀、それだけで分かってしまった。

 今の自分と、Sランクモンスターであるエンペラーオーガとの力の差が。


 "ミクルン!!"

 "嫌だよぉ……こんなの!"

 "嘘だ、こんなの嘘だ……!"

 "まずいまずいまずいまずいまずい"


 コメント欄が流れていく。

 ダンジョン配信は本来、視聴者にエンタメを提供する物。

 そんな自分の最後の配信が、死の瞬間なんて……。

 エンタメどころか、皆にトラウマを植え付けてしまう。


 (私、探索者失格だ……)

 

 座り込んだ脚には力が入らず、動くことは叶わない。

 ただ、エンペラーオーガの一撃を待つだけだった。


 ゴガアア!! 

 そして、エンペラーオーガの金棒が無慈悲に振り下ろされる。


「――いやあああ!!」


 ガキィン!

 その時、金属音が響き渡る。

 不思議と痛みはなかった。

 

 猫山は恐る恐る目を開けると、そこには信じられない光景が映っていた。


 「……へ」


 エンペラーオーガの金棒を、自分と同い年くらいの少年が、装備した盾で受け止める(・・・・・)姿だった。


「間に合ったな」

 

 ◇


「間に合ったな」


 俺はとりあえず安堵した。

 猫山ミクルを見つけるのに、そこまで時間は掛からなかった。

 どうやら彼女は、深層入口に近いところでイレギュラーに遭遇したようなので、こうして駆けつけることが出来た。

 結構ギリギリだったみたいだな、早目に動き出して良かった。


 "《秋月ユキト》よっしゃ! ナイス防御だぜタクミ!"

 

 ユキトも一安心したようだな。


「おい、立てるか?」


 俺は猫山ミクルに呼びかける。

 探索者の救助には意識の確認、応答の有無が必要になる。


「……あ、あの」


「逃げろ、ダンジョン入口まで走るんだ」


「そ、それが……」

 

 座り込む猫山の脚を見ると、ガクガクと小刻みに震えていた。


「……あ、脚が、動かなくて」


 猫山は絞り出すように言った。

 無理もないか、さっきまでSランクモンスターに殺されそうになってたんだ。


「分かった、ならそこから」


 俺は金棒を防いでた盾を押し込み、エンペラーオーガの体勢を崩す。


「――死んでも動くな」


 ゴガアアア!!

 よろけたエンペラーオーガは逆上し、再び金棒を振り下ろす。

 何度も何度も、執拗なまでに。

 俺は軌道を見極め、全て盾で防御する。

 頭に血が上ったモンスターほど、対処しやすい物はない。

 それはSランクモンスターでも同じこと。

 別にこのまま守るだけなら何時間(・・・)でも付き合ってやれるが、その間に新たなモンスターと遭遇する可能性があるので、早期決着が望ましい。

 

 俺は()を伺い、その時を待つ。


 ゴガアアア!!

 エンペラーオーガが金棒を両手持ちし、力任せに振り下ろしてきた。

 俺は盾で棍棒を受け流す(・・・・)ように弾いた。


 ガキィィンッ!!

 独特の金属音が鳴り響く。

 力の方向がずれ、エンペラーオーガの身体がよろける。

 スキル『パリィ』、盾役(タンク)の真骨頂とも言えるこの力。

 

 ゴ、ゴガ……!?

 パリィを決められた相手は、数秒間スタンする。


 そして……。

 この状態で俺が繰り出す攻撃は、通常の16倍(・・・)の威力になる。


「もらった」


 ザシュ!!

 エンペラーオーガの腹部に剣を突き立てる。

 分厚い皮膚を簡単に貫通し、傷口から血が舞い飛ぶ。

 俺の純粋な力だけでは、エンペラーオーガを傷付けることは敵わない。

 しかし、『パリィ』を使うことでこのように簡単に倒すことが出来るのだ。

 『盾役(タンク)』の火力不足を補う、大事なスキルの1つだ。

 

 俺は返り血を拭い、振り返る。 


「もう大丈夫だぞ」


 すると、猫山はポカンとした顔を浮かべていた。

 あーあれか、『盾役(タンク)』で探索者やってるヤツを初めて見たんだろうな。

 きっと物珍しいなとか思ってるんだろう。

 特に有名ダンジョン配信者なら尚更だ。

 今日もチャンネル登録者が増えなかった俺にその目は効く。

 にしても、そんな言葉も出ないほど驚く必要はないだろ。


「おい、聞いてんのか」


「――あ、え、えっと、す、すみません!」


 すると、猫山ミクルは我に返った。


「怪我はないか?」


「だ、大丈夫です、本当にありがとうございました……」


「なら良かった、にしても……イレギュラーモンスターに挑むなんて無茶しすぎだ、観てるこっちがハラハラしたぞ」


「はい……ってもしかして、私の配信観てくれてたんですか?」


「まぁ、たまたまだ」


 ユキトが勧めてなければどうなってたか、そういう意味ではアイツも恩人だな。


「せっかくだ、ダンジョン入口まで送っていくぞ」


「はい、あ、あれ?」


 猫山ミクルは立ちあがろうとするが、脚が地面を捉えることが出来ない。

 先ほどの恐怖が、まだ身体に残ってるようだ。

 このまま、モンスターが蔓延るダンジョンに置き去りにするわけにはいかない。


 仕方ないか。


「失礼するぞ」


「え、ふぇ!?」


 俺は猫山をひょいと持ち上げると、そのまま背中に背負う。


「非常事態だからな、文句言うなよ」


「は、はいい、すみません……」


 俺は猫山ミクルをおぶったまま、新宿大空洞ダンジョンの入口を目指した。



 この時の俺は知らなかった。

 この出来事が、俺の探索者人生を大きく変えることになるとは……。


【※読者の皆様へ】


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