第3話 苦痛な学校生活
昼休み、校舎裏にて。
俺、奥寺タクミは複数の生徒に囲まれていた。
正面の鬼戸は指をバキバキと鳴らし、2人の取り巻きは俺を逃さないよう、それぞれ両腕を押さえ付けている。
「――おらぁ!」
ドゴッ!
鬼戸の拳が、俺の腹部にめり込む。
肺の空気が一気に押し出される。
「かはっ……!」
鋭い激痛に、感覚が支配される。
膝をつこうとする俺を、取り巻きは無理やり立たせる。
「ほらほら頑張れタクミく〜ん」
「まだ寝るのは早いって〜」
ニヤニヤと笑みを浮かべる取り巻き。
休む間もなく、鬼戸の拳が腹部に沈む。
今度の一撃は、鳩尾を捉えていた。
「うぉら!」
ドゴッ!
「ぐはっ……!」
校舎裏に来てから、かれこれ20分はこの繰り返しだった。
取り巻きに押さえつけられながら、執拗な鬼戸の暴力を浴び続ける。
もう、支えがなければ立つこともままならない。
「今日はいつもよりも多めに殴ってやるよ、良かったな奥寺ァ」
鬼戸がニヤリと見下ろす。
そう、俺は鬼戸たちから日常的に暴力を受けていた。
俗に言う、いじめってやつだ。
俺が不人気職である『盾役』であることと、チャンネル登録者もロクにいない探索者であることに目を付けられ、こうして今日までいじめが続いていた。
何でも、Bランク探索者である自分と、俺みたいな底辺探索者が同じクラスってことが気に入らない……とか、そんな感じだったと思う。
「ここが学校でよかったな奥寺、もしダンジョンの中だったら……オレお前のこと間違えて殺しちゃうよ」
鬼戸は首をボキボキと音を立てて回す。
ダンジョン内で得たスキルや能力は、外の世界へ持ち込むことはできない。
つまり、いくらダンジョンでモンスターを倒す力に長けてようが、日常生活では意味を成さない。
それは……『盾役』である俺の防御力も例外ではない。
今の俺は、ただの高校生、奥寺タクミというわけだ。
執拗な暴力で、視界がぼやけて見える。
辛うじて、取り巻きのせせら笑う声は聞こえた。
「でも、オレも子供じゃねぇからな……オモチャを壊すような遊び方はしねぇのよ」
ドゴッ!
「だからお前も」
ドゴッ!
「せいぜい壊れんなよぉ、奥寺ァ〜!」
ドゴッ!
鬼戸は執拗に拳を振るう。
この時間の校舎裏には、教職員を含め、滅多に人はやってこない。
いじめをするには最適の場所というわけだ。
こういう場所を見つけるのは、やっぱり不良の嗅覚の成せる技なのだろうか。
「かはっ、がはっ……!」
何とか呼吸を整えようとするが、度重なる激痛の蓄積がそれを許さなかった。
「にしても『盾役』なんてクズ職よく選んだな、絶望的にセンスねぇよ」
「……!」
「普通、俺の『闘士』みたいな超火力でイカした職にするもんだろーが、バカの考えることは分かんねーなぁ」
鬼戸は世論の例に漏れず『火力至上主義』の考えを持つ男。
実際に、探索者として名が知られているのは鬼戸だ。
だからと言って、今の発言は看過できない。
「な、何だと――」
「――誰が喋っていいっつったよ!」
ドゴォ!
言い終わる前に、鬼戸が渾身の蹴りを放つ。
丸太のような足から繰り出されたそれは、俺を押さえつける取り巻きの固定すらも振り解くほどの威力だった。
俺は、後方に思い切り吹っ飛ばされると、だらんと仰向けになる。
「あーあ、壊しちまったかな? おーい」
鬼戸は倒れている俺の懐から財布を抜き取る。
「ちっ、シケてんなぁ」
慣れた手つきで現金を調べると、続けてあるカードを取り出した。
探索者カード。
己を探索者と証明するための物だ。
これには、探索者の個人データが刻まれている。
鬼戸はおもむろに記載を読み上げた。
「チャンネル登録者数2人、最大同接数3人、職は『盾役』で探索者ランクは最低のF」
そして、ゴミを見るような目で見下ろす。
「――才能ねぇよ、お前」
そう言い放つと、仰向けの俺に探索者カードを投げ捨て、鬼戸たちは去って行った。
校舎裏には、満身創痍の俺だけが残された。
「……」
自分が情けなくてしょうがなかった。
やり返せなかったこと、
言い返せなかったこと、
そんなんじゃなかった。
俺が、俺自身を信じることができなくなっていたことだ。
鬼戸たちのいじめを受ける毎日で、自己肯定感ってのが無くなりつつあった。
「……最悪な気分だ」
身体に鞭を入れ、俺は起き上がる。
とにかく、今日も放課後はダンジョンに行かなければ。
継続は力なり。
今の俺には、その言葉だけは信じられた。
いや、都合よく縋っているだけかもしれない。
それでも……何もないよりは幾分かマシだった。
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