ガノヴァス
「ムバータ……様……!」
エリスさんが反射的に僕の前に立ち、警戒心を孕んだ目つきでムバータを睨む。その反応は、もはや明らかに彼を敵視しているものだった。
「コソコソと嗅ぎ回りおって……何も考えずにクエストだけこなしていればよかったものの」
ムバータは、その丸々と太った体格から発せられる威圧的な足音を鳴らしながら地下室の中に入ってきた。台詞とは裏腹に、その態度は余裕げだ。
「本当なんですか……!? アムルアとかいうエネルギーを集めるために、エリスたちを戦わせていたって……!」
「このワシが人々のために化け物退治のギルドを運営するはずがないだろう」
(うわぁ……本当に見た目通りの人だった……)
初対面のときから悪そうなイメージが強かったが、正真正銘のどストレートな悪人だった。逆にエリスさんたちはよく今まで無事だったな……。
「一体何のために……! この『ガノヴァス』っていう島が目的って、どういうことなんですか!?」
「『ガノヴァス』とは、複数の意味を持つ言葉だ。最も古くは、太古の昔に宇宙の果に存在した惑星――凶星ガノヴァスのことを指す」
もはや隠す必要はないと言わんばかりに、ムバータは話し始める。
「後に凶星ガノヴァスは爆発して消滅するのだが、吹き飛んだ星の破片の一つが、巨大な隕石としてこの星ネルギスに衝突した。落下地点は大海原のど真ん中。ちょうど海底火山にめり込み、海面から顔を出した状態で静止した隕石は、長い時間をかけて海底と同化していき、更に火山の溶岩によって体積も膨らみ――やがて一つの大きな島となった。その島もまたガノヴァスと呼ばれ、巨大な火山と広大なジャングル、そして恐ろしいモンスターが蠢く地獄の島となったのだ」
「それがその地図の島だ」とムバータは顎で卓上の古地図を指す。
「島が目的って、どういうことだよ……!?」
「そう急くな、若造よ。『ガノヴァス』とは複数の意味があると言ったろう」
ムバータは不敵な笑みを浮かべながら、テーブルの周りをゆっくりと歩く。一定の距離を保つように僕とエリスさんは後退りしながら、彼の言葉に集中した。
「何年も前に――それこそワシが踊り子ギルドを創設するより以前、ワシはシュベリやガルデンらと共に探索隊を組んでガノヴァスの島に向かった。当時のワシは世界各地の財宝・秘宝を収集するトレジャーハンターのようなものをやっており、ガノヴァスの島にも宝があるのではないかと睨んだわけだ」
ムバータの予想外の過去が明らかになる。
なるほど、ここにある富は全てトレジャーハントで得たものか。そして、やはりシュベリとガルデンも悪党だった。
「ガノヴァスの島の火山洞窟の奥で、ワシはとある鉱石を見つけた。凶星ガノヴァスの欠片だ。島の表面は火山から出た溶岩によって新たな大地を形成していたが、地中深くはかつての隕石の成分の名残があったのだ。ワシはガノヴァスの欠片を持ち帰ることに成功した。その闇色を帯びた真紅の鉱石の美しさを貴様らにも見せてやりたいところだが、残念なことにそれはできない」
ムバータはにやりと不気味な笑みを浮かべながら、唇を舐めた。
「食ってしまったからな」




