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最奥の激戦

 現れたオークは三匹。いずれもこれまでの個体同様、鉄の胸当てと棍棒で武装している。


「来たよ!」


 エリスさんが腰布を浮かせて俊敏に立ち上がった。僕もリーナさんの足から手を離して急いでエリスさんの背中側に回る。


「はぁっ……はぁっ……あたしとしたことが……」


 熱い息を吐き、ずれかかった腰布のチェーンを直しながらリーナさんが最後に立ち上がった。

 虚ろだった目は、しかしすぐに先鋭な光を放つ。


「でも――確かにこれはいい感じね!」


 力強く言うやいなや、風を帯びてリーナさんが前に飛び出した。目にも止まらぬスピードで先頭にいたオークに肉薄し、拳で顎の下を打ち上げる。ずっしりとしたオークの体が浮くほどの威力だ。


「ぐがァ!?」


 オークはそのまま仰向けに倒れる。僕は目を丸くした。


「す、すごい……!」


 どうやら回復だけでなく、強化の効果も多少現れたようだ。しかし、()()だとしてもパワーの上がり幅が大きい。


「よくもッ!」


 もう一匹のオークがリーナさんに向かって棍棒を振り下ろしてくる。頭部を狙った凶悪な一振りだ。

 しかしリーナさんには届かない。瞬時に反応したリーナさんは裏拳で棍棒を弾き飛ばし、うろたえた敵の喉元に拳をぶち込んだ。


「ぐえッ!?」


 あっという間に二匹目を撃破。

 三匹目は――

 僕が目線をずらした時、すぐ近くで三匹目のオークの棍棒を回避するエリスさんの姿が映った。


「そこっ!」


 胸を弾ませ、腰布を翻し、エリスさんがオークの横顔に回し蹴りを食らわせる。


「ぐげェ!?」


 エリスさんのつるっとした踵に顔面を穿たれ、最後のオークが倒れ伏した。


「や、やった……!」


 僕が安堵の声を漏らした矢先、再び遠くから大勢の足音が押し寄せてきた。


「気づかれたみたいね! 場所を移すわよ!」


 リーナさんが貯蔵庫にあった別の出口に飛び込む。


「うん! 行こうお兄さん!」


「わかった!」


 僕はエリスさんの背中を必死に追いかけた。


 地鳴りのようなオークたちの足音を背中に感じながら、僕たちは洞窟内をひた走り――

 やがて大きな空間に出た。


「ここが最奥ね……!」


 オークの巣窟の中心部。

 円形をしたその広間の中心まで僕たちが進むと、追いかけてきたオークの群れが後方から、そして別の入口からは更に大勢のオークが湧き出てきた。


「囲まれた……!?」


 僕は反射的にエリスさんの背中にひっつく。汗ばんだ背筋に触れてしまったが、今はさすがに危機感の方が上回っていた。


「ちょうどいいわ。ここで全滅させちゃいましょう」


「ええっ!? この数を相手に……本気なのかい!?」


「だから、一対複数なんていつものことよ。それに今回のクエスト目標はオークの殲滅。いちいち探して一匹ずつ倒すより、こうして集まってもらった方が手っ取り早いわ!」


「そうだね! お兄さんは絶対にエリスから離れちゃだめだよ!」


 ママママジすか二人とも……!


 オークたちは皆武装していて、唸り声を上げながらめちゃくちゃ怒っている。

 こんなの普通なら袋叩きにされるぞ。


 なのにエリスさんとリーナさんは少しも怯えずに、戦いの姿勢を取っている。

 布切れしか身にまとってない丸腰なのに……。


「お前らなんだその格好は? 自ら俺たちの奴隷になりに来たのかァ?」

「ギャハハハ! 大歓迎だぜ!」


 オークたちが下劣な言葉をエリスさんとリーナさんに浴びせる。

 まぁ、正直そう思われても仕方ないとは思う……。


「そうなればいいわね」


「エリスたちは踊り子! あなたたちを退治しに来たよ!」


「退治だァ? お前ら正気か? ガキが二人丸腰で何言ってやがる!」


(……僕は含まれていない!)


 名付けるなら、スキル『路傍の石』! ……いや全くかっこよくないが、実際僕に目をつけられても困る。


「いいからとっととかかってきなさいよ。こっちは女の子二人なんだから余裕なんでしょ?」


「生意気なガキめ! 俺らの巣穴にそんな格好で入ってきたことを後悔させてやる!」


 「かかれー!」という合図で、オークたちが一斉に襲いかかってきた。

 僕はエリスさんの柔らかな二の腕に抱きついて竦み上がるばかりだ。


「うわわわ! 来たよ来たよ!」


「大丈夫! お兄さんのことは必ず守るから!」


「エリス、お兄さんを頼んだわよ! あたしは好きにやらせてもらうわ!」


 リーナさんはつま先で岩の地面を蹴り、疾風のようにオークの群れへと突っ込んでいった。その体には布切れのような腰布と胸布しかまとっておらず、お腹も背中も太もももむき出しの全身無防備状態。しかし身肌集中という、何よりも強力な戦闘技能が四肢を力強く奮わせている。

 

 オークが一匹、リーナさんへ向かって攻撃を仕掛ける。

 棍棒を振りかぶり、叫び声と共に振り下ろす。


「遅いわよ!」


 リーナさんはまるで踊るように身体をひねってかわす。翻るお尻側の布など気にすることなく素早く敵の背後に回り込むと、オークの脇腹に鋭い回し蹴りを叩き込んだ。


「グガァッ!?」


 巨体がぐらつく。だが倒れない。リーナさんの眉が僅かに上がった。


「やるじゃない! でも――ッ!」


 彼女は滑るように横へと動き、二撃目、三撃目と足技を繰り出す。

 かかと、膝、足の甲。全ての動きが流れるように繰り出され、オークを圧倒した。


「うぉぉッ!」


 一度に二匹のオークがリーナさんに殴りかかる。

 リーナさんは一撃目の棍棒を避け、二撃目の棍棒を片腕でガードした。


 ガードと言っても生身の腕でだ。その衝撃は間違いなく肢体に響いているはずだが、リーナさんは強い気迫でそれを押しのけた。


「効かないわよッ!」


 間髪入れずにオークの顔面をぶん殴り、卒倒させる。

 二匹目のオークには胸の中心にキックをお見舞いし、後方へふっ飛ばした。鉄製の胸当てが凹むほどの威力。裸足なのに信じられない。


「グォォッ!」


 すぐ後ろからオークの雄叫びが聞こえた。リーナさんの戦う姿に目を奪われている場合ではない。僕の近くにもオークの集団が迫っていた。

 乱暴に振り下ろされる棍棒を素手で受け止めたのは――エリスさんだ。


「させない! うぉぉおッ!」


 エリスさんはものすごい気合でオークの腹を連続で殴った。またも素手のパンチなのに鉄の胸当てが凹み、よろめくオークの顔面をハイキックで蹴り飛ばした。


「生意気なッ!」


 別の角度から再び棍棒が襲いかかってくる。エリスさんは腕をクロスさせて咄嗟にガードする。前の布も後ろの布もめくれ上がるほどの衝撃。にも関わらずエリスさんは踏みとどまる。


「こんッ……のぉぉ!」


 エリスさんは、防備がなされていないオークの足に蹴りを叩き込んだ。うめきながらバランスを崩すオークの横顔に、立て続けにエリスさんの拳がヒットする。それでも倒れなかったが、エリスさんに油断などない。


「はぁぁあッ!」


 間髪入れずに逆サイドからパンチを食らわせ、自分よりもガタイの大きいオークの猛者を叩き伏せた。


「お兄さん! 大丈夫!? 怖くない!?」


「は、はいっ!」


 いやエリスさんたちこそ……!


「どうしたの!? もっとかかってきなさいよ!」


 リーナさんは少し離れたところで大勢のオークを引き付けている。飛び上がり、回転し――白い肉体を激しく躍動させながら着実に敵を倒していっている。


「まだまだ! とりゃあぁぁあッ!」


 エリスさんも、僕を守りながら押し寄せるオークの波を汗だくになりながら屠っている。拳、肘、膝、足――その全てから汗を散らして戦い続けている。


(すごすぎる……!)


 本当に、武器や防具に頼らず、身一つでオークたちを打破している。

 僕は思わず胸が高鳴った。

 なりふり構わず全身全霊で戦うエリスさんとリーナさんの姿は、あられもない格好であるにも関わらず神々しくすら見えた。

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