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唯一のギルド

 武具屋で僕の装備が整ったあと、早速オークの巣窟に向かうことになった。

 村を出るとすぐ近くに森があり、リーナさんとエリスさんは躊躇うことなく森の中に踏み入っていく。僕は彼女たちの背中に隠れるようにくっついていった。


「んっ……草がチクチクする……っ」


 むき出しの素手で背の高い草をかき分けながら、エリスさんが悩ましげな声を上げる。


「ほんと、鬱陶しいわね……。あんっ……布が……っ」


 生足で草を踏み倒すリーナさんも小さく叫んだ。腰布に草の先端が引っかかったようだ。


 一方、完全防備の僕は――一切の労力をかけずに後ろをただ歩いているだけだ。胸元もお腹も両足もさらけ出している少女二人に道を作ってもらっている状態。


(なんだか申し訳ない……!)


 本当なら僕こそ前に立って草木をかき分けるべきだ。言い出すタイミングを見計らって、僕は口を開いた。


「あの……僕が前を歩こうか?」


 エリスさんが肩越しに僕を振り返った。こめかみから汗を垂らしているが、表情は笑顔だ。


「いいのいいの、こんなのいつものことだから」


「あたしたちが先頭に立った方が危険を察知しやすいしね」


 リーナさんは汗だくの背中をこちらに向けたまま答えた。


 エリスさんの言う通り、踊り子にとっては森でのクエストなどよくあることだろうし、リーナさんの言う通り、僕が前を進んだら敵の出現に反応できないだろう。


 裸足に最小限の衣装という信じられない姿なのに、どこまでもたくましく森を進む踊り子二人。僕は「はい……」と諦めて、大人しくついていくことにした


「はぁっ……はぁっ……」

「んっ……ふぅ……ふぅ……」


 草木を一生懸命かき分けるエリスさんとリーナさんの、どこか色っぽい息遣いは絶えない。

 白い背中はすっかり汗でびっしょりになっており、草や葉っぱがこびりついている。お尻側の布も汗でピッタリと張り付いてしまい、お尻の丸みが完全に浮いて見えていた。

 その下に伸びる艶めかしい生足も汗に濡れ、すべすべの膝の裏がてらてらと光っていた。足先は土と草で汚れていたが、それも妙に生々しくて僕の気持ちを高ぶらせていた。


(森を歩いてるだけなのに……なんだこの妖艶な光景は……!)


 頑張って道を作ってくれている二人をそんな邪な目で見てはいけない。僕は頭を軽く振り、話題を作ることにした。


「……そういえばさ、踊り子ギルドの他にもギルドってあるの?」


 屈強な戦士とか、崇高な魔法使いとか、清純な僧侶とか――ファンタジーの世界には踊り子以外にも戦闘可能な人材がいるはずだ。しかし今のところ、踊り子以外にお目にかかっていない。


「んー、ないと思うよ。聞いたことないなぁ」


 エリスさんからの予想外過ぎる返答に僕は飛び上がった。


「ええっ? ないの? ギルドはディラメル館だけ?」


「ええ。ていうか、まともにモンスターと戦える人なんていないと思うわよ。あたしたち以外に」


 リーナさんも、さも当たり前のことのように言う。


「どどど……どういうこと!? 城の軍隊とかもないの!?」

「ないない。リュシーラにもそういうのはないよ」

「だって……武器とか売ってたじゃん? さっきの店で……」

「あれはそれこそ護身用よ。お兄さんがそうだったようにね。自らモンスターに戦いを挑む人向けじゃないわ」


 な、なんだ……!?

 どうなっているんだ、ここの世界観は……!?


 僕は混乱する頭を必死に整理する。


「ええっと……つまり、オーガとか、オークとか、そういうモンスターを退治できる人は、この世界でエリスさんとかリーナさんたちディラメルの踊り子だけってこと?」


「まぁそうなるわね」


「うん。だからクエスト依頼もディラメル館にしか来ないよ」


「えええ!? この世界の平和は踊り子さんに全任せってこと!?」


 僕はめまいを覚えた。エリスさんとリーナさんは平然と森を進んでいる。お尻側の布はすっかり乱れ、片方の丸みが大きく顔を出して光っていた。


 な、何だこの世界は……!?

 踊り子少女だけしか怪物と戦える人間がいないって……尖りすぎだろ……!

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