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89 猫耳少女チェルシー


 大男は大きな斧を振り回しながら俺に迫ってくる。普通の人ならば戦闘において太刀打ちできないくらいなはずだが、俺は色々と死闘を繰り返してきた。これくらいならどうということはない。

 

 (周りの被害を最小限に抑えたいが…なら…!)


 「閃光剣っ!」


 俺の周りからいくつもの光る剣のような形のような物が現れ、大男に一直線に伸びていく。


 「はははっ!金剛壁っ!」


 真っ直ぐ伸びた光の剣が大男に命中するが、書き消されたように全て消えてしまう。

 

 (意外とやりやがるな…)


 (ルイスどの…。ここは拙者が隙を作るでござる。その隙にスキルを使うでござる!)


 (仁さん!ありがとうございます!)


 「次は俺からいくぜぇぇ~っ!!」


 大男は斧を軽々と上へと上げると瞬時に振り下ろしてくる。


 「身体強化っ!!」


 斧が振り下ろされる瞬間に俺は強化魔法で身体強化のバフを付与する。更に、長袖で隠された腕にはミスリルの小手を装着している。古代エルフにより開発されたこのミスリル鉱石で加工された銀色の武具の耐久性は計り知れない。そのミスリルの小手にも強化付与を施す。振り下ろしてくる斧を腕で弾く。


 「な、なにいっ!!」


 鋭い金属音がするとともに火花を巻き散らかす。正確には、相手の斧が欠けて細かい鉄クズに火がついたみたいだ。

 俺が大男の攻撃を弾き返したと同時に仁さんが忍術を放つ…。大男は弾き飛ばされた状態のまま体中が痙攣したような感じだ。仁さんの忍術の一つ。相手を痺れさせる忍術の影縛りだ。


 「ぐぐぐっ!ぐぎっ!!な、何をした!?」


 「どうでもいいだろ。それよりも自分の事を心配した方がいいぞ?」


 俺は、手に持っているミスリルソードを大男の首筋にあてがう。大男は死を観念したのか目を瞑る…。背の低い男も恐怖でしゃがみこみながら硬直している。


 「早く!早く一思いに殺せっ!!」


 「簡単に殺せるならそうしたいさ。でも最後のチャンスをやる」


 大男の言葉を聞いて、俺はそう言い放ちケットシーの少女の方を向く。少女は相変わらず怯えていて自分がどうなるかも分からず不安そうな表情でしゃがみこんでいる。俺は少女に近づくと、また小声で他の人に聞こえないように話しかける。


 「君の名前は?」


 「あっ…、ち、チェルシーにゃ…」


 「そっか。ありがとう。君の姉さんは必ず助ける。もう少し辛抱してくれ…」


 「えっ?」


 チェルシーという少女はきょとーんと放心状態になり、変な返事をした。


 「お姉さんの居場所は分かる?」


 「えっ?わ、わかりますが…」


 「そうか。分かった…」


 俺はチェルシーから離れると、また背の低い男達の前に立つ…。


 「おい?」 


 「は、はい!!」


 「こいつらを全員連れて今すぐこの街から立ち去れ!そうするなら命だけは助けてやる」


 「はい!!!今すぐ出ていきます!!」


 俺は、共鳴石を握り、念を飛ばして仁さんに話しかける。転移のスクロールを使い、こいつら全員をエルドアス王国に連れて行き捕獲をする。後は、向こうにいる抜忍だったルシルやファデューさん達が対応してくれるだろう。


 「向こうでも活躍してるなんてな!さすが勇者様だぜ!」


 「いやぁ~ん!ルイスちゃんったら!かっこいいわぁ~!」


 なんていう声が共鳴石を通して聞こえてくる。それに偽者の話を聞き出せるチャンスでもあるから。一人一人をロープで両手を縛り、転移のスクロールで移動させて、なんとかチェルシーというケットシーの少女を無事に助け出せる事に成功した俺たちは、少女を連れて宿へと戻った…。



………。

……。

…。



 

 

 「ど、どう言う事にゃ!?まったく意味がわからないですにゃ!」


 「えっと…、もう一回言うね?俺が本物のルイスだ…」


 チェルシーと一緒に部屋に戻ってきた。チェルシーは怯えながらも状況を把握しようと色々と質問してきた。


 「つまり、私が知っている勇者は偽者という事という事にゃ?」


 「そうなるかな…?」


 「うん。お兄ちゃんが本物。だから安心してほしい」


 ヒナルはそう言うと、俺の首に手を回して抱き締めてくる。それから俺は、チェルシーに今までの俺達の状況を説明する。俺達はとある目的の為にアスガルドに向かう途中、クローディアという少女を保護した事、その中で俺の偽者の話を聞いて、たまたまここの貿易都市エストリアに到着したといった今までの経緯を包み隠さずに話した。


 「じゃあ、貴方が…、本物の勇者様?」


 「うん。そうなるね!でも今は勇者とかルイスってのは内緒ね?俺はここではレイジって名前だから…」


 チェルシーは少しずつ怯えから解放されていく感じで体の震えが収まっていくように見えた。


 「レイジ君? ちなみにこれからどうするのかな?」

 

 「そうだよ!アンタが保護したのはいいけど、お姉さんがまだ捕まってるんでしょ?」


 「お姉さんも助けてあげるべき…です…」


 「レイジさん?同行させてもらって悪いのですが…、私からも…」


 皆がそれぞれ彼女のお姉さんも助けて上げたいと言う。俺もここまで見て聞いてしまった以上は助けてあげたいと思っている。


 「チェルシーの姉さんを助けたいけど…、偽者のルイスは?」


 「彼は分かりませんにゃ…。ただ夜になると居なくなるので助けるなら絶好のチャンスだと思いますにゃ…。」


 チェルシーが今日、抜け出した時には既に偽者は居なかった…。そう考えれば、助けるなら今がチャンスという訳か?


 「捕まっている場所はどんなところ?あと、抜け出した時は他に誰か居た?」


 「捕まっている場所は、ここの街にある地下水路ですにゃ…。北側の港にある長い地下へ向かう階段から私は逃げてきましたにゃ…。多分、裏道になっていると思いますにゃ。裏道には特に人も居なかったので簡単に行ける思いますにゃ…」


 「そっか。ありがとう!それじゃあ…チェルシーのお姉さんを助けてあげよう!」


 「あ、あっ…、ありがとうございますにゃあああ!!」


 チェルシーの声が直ぐに涙声になり、目から大量の大粒の涙がぼろぼろと雨のように流れ出た…。


 「じゃあ…、先ずはどうやって助け出すか…、だね。余りモタモタはしていられない。どうするか即決で決めよう!」


 俺の発言に皆が一斉に「おーっ!」と声を出してくれた。本当にありがたい事だ…。

 

 


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