82 少女の名はクローディア
~そして現在…~
「…までがアスガルドに向かう理由についてはだ。」
旅の途中、俺を見て恐怖していた魔族の少女は黙って聞いていた。
「じゃあ、ルイスさんは本当にアスガルドやセトリア王国にも来た事がないの?」
「そうだよ。今まで行った事もないからね…」
「兄貴なんか目立つの嫌でひっそりと村の村長さんしてるしね~!ボクはそういう所が好きなんだけどね~っ!イシシ!!」
シューは俺の首を抱きながら顔をくっつけて頬をすりすりしてくる。
「じゃあ、他の人から聞きましたが…女たらしという噂は…?街中で凄く話題になっていましたが…」
「はぃいっ?!誰がそんなありもしない噂話を!?」
俺は一瞬、変な声が出た。俺のそんな発言に少女はじ~っと警戒するかのようなジト目で、俺を見てくる。いや…睨んでるのか!?こ、怖い!
「うんうん!旦那様は我達には弱いのじゃ!だから我達が街中でこうやっても怒らないのじゃ!」
俺の後ろに居たスルトが、そう言う俺の隣にやってきて、シューと一緒に俺に抱きついてくる…。しかも俺の腕に体をくっつけて…。スリスリしてくる。まな板ちっぱいが、何気に俺の腕を伝わり、小さいイチゴが当たる。その当たる感触がとても俺を変な気分にさせてくる。
や、やめてくれ!ほら!睨んでるじゃないか!
「じーっ…」
少女の視線が痛い…。めっちゃ見られてるし…。それでも気にせずに二人はスリスリとしてくる…。
「い、いい加減やめろ~ぉ!!おまえら~!」
「ぷふっ!!あはは!!」
少女がそんな俺を見て何故か笑いだす。
「えっ?」
「本物のルイスさんって、なんか私の兄ちゃんみたいで…」
たしか、ハロルドさん…だったか…。
「そういえば、貴方の名前ってなんて言うの?」
とヒナルが少女に話しかける。
「そういえば、まだ名前言ってなかった…。私はクローディア。ジョブはティマー。…といってもまだ使役するモンスターもいないけどね…」
「えっ!?ティマー!?」
クローディアのジョブ…。レベルが上がればかなり手強い魔獣すらも手懐けてしまうくらいのユニークジョブ…。それは正直、聖女等のクラスにも匹敵する場合もあり、大きく戦況すら変えてしまうほど。
「うん!兄ちゃんの周りにいるあの人達がいつもいたから私の出番はそんなに無かったんだよね…。それに私のレベルはまだまだ低いから…」
「じゃあ尚更、俺達と来た方がいいな…」
「うんうん!何かあれば私達も守ってあげれるしね!それにルイス君がいれば大丈夫だよ!」
ミランダのフォローでクローディアは少しずつ緊張がほぐれていくのが分かる…。
「ありがとうございます…。本物のルイスさんって優しいんだね…」
「そだよ~っ!!なんっていったって~っ、ルイスは~ウチのウサ神様だからね~っ!だから安心してね~っ!」
横からコタースも彼女の不安を取り除こうとしてくれてフォローしてくれる。
「うん!」
それから、俺達は一人一人自己紹介をする…。彼女達の年齢とクローディアは近いからすぐに打ち解けた。それから今日は前に王様から貰った異空間ストレージの中で皆で休む事になった…。
ストレージの中に入ると、クローディアは異空間ストレージに入るなり驚きの声ばかりあげていた。
「な、なななな!?なにこれ~!!あの小さな箱の中に入ったって思ったら!?」
なんて驚いていた。無理もないさ。俺も最初はそうだったから…。
それから俺達はそれぞれの部屋に入り休みを取る…。ヒナルがクローディアと一緒に寝たいって事だった。二人は何故か一番仲良くなっていた。
………。
……。
…。
~ヒナル視点~
「そういえば、ヒナルちゃん? ヒナルちゃんってルイスさんと顔が似てるけど…、本当の兄さんなの?」
「うん!そうだよ~!しかも私達、異世界から来たんだ~」
クローディアは目を真ん丸くしながら驚いていた。そりゃそうだよ。目の前に異世界から来た人がいたらびっくりするよ。
「え!?じゃあ迷人だったの!?」
「うん!」
私はクローディアにそう言うと、目をキラキラさせながら話を夢中で聞いてくれる。
「お兄ちゃんは私が産まれてすぐにこっちの世界に来て…。私がこの世界に来た時に偶然助けてくれたのがお兄ちゃん…。そして私がお兄ちゃんに恋をした後に…兄妹だって知ったんだ~…」
「ルイスさんに恋を?!」
「うん。私達は付き合ってる恋人だよ~」
クローディアは私の話を興味津々に聞いてくれる…。
「そっか~。実の兄妹でかぁ~。なんか羨ましいなぁ~。私の兄ちゃんも優しいけど、やっぱり兄妹以上の関係には見れないからなぁ~。あっ、否定してるわけじゃないよ!?」
「あはは!大丈夫だよ!ねぇねぇ?クローディアって何歳なの?」
「私?私は16だよ!」
私と同じ年だったんだ!?でもどことなくそんな見た目だったから驚かなかった。
「おーっ!?実は私も16だよー!」
「えっ!?じゃあ同じ年だ!?なんか嬉しい!」
あれ?でも魔族って年が…
「あれ?魔族って成長が… たしか…、人間から見れば…」
「私のパパが人間だったから、私と兄ちゃんはハーフなんだよ~」
そういうことか~。だから私達と同じ年齢くらいの見た目なんだ~…。
それと不思議に元の世界にいた数少ない友達と話をしている感じで楽しい…。どことなく私とクローディアが似ている感じがしたから…。
「ちなみにハロルドさんは何歳?」
「21だよ~」
「えっ!?まじに!?私のお兄ちゃんと同じだ!」
「うそー!!ルイスさんも兄ちゃんと同じ年なんだ~!!私達似てるね~!」
「うんうん!!」
クローディアとは話が合い、すぐに友達になれる気がした。うん。種族とかこの世界には関係ない。誰とだって仲良くなれるんだよ。
「そういえばその偽物のお兄ちゃんについていった人達も魔族なの?」
「違うよー。姉妹の二人がヒューマンとあと一人はエルフ…。兄ちゃんが魔族だからって簡単に捨てるような最低な人達だよ…。」
「その人達は魅了かけられているとか?」
「ううん…。違うみたい。ただ単にあの人達の浮気と、魔族を嫌っていて、兄ちゃんが魔族だってわかったからみたい…。」
「うわ~、まじ最低…」
クリステルさん達の時はあのクズによる魅了だったけどさ…。
「ほんとほんと!頭来ちゃうよ…。というか、ヒナルがよく使うマジって言葉は何?」
「あ~、こっちの世界の人って知らないもんね…」
クローディアの顔には会った時の不安な表情が消えていて、ニコニコしながら二人ベッドで横になりながら会話している。修学旅行とかを思い出すなぁ~…。
「えっとねー…。本気?っていう感じかな?」
「ほうほう!!えっと…、あいつらまじで許さない!みたいな使い方?」
「そそ!」
「いーね!こっちの世界でも広めちゃおっか!」
クローディアは口元をいーっとして話す。
「おー?お~!!やっちゃう?マジやっちゃう!?」
「マジでやっちゃおー?」
私達は、深夜までお話で盛り上がった。またここに来て新しい友達ができたのだった…。




