66 ホーエンとの戦い…
東の空に雷鳴が轟き、西の空には土煙が上がる。 仁さんやルシルさん、ファデューさん達が、宿敵スザクとの決着をつけるために城外へと疾走していった。 コタースやフレア、ケアルも、アドバンさんやガッシュと共に、西側から迫る魔物の大群を食い止めるために戦場へと向かっていった。
残されたのは、崩壊したホテルの瓦礫の前に立つ俺とヒナル。 そして、過去の罪と向き合う覚悟を決めたクリステル、エアロ、シューの三人。 さらに、母の姿に怯える魔王の娘、スルト。
静寂。しかし、それは嵐の前の静けさなどではない。 空気が鉛のように重い。呼吸をするたびに、肺が凍りつくような悪寒が走る。
その時だった。
「お兄ちゃん……? あれ……みて……」
ヒナルが震える指で、赤黒く染まった夕闇の上空を指差す。 そこに、アレがいた。 俺の育ての母、ユミルの体を乗っ取った悪霊。女神崇拝教の幹部、ホーエン。
ヤツが、動き出した。 飛行魔法で飛んでくるのではない。 まるで、空中に見えない階段が存在するかのように、一歩、また一歩と、優雅に、かつ不気味なほどゆっくりと、こちらへ向かって歩いて降りてくるのだ。 その足取りの一つ一つが、俺たちの心臓を土足で踏みつけるような重圧を放っている。
「……来るぞ!! 総員、戦闘態勢ッ!!」
俺は叫び、即座に指示を飛ばした。
「ヒナル……。皆を守るために、全方位に【シールド】を展開し続けてくれ!!」
「うんっ! 任せて!」
「シューは使える瓦礫を全て矢の代わりにしろ! エアロは最大火力の攻撃魔法の詠唱を開始! ありったけの魔力を込めろ!! 俺が今、全員に【身体強化】と【魔力増幅】のバフを掛ける!」
俺は聖剣を掲げ、仲間たちに黄金のオーラを纏わせる。 そして、俺はゆっくりと、杖を構えて震えているクリステルの横に並んだ。
「……クリステル。お前の力を貸してくれ」
「……えっ?」
「ルイス……。分かりました! 貴方の為なら、この命に代えても……何でもします!」
クリステルが顔を上げ、決意の瞳で俺を見る。 俺は、上空から絶望的なプレッシャーを放ちながら降りてくる『ソレ』を睨みつけたまま、早口で告げた。
「あいつは、俺の母ではない。母ユミルに寄生した、『ホーエン』という女神崇拝教の狂信者の亡霊だ」
「女神崇拝……。あの大女神テラを始祖として結成されたという、古い教団……」
「ああ。女神と言えば聞こえはいいが……。今の世界は、何か決定的な真実を隠している」
俺は、この世界に来てから感じていた違和感を言葉にした。
「俺達がこれまで味わってきた、胸糞悪い裏切りや悲劇……それらは全て、ヤツらに仕組まれたものに違いない。復讐を喜ぶ女神、性や洗脳といった呪術を好む女神、権力を振りかざし人間を駒とする女神……。すべては、そこにある『悪意』に繋がっている」
「神話に出てくる、嫉妬深い女神達……ですね……」
「そうだ。そしてホーエンは、それらの悪意を崇拝し、自らも同化した人物だ。ヤツはかつて処刑されたが、こうして現世に怨念の魂として残る事を決めた幽体なんだ。……ヤツを生かしておけば、様々な欲望を持つ女神と同じやり方で、この世界を滅亡させてしまう……」
クリステルは俺の話を聞いた後、何かを悟ったように何度も深く頷いた。
「ふふふ……。ルイス、貴方は優しいですわね……」
「えっ?」
「回りくどい言い方をしなくても、はっきりと言って良いですわよ? ……霊体に対して有効な『エクソシスト(退魔)』の能力を使えるのは、ここにいる中では私しかいない……。だから、私が主力になれと」
クリステルは目を細め、どこか嬉しそうに、そして儚げにこちらを見た。 「俺達が精一杯フォローする。お前一人にはさせない」
「うん……。いつも変わらず……貴方は優しいわ……。私なんかに……」
クリステルの声に、深い後悔と、それを上回る愛情が滲む。
「……」
「では……私の背中、貴方に任せましたわよ?」
「ああ……。信じてる」
その時。 地上まであと数メートルという距離まで降りてきた『ソレ』が、ピタリと足を止めた。 母ユミルの顔。母ユミルの声。 だが、その瞳には、母さんが決して俺に向けなかった、冷たく濁った色が宿っていた。
「……会いたかったわ……ルイス……」
「……」
それは、慈愛を模倣した妙な表情を作り、どこか冷たげに、しかし甘ったるい声で話しかけてくる。
「どうしたの? お母さんを忘れたのかしら? 愛しい私の息子……」
「……黙れ……」
俺は聖剣の柄をギリギリと握りしめる。
「ほら、こっちへいらっしゃい。また昔のように、森の家で一緒に暮らしましょう? 美味しいシチューを作ってあげるわ」
「……黙れ……。その声で喋るな……」
それは、俺の動揺を楽しむように、冷徹にして冷酷な笑みを浮かべる。
「ふふっ。そしてこの世から魔族を消し去り……貴方は偉大な勇者となるの……。またお母さんと一緒に、幸せに暮らしましょう? 貴方の望みはそれでしょう?」
「黙れっ! 母さんはそんなこと言わない!」
「貴方はよくやったわ……。私のために、たくさん傷ついて、たくさん殺したのね。偉い子……。さぁ……こっちへいらっしゃい? 抱きしめてあげる」
ホーエンが、母ユミルの腕を広げる。 その仕草が、記憶の中の母さんと重なり、俺の心を抉る。 だが、今の俺には分かる。そこに愛はない。あるのは、俺を取り込み、利用しようとするどす黒い欲望だけだ。
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れっ!!! 母さんを……ユミル母さんを返せっ!! ホーエンっ!!」
俺の絶叫が響き渡る。 すると。 それまで聖母のような顔をしていた『ソレ』は、一気に表情を変えた。 顔の筋肉が醜く歪み、暗闇で覆われたような、底知れぬ悪意に満ちた冷酷な嘲笑を浮かべる。
「……ふふふ! ふぉっふぉっふぉっ!! なんじゃ、最初からばれておったのか……。つまらんやつじゃ……。少しは感動の再会ごっこを楽しもうと思ったのにのぅ」
本性を現した魔神。 その瞬間、俺の隣で魔力を練り上げていたクリステルが、杖を高く掲げた。
「お兄様を惑わす悪霊!! 準備できましたわ!! その汚れた魂、私が祓います!!」
クリステルの手から、無数の光の雫が溢れ出し、空中に巨大な魔法陣を描き出す。
「神聖なる癒やしの雨よ、邪悪を穿て!! 聖女の浄化魔法!! ――【キュア・レイン】っ!!」
シャラララララララ……ッ!!
魔法陣から、目映いばかりの光の雨が降り注ぎ、ユミルの体を乗っ取ったホーエンの全身へと襲いかかった。
承知いたしました。 母ユミルの肉体を盾にされたルイスの苦悩、追い詰められたホーエンの狂気、そして放たれる最期の呪い。 この一瞬の出来事を、スローモーションのように濃密かつドラマチックに、大ボリュームで書き直します。
第九十一章:女神の呪詛、堕ちる母と黒き殺意の閃光
~ルイス(レイジ)視点~
「ほう……。エクソシストの能力か……。小賢しい真似を。じゃが、ワシは今や『神』ぞ? 器が人間であろうと、魔力の質ではお前達ごときよりも遥かに上じゃ……。お主らが束になろうと、ワシには勝て……ぬ……ッ!?」
余裕の笑みを浮かべ、口元をニヤリと歪めていたホーエンだったが、その言葉は途中で凍りついた。 クリステルの放つ【キュア・レイン】の光の雨が、ユミルの肌に触れた瞬間、ジュッという音と共に黒い煙が上がり始めたのだ。
「……な、なんだこの重圧は……!? ワシの魔力が……押し負けておるだと!?」
ホーエンが驚愕に目を見開く。
「残念だったな!! 今は、俺達の方が魔力は上だッ!! 俺が……勇者としての全魔力を上乗せした『最強のバフ(身体強化・魔力増幅)』を全員に掛けているからな!」
俺は叫び、聖剣からさらに黄金のオーラを噴出させた。その輝きは、ホーエンの闇を圧倒的に凌駕していく。
「馬鹿な……。そなたはただの、出涸らしの勇者じゃ……ないの……か?! この底なしの魔力……まさか……伝説の『神話級』の……」
ホーエン……いや、憑依されている俺の母親、ユミルの肉体がガクガクと震え、空中でふらつき始める。 支配が揺らいでいる。引き剥がせる!
「……っ!? いや、違う! 勇者の力だけではない……。あ、あそこの……も、もう一人の……聖女の……せいか!?」
ホーエンの血走った目が、俺の背後で必死に防御結界を維持しているヒナルを捉え、じっと睨むように見つめた。 その瞬間、ホーエンの顔が恐怖と憎悪で醜く歪む。
「……その、清浄すぎる魂の輝き……。貴様……ただの聖女ではないな? まさか……『大聖女』かッ!!?」
「……っ!!」
ヒナルがビクリと体を震わせる。 その存在が、悪霊であるホーエンにとって、直視するだけで魂を焼かれるほどの猛毒となっているのだ。
「あの娘を……消さねば……。ワシの存在が……肉体が……維持できぬッ……。あの……忌々しい大聖女が……!」
ホーエンは苦痛に顔を歪めながらも、ヒナルが大聖女であると確信し、明確な殺意を膨れ上がらせる。
「クリステル! 効いているぞ! まだいけるか!?」
「え、ええ……!! なんとか!! お母様を……ユミル様をお返しなさいッ!! はぁあああああああっ!!」
クリステルが杖を握る手に血が滲むほど力を込め、魔力を注ぎ込む。浄化の雨が激しさを増し、光の嵐となってホーエンを打ち据える。
「ぐぎぎぎぎぎッ……!! おのれぇぇぇッ!!」
ホーエンは更に苦痛で表情が歪む……。 だが、その目は死んでいなかった。 奴は、震えるユミルの右手を無理やり持ち上げると、その掌に全神経を集中させた。
ズズズズズズッ……
空間が歪むような不快な音と共に、掌から禍々しい『漆黒の球体』が現れる。 それはただの闇魔法ではない。光も、音も、希望さえも吸い込むような、高密度の『虚無』。周囲の瓦礫が、磁石に吸い寄せられる砂鉄のように、黒い粒子となってその球体に集まり、圧縮されていく。
「……せめて、この体から……引き離される……前に……。ワシの計画を全て狂わせた……あの忌々しい大聖女だけは……道連れにしてくれるわッ!!」
「な、何をするつもりだ!! やめろ!!」
俺は一歩踏み出そうとするが、足が止まる。 盾にされているのは、母ユミルの体だ。攻撃すれば、母さんの肉体が消し飛ぶ。その一瞬の躊躇が、俺を縛り付けた。
「ワシは……ここで消えても……必ずや……世界のどこかに女神を崇拝するものが現れ……大地の女神、テラ様を……テラ様を復活させる!!!」
ホーエンの狂気が、黒い球体をさらに巨大化させる。
「な、なんなんだあれは……。魔力の桁が違う……」
黒い球体を破壊したいが……。母さんが目の前にいるため、手が出せない。
「ワシが……ワシが消える前に……。ワシの邪魔をしたそこの小娘を……始末……しておいてやるッ! 死ねぇぇぇぇッ!!」
ヒュンッ!!
ホーエンは、最後の力を振り絞り、ヒナルの方に黒い球体を向け、全力で放出した。 放たれた黒い球体は、空間を削り取りながら、音速を超えた速度でヒナルを目掛け一直線に飛翔する。 速い……! 身体強化を使っている俺の動体視力ですら、黒い線にしか見えない。 今の俺の位置からでは、絶対に追い付けない速度だ……!
「ヒナルッ!!! 避けろぉぉぉぉぉ~~っ!!! 防御じゃダメだ!! よ、ヨケロぉぉぉぉ~~~ッ!!!」
俺の絶叫が響く。 ヒナルは一瞬の出来事に動揺し、反応が遅れた。
「えっ……!?」
だが、彼女も歴戦の聖女。直ぐに死の接近に気付き、咄嗟に杖を前に突き出した。
「――【セイクリッド・シールド】・クアッド(四重展開)ッ!!」
光の盾が四枚、ヒナルの前に重なって展開される。 しかし、あの黒い球体は、そんなもので防げる代物じゃない……!
「この……世から……希望ごと消えるのじゃあああああっ! ぐふっ……。せ、かい……は……わ、我ら……の……女神……に……」
その一撃を放った反動と、クリステルの浄化が限界を超えたことで、ついにホーエンの魂がユミルの肉体から弾き出された。 糸が切れた人形のように、俺の母親、ユミルの体は白目を剥き、空中でぐらりと傾き、まっ逆さまに地面へと落ちていく……。
だが。 術者が消えたのに、放たれた黒い球体は消えていない……! 母親の体から放たれた呪いは、独立した破壊の意思を持って、ヒナルへと迫る。
「や、やめろ……!! やめろぉぉぉーーっ!!」
俺は手を伸ばす。届かない。 ホーエンの黒い霊体が、俺の母親から離れ、虚空へと霧散していく瞬間……。 世界がスローモーションになった。
黒い絶望が、ヒナルの光の盾に着弾する。
「ヒナルぅぅぅぅぅ~~~っ! 逃げろぉぉぉぉぉッ!!!」
ご提示いただいた、あまりにも悲劇的で重要なシーン……。 シューとエアロの決死の覚悟、最期の懺悔と愛の告白、そしてルイスの絶叫。 この魂を揺さぶる展開を、情景描写と心理描写を極限まで高め、涙なしでは読めないドラマチックな大ボリュームで書き直しました。
パリーンッ……!!
耳をつんざくような破壊音が響いた。 ヒナルが展開した絶対防御の盾、その一枚目が、まるで薄氷のように粉々に砕け散った。 続いて二枚目……三枚目と、ホーエンの放った漆黒の球体は、その速度を一切緩めることなく、紙屑のように光の盾を食い破っていく。
そして、最後の四枚目。 必死に魔力を注ぎ込むヒナルの目の前で、光の盾に亀裂が走り、悲鳴のような音を立てて軋んだ。 (……ダメだ。この距離じゃ、俺の足では間に合わない!!!! 届かない……ッ!! うわあああああああああっ!!)
俺は喉が裂けるほど叫びながら手を伸ばした。だが、世界は残酷なほどスローモーションに見える。 最後の盾が砕け散る寸前。ヒナルがゆっくりとこちらを振り返った。 その瞳は、死の恐怖ではなく、俺への愛と感謝で満たされていた。
「ご、ごめんね…… お兄ちゃん……。また……会えて……嬉しかったよ……」
「ウワアアアアアッ!! やめろぉぉぉぉッ!! ヒナァァアアアルゥゥゥ!!」
黒い球体が、最後の輝きを飲み込み、ヒナルの柔らかな体に触れようとした、その刹那。
「――ヒナルちゃんは、死なせないよ!! 兄貴の大事な人くらい……ボクが命に代えても守ってあげるぜっ!!」
「ヒナル様…… お兄様……二人とも……ごめんなさい!! 今までの罪、この命で償います!! 今までごめんなさい!!」
二つの影が、光の速さでヒナルの前に割り込んだ。
「えっ!! シューさん! エアロさん!? だめ! 来ちゃダメっ!! 逃げて!!」
ヒナルの絶叫は、轟音にかき消された。 最後のシールドが、バリンッ! という無慈悲な音と共に砕け散る。 そして――。
ドォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!
世界が白く染まり、その直後、漆黒の爆風が全てを飲み込んだ。 鼓膜を破壊するほどの衝撃音。 半径10メートル以内の建物、地面、瓦礫が、一瞬にして消し飛び、巨大なクレーターが穿たれる。
「ぐぅぅぅぅぅっ!!」
俺は爆風に吹き飛ばされながらも、必死に目を見開いた。 もうもうと立ち込める黒煙と土埃。 その中心に……。
「あっ、あ…… あ……っ……」
俺は、だらしなく口を開けたまま、膝から崩れ落ちた。 何が起きたのか……すぐに分かってしまった。分かりたくなかった。 ヒナルを、あの即死級のエネルギーから庇う為、シューとエアロは……自らの肉体を盾にして、真正面から受け止めたのだ。
俺は、鉛のように重い足を引きずり、爆心地へと這うように駆け寄る。
「いゃあああああああああああっ!! 嫌ぁぁぁぁぁっ!!」
後ろで、クリステルの魂を引き裂くような悲鳴が上がった。 俺は見たくなかった。認めたくなかった。 だが、そこには……残酷な現実が横たわっていた。
「あっあああっ…… あっ……シュー……エアロ……」
黒く焼け焦げた地面に、二人が重なるように倒れている。 ヒナルは、彼女たちの下で、奇跡的に無傷で震えていた。守られたのだ。 だが、その代償はあまりにも大きすぎた。
エアロは、爆撃を受け止めた右腕から肩にかけての半身を失い……。 シューは、下半身を庇ったのか、左足を根元から失い、腹部が赤く染まっていた。 大量の鮮血が、地面に赤い海を作っていく。
「お、お兄様……。ヒナル様は……? ぶ、無事……でしょうか……?」
エアロが、焦点の合わない瞳で、虚空を彷徨わせながら俺を探す。俺は震える手で、彼女の残った左手を握りしめた。
「ああ……無事だ……! 無事だよ……! お前らが守ってくれたから……ッ!」
「よ、よかったです……。……お兄様……。私……本当は……お兄様と……キスしたかったよ……。ご……ごめん……なさい……。汚れた私じゃ……あ……あげれな……く……て……。でも……心はずっと……だい、すき……で……し……た……」
エアロが、ふわりと……まるで花が散るように微笑んだ。
「あ、あに……き……。へへ……。ぼ、ボク……。最後くらい……うまく……役に……やれ……て……いた……かな……?」
シューが、口から血の泡を吐きながら、いつもの少年のような口調で、弱々しく問いかけてくる。
「やれてたよ!! 最高にかっこよかったよ!! お前は最高の相棒だよ!!」
「そっか……よかった……。だ、だいすき……だよ……。ボク……の事を……わすれ……ないで……。あっ、兄貴に……ボクの……初……を……あ、あげ……たかったのに……だ……だめ……だね……ボ……ク……」
シューの手が、俺の頬に触れようとして……力なく地面に落ちた。
二人の瞳から、光が消えていく。 静かに、本当に静かに……二人は息を引き取った。
(な、なんだよそれ! さっきまで……普通に話してたじゃないか……。これから、やり直すんじゃなかったのかよ……!)
俺の中で、何かが音を立てて壊れた。
「し、死ぬな! 死ぬな死ぬな死ぬなぁぁぁぁああああああっ!! 嘘だろ!? お、俺…… まだお前らの、ちゃんと……お前らの謝罪も、想いも、話も聞いてあげてないだろ!!!!」
俺は、動かなくなった二人の体を抱きしめ、血に塗れながら絶叫した。回復魔法をかけようとするが、魔力がすり抜けていく。器が、もう壊れてしまっている。
「頼むよ!! 目を開けてくれよ!! 死ぬなぁああああああっ!!! 最後にもう一度…… もう一度声を聞かせてくれよ!!! 名前を呼んでくれよ!!! うゎああああああっっ!! くそぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
俺の涙が、二人の血に濡れた顔にポタポタと落ちる。
「お、お兄ちゃん……!! もう……ダメ……だよ……。もう……二人は……死んでいる……。私のせいで……私が……うわああああああああああっ……」
ヒナルが俺の背中にしがみつき、子供のように泣きじゃくる。 俺の腕の中で冷たくなっていく二人の幼馴染。守れなかった。勇者なのに。最強の力を手に入れたのに。 一番近くにいた、愛してくれていた二人を守れなかった。
絶望の底で、俺とヒナルが泣き崩れている時だった。 クリステルが、涙を流しながらも、震える声で告げた。 「ル、ルイス…… ヒナルちゃ……ん……、泣いている場合じゃ……ありません……。まだ……まだ終わっていません……ッ!」
「えっ……」
「あ、アレを……見てください……。絶望は……まだ……」
クリステルの指差す向こう側。 ホテルの瓦礫の向こう、赤黒く染まった王都の中心部を見る……。
そこには。 ホーエンが召喚しようとしていた『ナニカ』が、具現化していた。 王城よりも巨大な、禍々しい赤い鱗に覆われた、ドラゴンのような伝説級の巨大生命体。 神話の終焉を告げる獣が、その巨体を鎌首をもたげ、世界を焼き尽くさんとばかりに口を開けていた。
「……ッ!!」
友の死を悼む時間さえ与えられないのか。 俺は、血の涙を流しながら、奥歯が砕けるほど噛み締めた。
「くそぉぉぉぉぉぉっ!!! ちくしょおおおおおっ!! ホーエン……!! テメェだけは……絶対に許さねぇぇぇぇッ!!!」
慟哭と怒号が、崩壊した王都の夜空に虚しく響き渡った。




