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62 戦いの幕開け

 

 ~ヒナル視点~


 クリステルさん達は多分、死ぬつもりだ…。でもどうしたら…。


 「ヒナルちゃん…、今までありがとうございました…」


 「お兄ちゃんが言っていた…。クリステルさん達は復讐が終わったら死ぬ気だって…」


 「ふふふ…。ルイスにはばれちゃってたんですね…」


 「やっぱり兄貴は兄貴だよ!ボク達の事を…ひっく…くやしい…よ…ひっく…」


 「最後に…お兄様の…恨み…晴らせましたか…私達で…」


 お兄ちゃんは死ぬことをきっと望んでない…。その方が悲しむから…。だから…。私は優しい嘘をつく…。クリステルさん達が居なかったら私の恋は実らなかった…。だから今度は私が…。


 「お兄ちゃんはそんなの望んでない!!お兄ちゃんは死んで居なくなる方が苦しくなるって言っていた!!また逃げようとしないで!」


 「これは、私達が望んだ事なの…」


 「違う!それは逃げてるだけ!!」


 「好きな人がもう遠く離れてしまっている事の方が辛いのです…。」


 「うん…、ボクの体は汚れてしまっている…。あの時の感覚はないよ?でもな…。あの光景を見せられてきたボク達は…」


 「もうお兄様に抱かれる事のない惨めな自分がここにいる事の方が…」


 3人は泣きながらうずくまる…。でも私は絶対に引き留める!


 「なら、お兄ちゃんに振り向いてもらえるように何かきっかけ作ろうよ!!私も協力する!だから…」


 これは私の本心。本気で助けたい…。


 「お兄ちゃんは貴方達の事をよく知っている!幼馴染みなんだから!私よりもずっと一緒にいた貴方達なんだから!」


 「…」


 暫く沈黙が続く…。


 「貴方達もお兄ちゃんがどんな人か知っているよね?!お兄ちゃんはたしかに貴方達を憎い思っている!でもその気持ちを癒せるくらいの何かがあるはず!だから…、だから一緒に探そうよ!!」


 「…」


 「暫くは難しいよ?!でも… いずれ時間が解決してくれる日がくるはず!!」


 「…」


 「だって!!お兄ちゃんは優しいんだよ!?誰に対しても平等に振る舞ってくれる…。それが私のお兄ちゃんなんだから!」


 「…」


 「まだ時間はかかるかもしれない…。でも…、でもだよ?貴方達が居なくなったら、お兄ちゃんはそれこそ立ち直れなくなる…。私達がいても…。永遠に引きずる事になる!そんなの恋人の私からしても嫌だよ!!そんなお兄ちゃんを見るのは…」


 「…」


 私は半分泣きながら…。


 「だから…私達を苦しめないで…。そして貴方達も苦しまないで…いつか…いつか必ず理解しあえる時があるはずだから!!」


 「…そうね…。少し考えてみるわ…」


 「…うん…。ヒナルごめん…。ボクも少しバカだった…」


 「私達にできること…ですね…」


 「うん!私も協力していく!お兄ちゃんとしっかり向き合えたのも貴方達がいたお陰なんだから!だから…。今度は私が貴方達を助けるから!」




………。

……。

…。




~ルイス視点~(ヒナルがアレックスと会話する前の事)


 俺は王国に来て、忍者である神牙27代目である神牙仁からの報告の一連を全て伝えた。既に魔物の群生とホーエンやスザクがこちらに向かっている事…。そしてエルフ国を一瞬にして滅ぼした謎の巨大生命体。魔物の中には先日、少年兵が目撃して俺も撃退した黒い人形もいる事を告げる。


 「んでよ~。ルイス。あんたはそれについてはどう思う?やっぱホーエンだと思うか?」


 「あの黒い人形は多分、元は人…。だろうな…。斬った感覚が人だった…。いや…、というよりは死者?ホーエンが何かしら絡んでるのは間違いない…」


 素の姿を出しているエルドアス王。足を組ながら普通の喋り方で話をするその姿はどこかの盗賊団のボスだ。


 「やっぱそう思うか。俺の見解はこうだ。ホーエンが魔族を使って人体実験をやってんだろうな。そいつらは多分…」


 王は目を細めて言う…。


 「それは間違いなく、魔族… いや、ソロモン族の命を使って作り出したホムンクルスだろうな…。デスフラッグも多分そうだ!」


 「ホーエンを倒さない限り犠牲者は増える…。ここで手を撃たないとな…」


 「後、話を聞く限り、まだ大聖女がいる事も知らんだろう。大聖女がいると知られるとまずい。それだけは知られたくねぇなぁ…」


 王は顎に手をやり髭を撫でる…。


 「よし、俺達も騎士団を動かせる。後、メルドアの街の支援部隊や仁の率いる忍者の者達も到着次第悪いがルイスの指揮下についてもらう。」


 「ああ。」


 「それと、コタースといったか?あの娘の種族からも参戦の申し出を受けた」


 「えっ!?コタースが!?」


 意外だった…。でもどうやって?!


 「あの子が昨日に手紙を出してくれたんだ。コタースの種族も転移のスクロールでこちらに来るとな。ラビット種族は弓の名手が多いから助かるぞ?」


 そっか…、いつのまに…。でもありがとうコタース…。



 「それじゃあ、時間は少しある。それまでに色々準備しようじゃないか!!」


 「ああ!」


 「期待しているぞ!勇者ルイス!」


 「任せてくれ!」


 王はニヤリと笑い俺を見る。俺も王を見てにやっとする。この王様とは凄く話やすい。まるで友人と話をしている感じで好感が持てる…。




………。

……。

…。

 




~アレックス視点~



 (いてぇぇぇ…、どいつもこいつも僕をバカにしやがって…)


 僕は、地べたに這いずりながらなんとか生きている…。変形した足や腹や無くなってしまった股関から血がどくどくと溢れだし、段々と意識が朦朧としてくる…。


 (あの3人も、あのルイスの妹も… 僕が勇者なのにそれを理解しない糞な王も、この国民も… そして偽物勇者のくせに祭りあげられているあのルイスも…。全て殺したい…。)


 僕は唇を噛みしめる…。憎い。。。憎い!!


 (全部、ルイスが悪い… あいつをまず殺すか?それともルイスの恋人であり妹のあの女を犯すか?!)


 ただそれももう叶わない夢…。僕はここで命を尽き果てるのか…。


 目を閉じ、死を待っていたその時、足跡がコツコツと聞こえてくる…。どうせまた俺をバカにした奴らが来たんだろう。笑いたければ笑え。僕が呪い殺してやる…。


 足跡が止まった。目の前に来やがったんだな…。どんなヤツかその腐った面を見て唾を吐きかけてやる…。


 目をゆっくり開く…。意識が朦朧としているがハッキリわかる…。


 「ふふふ…。良いざまね…」


 「お…、お前は… あの時の…」


 赤い髪をして黒いマントで覆った女性…。

 今から6年前…、僕に勇者の力を授けてくれた女性だ…。やっぱり僕は勇者だったんだ…。


 「あの時…の…勇者の力を…授けて…くれた…。た、たの…む…。また…力を…」


 「王もルイスも全てが憎いか?」


 女性は優しく微笑む。這いずくばっている僕の前に腰を落として僕を見る…。


 「ああっ…、すべ…てが…にく…い…。たす…けて…」


 「いいわ…。貴方を救ってあげる…」


 女性はそう言うと、とある薬を差し出してくる…。


 「これを飲めば貴方は力を取り戻す…。ただしその憎しみは忘れぬ事だ…」


 ああ…忘れない…。この屈辱は俺の大きな復讐の糧となる…。


 「ふふふ…。じゃあこれを…」


 黒ずくめの女性はそう言うと俺に謎の薬を飲ませてくる…。


 「憎みなさい…。全てを壊したいと憎みなさい…。さすればお主は巨大な力を手に入れれる…。」


 ごきゅっ…ごきゅっ…ゴクッ!!


 「っつ!!」


 身体中が熱い…。体が溶けそうだ…。し、死んでしまう!!!


 「ぐぎゃあああああああああっ!ぐわあああああああああああっ!!」


 や、やばい…意識が…朦朧としてくる…。でも不思議と心地が良い。全てを… 全てを消し去ってやる…。


 「ふふふ…、ふぉっふぉっふぉっふぉっ!さぁ…この国の終末の始まりじゃあ…!ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉっ!!」


 全てを… コワセ…。


 全テを… モヤせ…。


 アラユル スベテ ヲ ムニ…。


 

………。

……。

…。








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