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51 レイジとヒナル…。

~ルイス視点~


(……ヒナルが、何か深い悩みを抱えている)


 ここ数日、俺は彼女の瞳の奥に、時折よぎる暗い影を感じていた。  みんなと笑い合っている時でも、ふとした瞬間に遠くを見つめていたり、夜になると一人でホテルの外に出て、何かに思い詰めたように悩んでいるのは分かっていた。  ……声をかけようかとも思ったが、ヒナルが自分で俺に話してくれるまで、待とうと決めた。彼女の芯の強さを信じているからだ。


 そして、今日。  何故か、その悩みの答えを探すために、誰もいない俺の生家(実家)へと向かうことになったけど……。

 ヒナルの悩みと、俺が子供の頃に着ていたという、あの『水色の変わった服(青い服)』と、一体何の関係があるのだろうか?


 ヒナルは、あのベランダでの熱いキスで、俺の事が好きだというのは痛いほど真っ直ぐに伝わってきている。俺も彼女を愛している。  ……でも、二人が「恋人として付き合う」という未来と、俺の忘れ去られた「過去」に、どんな障害があるのか……皆目見当がつかなかった。


(……まぁ、いいさ。ヒナルが何に対して悩んでるかは分からないけど……俺は、どんな真実だろうと、全部受け止める。アイツが流す涙は、俺が全部拭ってやるって決めたんだから)


 俺は心の中でそう誓い、繋いだヒナルの手に少しだけ力を込めた。


……。


 転移魔法のスクロールに吸い込まれ、視界が真っ白な光の奔流に包まれた。  時空を飛び越える、激しい浮遊感。

 だが、光が弾けて消えた直後……一瞬にして、懐かしい夕暮れの景色が目の前に広がった。俺たちの手は、光の中でも離れることなく、しっかりと固く繋がれていた……。


「……うわぁ! 凄いなぁ……! 風の匂いが違う。もう着いたよ、ヒナル!」


 俺が感嘆の声を上げると、ヒナルも目を丸くして、パチパチと瞬きをした。


「本当だ……! お兄さん……、ここって?! あれだよ!? あそこ!」


 ヒナルが興奮した様子で、細い指である方向を指差した。  辺りを見渡せば、ここは王都の洗練された街並みとは違う、土と石でできた素朴な田舎街。  メルドアの街の広場の端……ヒナルと初めて出会った、あの裏路地の近くだった。


「あぁ。……全ての始まりの場所だ」


 俺は、あの日、絶望の中でチンピラに絡まれていたヒナルを助けた、薄暗い路地裏を見つめた。 ……無能と罵られ、仲間を失い、死のうかとも思っていた五年前の暗闇。そこから、俺の人生が光に向かって良い方向に変わった、最大の分岐点の場所でもある。  あそこで泣いていた黒髪の少女が、今、俺の隣で手を繋いで笑っている。これ以上の奇跡があるだろうか。


「……ねぇ、お兄さん。あれから、まだ数週間しか経ってないんだよ?」


 ヒナルが、感慨深そうに呟いた。


「えっ……。嘘だろ? もう何ヶ月も、何年も一緒に旅をしてきたような気がするな」


「ふふっ、大げさだなぁ。……でも、ちょっと前のことなはずなのに……凄く昔のことみたいで、懐かしいね……」


「本当だよなぁ~。あの時は、ヒナルも今よりずっとオドオドしてて、小動物みたいだったのに。今じゃ大聖女様だもんな」


「もぉー!」


 ヒナルがプクッと頬を膨らませて、俺の腕をポカポカと叩く。  その仕草が愛おしくて、俺は思わず吹き出してしまった。


「あはは! ごめんごめん。……よし、じゃあ、家に行こうか。……あー、馬車に座りっぱなしだったから、身体が凝ったな」


 ヒナルは「ん~っ!」と声を上げ、両手を空に向かって大きく伸ばして、ぐーっと気持ちよさそうに背伸びをした。その無防備な横顔が、夕陽に照らされてキラキラと輝いている。


「あ、それ気持ちよさそうだな。俺も……んんん~っ!」


 俺もヒナルにつられて、同じように両手を組んで空に伸ばし、深く背伸びをした。二人の影が、石畳の上で長く伸びて重なる。


「あはは! お兄さん、動きが一緒!」


「お前がやったからだろ!」


 二人で顔を見合わせて、他愛もないことで笑い合う。  同じタイミングで息を吸い、同じタイミングで笑う。   (……なんだろうな。この、言葉がいらないくらいの、変な心地よさは)


 俺は、隣で笑うヒナルを見て、ふと不思議な感覚に陥った。  恋人というよりは、もっと深くて、当たり前で、切っても切り離せない関係。  まるで、幼い頃からずっと同じ屋根の下で育ってきた、気心の知れた『兄妹』みたいだな……。ほんと……。


 俺は、無自覚にそんな事を思いながら、ヒナルの手を引き、自分たちの運命を変えることになる、懐かしい我が家への道を歩き出した。




………。

……。

…。



石畳を踏みしめる懐かしい音が、足元から心地よく響く。  俺達は、王都の煌びやかな世界から一転、のどかな田舎の空気が流れるメルドアの街の入り口まで歩いてきた。  木製の古びた巨大な門の前には、見慣れた顔の門番の兵隊さんが、欠伸をしながら槍を持って立っている。


「……ん? おや? あれ!? ルイスじゃないか! 生きてたか!」


 門番の兵隊さんが俺の顔を見るなり、驚いたように目を見開いて声をかけてきた。


「ははっ、酷いな。ちゃんと生きてるよ」


「いやぁ、あの大変なオーラの大群の襲撃騒動の後、急に街からいなくなったから心配してたんだぞ! ……それにしても、隣のその可愛いお嬢ちゃんは……えっと……」


 兵隊さんが、俺と繋いだ手を見て、ニヤニヤとからかうような視線をヒナルに向けた。ヒナルが照れて、俺の背中に半分隠れる。


「あぁ。……この子は、俺の大切な仲間の、ヒナルだ!」


 俺は照れ隠しもあって、背中に隠れるヒナルの頭を優しくポンポンと撫でた。彼女のサラサラした黒髪の感触が、手のひらに心地よい。


「へぇ~! ルイスにこんな美人の連れができるなんてな! ……で? 今日はどうしたんだ? もう王都から帰ってきたのか?」


「いや、ちょっと自宅に『大事な忘れ物』があったのを思い出して、それを取りに立ち寄っただけさ。すぐに出るよ」


「なんだ、そうなのか。まぁ、ゆっくりしていけよ」


 俺は兵隊の人と、最近の街の様子について少し世間話をした後に、会釈をして自宅へと歩きだした。  ……うん。良かった。  まだこの辺境の街には、俺が『真の勇者』で、ヒナルが『大聖女』だという、世界を揺るがすような号外のニュースは知れ渡っていないらしい……。無駄な騒ぎにならずに済んで、ホッと胸を撫で下ろした。

 

 大通りを歩く。  あれだけの惨劇だったオーガの大群の襲来から、少し時間が経ち……冒険者や大工たちの手によって、無残に壊された建物などの復旧も、ほぼ綺麗に終わっていた。  夕日に照らされた屋根、道端で遊ぶ子供たち、井戸端会議をするおばちゃんたち。  何も変わらない、平和で退屈な街並みがそこにある……。


 でも。  街の景色は同じでも、この道を歩く俺の心境は、以前とは全く、明らかに変わっていた。


 数週間前。この同じ道を歩いていた時の俺は、地獄の底にいた。  信じていた幼馴染の恋人クリステルたちを親友に寝取られ、五年間の努力を嘲笑われ、無能の烙印を押されて追放され……物凄く絶望していた。全ての人間が敵に見えて、死ぬことばかり考えていた。


 ……でも。あの日、ヒナルに出会って、俺の全てが変わった。  泣き虫だけど誰よりも優しくて、俺を信じてくれた、この温かい手。  この子が隣にいてくれるだけで、灰色の世界が、色鮮やかに輝いて見えるんだ。


「……お兄さん? 私の顔に、何かついてる?」


 ジッと見つめていたのに気づいたのか、ヒナルが首を傾げた。


「いや? ただ、ヒナルに会えて良かったなって思って」


「……っ、もぉ、急に何言ってるの……。馬鹿」


 ヒナルは顔を真っ赤にして俯き、俺の手をギュッと握り返してきた。可愛い。


……。


 やがて、街の外れにある、閑散とした住宅街。  五年前、最愛の母さんが病気で亡くなってから、ずっと空き家になっていた俺の自宅……古びた木造のあばら家の前へとやってきた。  庭には雑草が生い茂り、誰もいない家は、冷たく寂しい空気を纏っている。


 俺が、錆びついたドアノブに手をかけようとした、その時だった。


「……ただいま~!」


 ヒナルが、弾んだ明るい声で、空き家に向かってそう言ったのだ。


「え?」


 俺は思わず振り返った。  ヒナルは、まるで自分の実家に何年かぶりに帰ってきたかのような、愛おしさと懐かしさが入り混じった、凄く自然な笑顔を浮かべていた。


「……おいおい、ヒナル。ここはヒナルの家じゃないだろ? 俺の家だぞ?」


 俺が苦笑いしながらツッコミを入れる。


「えへへ! ……うん。そうだよね。間違えちゃった!」


 ヒナルは舌をペロッと出して、照れ隠しに笑った。


(……間違えた?)


 その時の俺は、彼女の言葉を、ただの天然な冗談だと思って流した。  これから「お兄さんの家にお邪魔します」という意味での、ちょっとした言い間違いだと。


 ……でも。  何でヒナルが、あんなにも自然に、心の底から『ただいま』と言ったのか。  その言葉の裏に隠された、あまりにも残酷で、奇跡のような『真実』を……。


 俺は、この直後、この家の秘密の扉を開けた先で、世界がひっくり返るほどの衝撃と共に、完全に理解する事になるのだった。


………。

……。

…。




 ギィ……と、錆びついた蝶番が悲鳴を上げ、十数年ぶりに地下室への重い扉が開いた。  カビと埃の匂いが、冷たい空気と共に頬を撫でる。  俺は、十数年ぶりに自宅の地下……『隠し部屋』へと足を踏み入れた。最後にここに入ったのはいつだったか……。五歳か、六歳か。


 地下は窓もなく真っ暗だから、入り口に置いてあった古びたランタンに火を灯す。  ここは、母さんが居なくなり、その直後に親父も魔物に殺されて居なくなってから、俺は悲しくて自宅にあまり居る事がなかった。ギルドの宿舎に寝泊まりしていたから、凄く久々だった。


「……暗いな。足元、気をつけて、ヒナル」


「うん……」


 ヒナルの震える手を引きながら、ランタンの灯りを頼りに奥へと進む。  そこには、俺が幼い頃に使っていたガラクタや、母さんの古い遺品が、木箱に詰められて積まれていた。


「たしか……。俺が着ていた『青い服』は、この辺りの箱に……」


 俺はヒナルに手伝って貰いながら、棚から埃を被った木箱を色々取り出し、一つ一つ中身を確認していく。


「……あった! これだ!!」


「お兄さん! 見つけた!?」


 俺は、一番奥にあった頑丈な木箱を開ける。  懐かしいなぁ……。見た瞬間、俺の脳の奥底がジンと痺れ、幼い頃の記憶が蘇る。  その中には、大切に布に包まれた『水色の服』があった。  この世界では見たこともない、滑らかで奇妙な繊維(化学繊維)でできた、幼児が着るような小さな制服。ズボンにはサスペンダーがついている。


「あっ……!」


 ヒナルが、その服を見た瞬間、弾かれたように息を呑んだ。  そして。何故か、その目から大粒の涙をぽろぽろと流しているのが、ランタンの揺れる灯りに照らされて、ハッキリと分かった。


 ヒナルは震える手で、その服を手に取った。  水色の制服の左胸には、小さな胸ポケットがついていて、そこには白いバッジのような物(名札)が縫い付けられている。  そのバッジには、この世界の公用語ではない、意味不明な奇妙な記号が書かれている。俺には読めない文字だった。


「……すが……れいじ……」


 ヒナルは、そのバッジの文字を指でなぞりながら、嗚咽を漏らして、何度も何度もその言葉を口にする。


「この記号の言葉……ヒナル、読めるの?」


「うんっ! だって……うぅっ……」


 ヒナルはついに声を上げて泣き出し……崩れ落ちるようにして、俺の胸へと顔をうずめた。


「だって!! これ、私の世界の言葉だもん!! うわぁぁぁぁぁん~っ!! ひっく……ひっく……! お兄ちゃん……っ!!」


「……スガ レイジ? それが、この服の持ち主の名前?」


「うん……っ!」


「どう……いうこと……? ヒナルはたしか……『スガ ヒナル』って名前だったよな。名字が……同じ?」


「うん……! うん!……ひっく……」


 『スガ レイジ』……? 俺が赤ん坊の頃に着ていた大好きな服に、そう書かれている? それが、俺の本当の名前?  そして、俺が今、世界で一番愛している女の子の名前は『スガ ヒナル』……。


 俺の心臓が、早鐘のように激しく鳴り響き始めた。思考が追いつかない。だが、魂の奥底で、何かが激しく共鳴していた。


「お兄さん……。これから話すこと……絶対に嘘じゃないから……。私のこと、気持ち悪いって、嫌わないで聞いてくれますか……?」


 ヒナルが、すがるような目で俺を見上げる。


「うん……。もちろんだ。何があっても、ヒナルを嫌いになったりしない」


「前にも、話したけど……。私が産まれてすぐ、私のお兄ちゃんは、四歳の頃……『幼稚園』という所からの帰り道に、お母さんと一緒に歩いてたら、突っ込んできた車……この世界で言うなら馬車みたいな乗り物の事故にあって……死んだの」


「たしか……。遺体も見つからなくて、行方不明(神隠し)になったって……」


「うん……。でも、違った。そのお兄ちゃんは、生きていました……。時空の狭間を越えて、この……異世界に飛ばされて……」


「うん……」


「私のお兄ちゃんは……今、私の目の前にいて……私が大好きな、優しい人で……。ずっと、生きていた……の……」


「えっ!? でも、俺はここで母さん達と暮らして……!」


 俺は混乱した。ヒナルは嘘をついているようには思えない。でも、なんで? 俺はメルドアの生まれで……。


「……昨日、お兄さんを昔からよく知る、クリステルさんたちから聞いたんだ……。お兄さんは『迷人まよいびと』で、十七年前のあの日、森の中で迷子になって泣いているのを、お兄さんの育てのお母さんとお父さんが発見して、実の子供として育てたんだって……」


 俺が、迷い人……? 日本人?  だから、黒髪なのか。だから、勇者になれるほどの異常な魔力(チート能力)を持っていたのか。


 ヒナルは、涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、青い制服のポケットの中に手を入れる……。  すると、そこから、この世界には存在しない紙質で作られた、小さな手帳のような物(出席ノート)が出てきた。


「それは?」


「これは多分……、この幼稚園に通う園児の手帳だよ……」


 ヒナルは震える指で、小さな手帳のページをぺらぺらとめくる……。そこにも、俺には分からない記号だらけの文字が書かれている……。  その最後のページには、射影機カメラのようなもので撮られた、一枚のカラー写真が挟まっていた。


「……お母さん……」


 ヒナルは、その写真を見て、ボソッと小さい声で、愛おしそうに呟く……。


「これ……、小さい頃の俺……だよ!」


 俺はその写真を見て、息を呑んで驚愕した。  俺の家には、今の育ての母親と射影機で写した写真が何枚かあり、小さい頃の自分の顔を知っている。だから、その写真に写る、黄色い帽子を被った男の子が、間違いなく『ルイス』だと、一目で分かった……。


 そして。  その写真には、俺を抱いている見知らぬ若い女性の姿があり……。  その優しげなタレ目の、にこやかな表情は……俺にもどこか似ていて……そして何より、目の前で泣いている『ヒナル』に、生き写しのようにそっくりだったのだ……。


 カチリ、と。  俺の頭の中で、全ての記憶のパズルが音を立てて繋がった。  そうか……俺は、ヒナルと同じ世界から来た人間……。  確かに納得できる。昔、記憶が曖昧だけど……温かい部屋で、優しい声で子守唄を歌う、黒髪の女性に抱かれていた記憶が微かにある。  そして……俺が物心ついた時、育ての母さんに『ルイス』と呼ばれるのが凄く嫌で、いつも「ちがう! レイジだ!」って泣いて怒っていた頃も……今、ハッキリと思い出した。


 そっか……そういう事だったのか……。  俺は、ルイスなんかじゃない。日本の男の子、『スガ レイジ』だったんだ。


 ……じゃあ、ヒナルがここ数日、ずっと夜風に吹かれて一人で泣きそうに悩んでいた理由って、もしかすると……?


「……ここ最近……、ヒナルがホテルのベランダで悩んでいた理由って、もしかしたら……俺が、ヒナルの……!」


「うん……。ひっく……ひっく……。ルイスお兄さん……はね……、本当はね……ひっく……」


 ヒナルは、もう立っていられないというように、俺の胸に顔を埋めながら、絞り出すように真実を告げた。


「ルイスお兄さんは…… 私の……ひっく…… 血の繋がった、実の……お兄ちゃん…… ひっく……レイジお兄ちゃん……なんだよ……」


「……っ」


 俺は、衝撃で言葉を失い、そっと震える彼女の細い肩を抱き寄せた。


「……私は……、知らなかったとはいえ……、実の、お兄ちゃんに……ひっく……、一人の男の人として、恋をして……しまいました……」


「……」


「……このままじゃ、お兄ちゃんを犯罪者にしてしまう……。こんな汚らわしい感情を持った私を……気持ち悪いって、嫌われるんじゃないか……って……ひっく……。ずっと、怖かった……。言えなかった……ごめんなさい……!」


 ヒナルは、俺のシャツを握りしめ、懺悔するように泣きじゃくる。  俺は、彼女のその痛いほどの純粋な愛と葛藤に、胸が張り裂けそうになった。  嫌うわけがない。こんなにも、俺の事を愛してくれているのに。


「……ヒナル」


 俺は泣きじゃくるヒナルの顎にそっと手をやり、優しく持ち上げて、俺の顔を真っ直ぐに向かせる……。


「そんな事で……俺が、お前を嫌いになったりなんか、絶対にしないよ」


「えっ……」


 ヒナルの泣き顔を見て、俺の目からも、何故か自然と涙がぽろぽろと流れ出していた。


「……ここは日本じゃない。異世界だ。この世界じゃあ、王族や貴族だって、愛し合えば実の兄弟でも恋愛して、結婚する事もある……。罪でもなんでもない。……だから、もう常識なんて気にしないでいいよ。……それと、何より、俺が今、一番嬉しかったのは……」


 俺は、涙で濡れたヒナルの唇に、俺の唇を近づけ……チュッと、優しくキスをする……。  そして、おでことおでこをコツンと合わせた。


「……俺は五年前から、ずっと天涯孤独で、一人ぼっちだと思っていた……。母親も父親もいなくなって、誰からも愛されないって……。でも、違った。こうして、俺と同じ血を分けた、たった一人の実の妹が……世界で一番の『最高の好きな人』が、すぐ隣に居てくれたんだ……。俺は、生きていて良かった。この上なく嬉しいよ」


「……お兄さん……」


「だから、もう一人で悩まないで? 俺が、ヒナルの全てを受け入れるよ」


「うん……っ!」


「俺は、お前が実の妹だろうが、何だろうが関係ない。俺は『ヒナル』という、一人の魅力的な女性を、一生かけて愛してあげるよ……。……お前は、俺のモノだ」


「うん!! 私からも、お願いします……。……レイジ、お兄ちゃん……大好き……。愛してる……」


「ヒナル……俺も愛してる……。四歳上の、実の兄で頼りないかもしれないけど……一生守る」


「うん! 頼りにしてる……っ! お兄ちゃん…… ちゅっ…… んっ……」


 ヒナルが、もう何も迷いはないとばかりに、力いっぱい俺の首に腕を回し、抱きしめてくる……。  俺も、もう二度とこの愛しいひとを離さないように力いっぱい抱きしめ……、お互いの涙を舐め合うように、息ができなくなるくらいの、深く、甘いキスをする……。


 地下室のランタンの灯りが、二人の影を一つに重ねる。


 運命に引き裂かれた兄と妹は、時空を超えて再会し、永遠の愛を誓い合った。  それから俺達は、自然と互いの温もりを求め合い……階段を上がり、埃を払った俺の昔のベッドへと向かい……。  朝が来るまで、誰にも邪魔されない、とびきり甘くて優しい、二人だけの幸せな時間が過ぎていった……。

 

………。

……。

…。


 


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