38 仁さんの自宅と…
-クリステル達の魅了が解呪される1日前の事-
-ルイス視点-
クレンセントの森の出口から、林道を少し歩いて数十分。
夕日に染まる湖の畔に、その家はあった。
仁さんの自宅は、周りに静かな湖があり、自家菜園の畑もある。向こうを見渡せば王国の城も遠くに一目で分かるほどのどかな場所にあった。仁さんの性格みたいに、無駄がなく、しかし温かみのある木造の平屋で、どことなく極東の建築様式(和風?)を取り入れたモダンさを感じさせる。
「ささ、遠慮はいらないでござる! 我が家だと思ってくつろいでくれ!」
「あ、ああ! ありがとうございます。お邪魔します」
俺達は、慣れた手つきで玄関ドアを開けている仁さんに案内され、木の香りがする玄関へと足を踏み入れる。
「ただいま帰ったでござるよ~! 愛しのペトロ~!」
「あら、あなた! お帰りなさぁ~い、予定より早かったわねぇ~」
奥から、おっとりとした優しい声が聞こえてきた。
エプロン姿でパタパタと姿を見せたのは、仁さんの奥さんだろう。まだ見た目は三十代前半といった所か……。仁さんにはもったいないくらいの美人だ。
「あらあら……。やっぱり、お客様も一緒だったのね。いらっしゃい~、散らかってるけど、ゆっくりしていってね」
「は、はじめまして~っ! ウチはコタースって言います~! 奥さん、モデルさんみたいに綺麗ですね~っ! ウチ緊張がががが……」
一番先に元気に挨拶するのは、やっぱりコタースだった。
それから俺達は順番に自己紹介をして、今日はここで一晩お世話になるのと、明日まで仁さんと共に行動する事を話をした。
「どうでござるか!? 拙者の自慢の愛妻、ペトロでござる! 世界一の美女でござろう!?」
仁さんがデレデレしながら奥さんの肩を抱く。
「うむ! ペトロは物凄く包容力のあるお母さんって感じがするのじゃ!! 昔の事は忘れたけど、ママの匂いがするのじゃ!」
スルトはぴょんぴょん跳び跳ねながらそう言う
。
「あらあら~、うちの子と同じ年くらいかしら? 角があるけど、とっても可愛いお嬢ちゃんねぇ~」
「いや! 普通に我はお主らより二百歳くらい年上なのじゃ! 魔族なのじゃ!」
お、おい……。スルト、余計なことを言うな。
「あら! まさか魔族のお嬢ちゃん? まぁ、珍しい! 元気があって良いわね~! 飴ちゃんあげるわ」
ペトロさんは流石に忍の妻、肝が据わっているなぁ~。全く動じず、大人の余裕ってやつか…。そう言うと、ニコニコしながらスルトの頭を撫でている。
「のじゃのじゃ~! 飴ちゃんもらうのじゃ~!」
スルトはペトロさんに頭を撫でられ、すっかり懐いてデレ顔になっている……。チョロい魔族だ。
「まぁ、立ち話もなんだから……、中へ入って~? ご飯の準備もすぐするわね。後、荷物はもし良かったら二階の空き部屋ならどこでも使って良いから、置いてきて構わないわ~」
「ありがとうございます! 手伝います!」
俺達は荷台から着替えなどの荷物を出していく。
「お兄さん? 良ければ私と一緒に荷物を運びませんか? 二人で……」
ヒナルは俺の袖を掴み、上目遣いでニコニコしながら話かけてくる。
「そうしたいけど、まだ重い荷物があるから、ヒナルたちは軽いものを持って先に行っててくれる? 重いのは俺がやるよ」
「むぅ……お兄さん~っ! 鈍感!」
ヒナルはぷく~っと頬をリスのように膨らませる。これは良くない表情だ。最近、ヒナルの考えていることが、なんとなく分かってきた気がする。
「いや、分かってるって。部屋割りとか、一緒にいたいんだろ? なら先に行って場所とっててくれ。俺もすぐ行くから」
「……っ!! ヤッタ!! 大好き!」
ヒナルはパッと顔を輝かせ、小さくガッツポーズをして、軽い荷物を持ちスキップしながら中へと入っていく。可愛いなぁ。
その時……。
ザバーっ! ジャーーー!
バシャバシャバシャッ!!
「……ん?」
家の裏手の方から、激しい水音と物音が聞こえる……。
(まさか、湖からモンスターが上がってきたのか!?)
俺は瞬時に警戒態勢に入り……。そろりそろりと足音をたてずに、音のする方角へと忍び足で向かっていく。
ジャバジャバジャバ!
さらに激しい水の音。そして……。
「きゃ~~っ! やめる……です! 殺される……です! 冷たいのです!」
「待てーっ! 逃がさないわよーっ!」
少女の悲鳴だ! 敵襲か!?
俺は慌てて音のする方角へと走る!!
「そこ痛い……です! はやくやめる……です! ケアルのバカなのです!」
「うるさい! お風呂嫌いなあんたが悪いのよ!」
まだ聞こえてくる……。俺は物陰に隠れ、裏庭の様子を伺う……。
そこには、ドラム缶風呂のような大きな水桶があり、二人の小さな影が揉み合っていた。
「も、もう怒った……です! 精霊さん助けて……です! 風の精霊よ来たれ!! 『小竜巻』……です!!!」
えっ!? 魔法!?
ドォォォォォンッ!!
その瞬間、制御不能になった突風が俺の隠れていた茂みを直撃した。
俺は「うわぁっ!?」と声を上げ、枯れ葉と一緒にぐるぐると回転しながら空中に吹き飛ばされる……。
生憎、ここ最近、自分に無意識のオートバフがかかっていて、物理的な痛みはないが……着地点がまずかった。
「ぎょええええええ!! なななななな!! あ、あ、あ……」
ドッボォォォォォンッ!!!
俺は派手な水しぶきを上げて、温かいお湯の中に落下した。
「ふぎゃっ!?」
「きゃぁっ!?」
ふぇ……。 湯気で視界が白いが……目の前に、金髪のツインテールのロリっ子が、すっぽんぽんで仁王立ちしていた……。
「あ、あ、あああああ……アンタ!? だ、誰よ!?」
へ? 声が聞こえるが、どうやら目の前の子じゃない!? でも目の前の子も凄く焦った表情で、口をパクパクさせてこちらを見ている……。
ま、またやっちゃった?
「や、やぁ! 空から失礼!」
女の子は「ひぃいい!」と悲鳴をあげる……。
「ち、ちちちちょっと! アンタ! アンタ! 何踏んでんのよ! 痛いってーの! 早くどきなさいよー! この変態ー!」
俺は足元の違和感に気づき、声の主が分かった……。どうやら俺の下敷きに……。
むにゅむにゅ……。
柔らかい……。
あれ…… この感触どこかで……スルトの時と同じ……?
「ふ……ふぇ……」
「ふぇ?」
「変態~~~~!!! 変態大人~~~~!! ロリコン~~~~!! エッチー!!」
俺の下に沈んでいたのは、目の前の女の子と瓜二つの、似た容姿のロリっ子だった! 双子か!?
またラッキースケベをやっちまったぁぁぁ!!
「ご、ごめん!! ワザとじゃ……事故なんだ!」
「うっさい! 黙れ! 言い訳無用! この変態め!! フレア?! こいつに、痴漢撃退のどっかんと一発やってやって!」
やばい! マジだ! このロリ、殺る気だ!
「分かった……です! 変態さんには……お仕置き……こう!……です! 雷の精霊よ……『小落雷』……です!」
バリバリバリッ!!
俺の頭上に、ピンポイントで雷が落ちる……。
全身が感電してビリビリするけど……。バフのおかげで、アフロヘアーになる程度でなんとか耐えた……。
「き! 効いてない!? あ、アンタ何者!? 人間じゃないの!? ただのロリコンじゃないのね!! ……って! みんな!! 使用人たち!! こっち見ないで!! きもい!! 変態!! 出てって!!」
騒ぎを聞きつけた他の人たちにまで罵倒が飛ぶ。
ちょ! そこまで言わなくてもいいじゃないか!? 俺のライフはもうゼロよ!
そんな修羅場の矢先……。
俺の前を突風が吹き抜け、水しぶきを切り裂いて、一人の影が現れた。
目の前には、厳しい顔をした仁さんが立っていた……。
「何事かと思えば……、どうやら娘たちの無事は安心のようでござるな……」
「父さん! 帰ってきてた……です?」
「父さん! そんな事よりそいつ!! 私たちが裏庭で行水してたら、茂みから覗こうとして飛び込んできた、覗き魔の変態ロリコン!! 成敗して!」
俺は焦る……。これはやばい……! 冤罪だ!
助けて仁さん!! 仁さんなら分かってるはず!
「ち、ちが! 悲鳴が聞こえたから!! 助けに来ただけなんです!! 仁さん助けてください~!」
「ふむ! ……なるほど。事情は全て理解したでござる! また姉の『ケアル』が、妹の『フレア』にお風呂に入れようとして強引に悪さをして、怒ったフレアが魔法を使って暴発させ…… たまたま近くにいたルイスどのが巻き込まれた……でござるな?!」
流石は父親! 名推理!
「そ、そうです~っ……。お風呂嫌いって言ったのに……です」
「これはお主達が悪い! お風呂で魔法は禁止と言ったはず! 多分、ルイスどのはフレアの叫び声を聞いて、敵襲だと思って助けにきたでござる。この男性はルイスどのと言って、パパの命の恩人で、大切な友人でござる! 今日、一緒に泊まりに来たのでござる!」
「そ、そうですか……。父さんのお友達……。ルイスお兄さん……。魔法ぶつけて、ごめんなさい……です……」
フレアちゃんがしゅんとして謝る。
「ふ、フン!! 父さんがそう言うなら、今回だけは許してあげてもいいわ! でも……私の胸を……お尻で踏んだのは許さないんだからね! 感触忘れてよね!」
えっ……、それ仁さんの前で言っちゃう? 踏んだの? 俺?
「……ちょっと……ルイスどの……」
仁さんの声のトーンが、地獄の底のように低くなる。
「は、はい!」
「ルイスどの……。拙者の娘は、世界一可愛いでござるな?」
や、やばい! 目がマジだ! 殺し屋の目だ!
「は、はい! とっても可愛いです!」
「そうか……。だが、いくら恩人のルイスどのでも…… 拙者の見ていないところで、娘に手を出したら……! その時は、忍法『男根切断の術』でござるよ?」
チャキッ。
仁さんが、懐からクナイを取り出し、俺の股間に突きつけた。
「ひ、ひぃいいいぇぇぇっ! 誓って手は出しません!!」
「……」
ち、沈黙が長く感じる……。
「……ふふっ。なんでしょうか?」
「冗談でござる♪ ははは!」
仁さんが笑顔に戻り、クナイをしまう。
ほっ…… 助かった……。寿命が縮んだ。
「いや、半分……いや、七割はマジでござる……」
ボソッと聞こえた本音に、俺は再び震え上がった。
ひいいいぃぃぃ! お父さん怖い!
それから、誤解が解け、服を着て(俺も着替えて)、俺達は仁さんの家に戻り、ペトロさんの手料理の豪華な夕食を皆で囲むのであった……。
事情を知らないヒナルに「お兄さん、どこ行ってたんですか! 遅い!」と少し怒られたのも言うまでもない……。




