32 昔の勇者パーティー…
ぽか~ん……。
スタイル抜群で、クールなエルフの美しい大人なお姉さんが……。
ぽか~ん……。
跡形もなくなったデスフラッグの群れと、えぐれた森の地面を見てから、フィリシアさんは口を半開きにして、完全に石化していた。 風が吹き、落ち葉が彼女の頭にカサカサと落ちても微動だにしない。 しばらくして、コタースが指でツンツンと突っつくと、ようやく我に返って……。
「いやいやいやいやいやいや!! おかしいだろ!! あんなのチートすぎるだろ!! 神々の遊びか何かか!? 何がどうなってるんだ?! そもそも、ルイスといったな?! 貴殿という『核』から、他のメンバーにも異常なステータス上昇のバフが付与されてるじゃないか!?」
「へっ?!」
俺は変な声をあげてしまった。うん……、最近、変な声出してばかりだ……。というか、俺にそんな能力が? ヒナルから貰った力を横流ししてるだけなんじゃ?
「貴殿には自覚がないのか!? これだけの魔力供給……ただの剣士にあるまじき事だぞ!」
「たしかに……。ルイスどのが横に居るだけで、普段以上の、全盛期以上の力が出せるでござるなぁ……。肩こりも腰痛も治ったでござるし」
「うんうん~っ! ウチも、ルイスの近くにいると、普通に高度な魔弓をホイホイ使いこなせてるし~っ! ルイスは歩くパワースポットだよ~っ!」
「私は……よく分かりませんが……。お兄さんと手をつないだ後だと、回復魔法の効果や威力が、いつもの十倍くらい高くなっている気がします……。ぽかぽかして、気持ちいいんです……」
ヒナルがモジモジしながら、少し顔を赤くして告白する。 他のメンバーも、無自覚ながらも俺からの影響を実感していたみたいで……。
「やはりな! ……それにしても、驚いたぞ。貴殿達はスキルや特徴を見るからに、遠い極東の『忍者』、自然の力を操る『ラビット族の魔弓使い』、そして歴史を変えるほどの神聖魔法を使う『大聖女』なのでは!? これだけの特異な人材が、一つのパーティーに集結しているなど……!」
フィリシアさんは、興奮冷めやらぬ様子で俺たちの顔を交互に指差した。
「それがどうしたのじゃ?」とスルトが首を傾げる。
「もしや貴殿らは、遥か昔に『厄災』から世界を救ったという、神話に登場する『伝説の勇者パーティー』の生まれ変わり、あるいは血を引く者たちの一部ではないのか!?」
「……えっ」
そう言われてみれば……。 俺はハッとした。歴史の授業で習ったことがある。遥か昔、世界を救った勇者には、幾人かの強力な仲間がいたと。
「まぁ……、ヒナルのジョブが何かはまだ適性検査のやり直しをしてないから分からないけど……。でも、確かに言われてみれば……」
「……うーむ。拙者のご先祖様も、昔、当時の勇者と行動を共にしていたという話を、父上から聞いていたでござる。なんでも、勇者の一番親しい友人で、影から彼を支えていたとかでござるな!」
「ウチのご先祖様も、はるか昔の勇者様に森で助けられてから、一緒に世界を救う旅をしたらしいよ~っ! ラビット族のおとぎ話にもなっているんだよ~っ! 勇者様はとってもイケメンで優しかったんだって~っ!」
意外だった……。 はるか昔の勇者に関わったジョブを持つ者達の末裔が、偶然にも今、ここに集結している事に。 たしかに今のメンバーは強いけど……。でも、俺は勇者ではない……。 本物の『勇者』のアレックスはもう存在しているのだから……。それに、勇者は俺から全てを、愛する恋人や仲間を奪っていった……。
皆が盛り上がる中。 何故か俺一人だけが、運命の輪から省かれたように感じ、疎外感と虚無感に襲われた。俺はただの無能で、運良く彼らと出会えただけのモブなんだと。
すると、俺の横で空中に浮いていたスルトが……。会話を楽しそうに聞きながら、手を挙げて割り込んできた。
「むむむっ! 我も知っているのじゃ! 我のお父様も、その『勇者』と共に戦った大英雄なのじゃ! なにせ我のお父様は、強くて優しくて、とっても偉大で……」
ただ……しばらくして……。スルトはピタリと動きを止め、頭を抱えた。
「……あれ? ……はて? 我のお父様って、どんな人だったか……。やっぱり、名前も顔も思い出せないのじゃ……。我、お父様の顔、忘れちゃったのじゃ……?」
「私も歴史書で聞いたことがあるぞ! その初代の勇者が、古の『魔王』と手を組み、共通の敵である邪神を倒して世界を救ったという伝承をな!」
フィリシアの言葉に、全員の時が止まった。
『……え~っ!?!? ま、魔王!?』
一斉に叫び出す。 魔王って、あの世界の敵の? それが、勇者と一緒に戦った!?
「まさか!? スルトって……、その勇者と戦ったっていう、魔王の……!?」
「な、なんじゃ! まさか我が、あんな恐ろしい『魔王の娘』と言いたいのじゃ!? でも……角があるし、魔族だし、思い出せないのじゃ……。あわわわ、我はお姫様なのじゃ!?」
たしかに確証はないが……。 あの『黒ずくめの赤い髪の女』が、わざわざスルトを狙い、首輪をつけて監禁していた理由……。 もしスルトが本当に『魔王の娘(あるいは直系の血族)』だとしたら、全ての辻褄が合ってしまう。まさかね……。
「もしそうなら…… スルトが狙われている理由って……とんでもない陰謀に巻き込まれてるんじゃ……」
「ん? 狙われているのか? この子が?」
俺は、フィリシアさんなら森の警備隊長として信頼に値すると思い、ヘルポリアの村での一件と、地下牢での出来事の話をした。 黒ずくめの赤い髪の女が、スザクという裏切り者や緑骨団の盗賊に不思議な呪術の力を貸して人を拐っていたり、スルトを奴隷として地下に捕まえていた事を……。
「まて! その『黒ずくめの女』だが……。私も最近、ひどく悪い噂を聞いたことがある。このクレンセントの森のあっちこっちにある古代のダンジョンで、その女が目撃されているという話があり……、その女が入ったダンジョンのモンスターが狂暴化したり、異常な繁殖で数が増えたという報告が相次いでいるのだ!」
ん? まさか……、ここのモンスターがやたらと好戦的だったり、デスフラッグみたいな見たことない強いモンスターが群れでいるのって? まさか……。
「さっきのモンスターもいい例だ。その女が現れてから、突然森の浅い場所でも見かけるようになったモンスターらしいからな……。だから私達エルフの警備隊は、こうして命がけで巡回をしているのだ。全て繋がっているかもしれん……!」
「何やら、あまりいい話ではないでござるな……。拙者も、元仲間と両親が、その女のせいで里が崩壊してしまったでござるからな……。絶対に許すわけにはいかぬ」
フィリシアさんは床に置いてあった槍を取り上げ、空を見上げた。
「……こんな非常事態だというのに。国は、王都にいる『勇者』に協力要請を出しているが、女遊びにかまけて一向にも来る気配がない……! 世界が危機だというのに、何をしているのだ……全く……」
勇者……、アレックス……。 あいつは、何をやってるんだ?! 俺から大切な恋人を寝取った挙げ句、勇者としての職務すらも放置して、安全な王都でやりたい放題かよ……。 俺の心の中で、どす黒い感情が渦を巻く。 段々、昔のトラウマとイライラがたまり……ついに限界を超えた。
「……実は俺……、元は、そのアレックスの勇者パーティーの一員だったんだ……」
俺の突然の独白に、皆が息を呑んだ。 俺は、事の顛末を仲間達やフィリシアさんに洗いざらい話した。 五年間の血を吐くような努力。信じていた恋人や、幼馴染みの双子をアレックスに目の前で寝取られた挙げ句の果てに、「無能」「ゴミ」と言われ続けた日々……。 最後は、魔物ひしめくダンジョンに、囮として置き去りにされたこと。 ギルド内でも、今の勇者パーティー達はどこでもかしこでも場所を気にせずヤりまくっていて、風紀を乱している話等……。
話し終えた時、森には静寂が落ちていた。
「な、なんともまぁ……! 今の勇者はとんでもない最低のクズだな!」
フィリシアさんが、怒りでワナワナと震えている。
「拙者も呆れるでござる……。いくら実力があろうと、それは勇者でも冒険者でもない。ただの悪党でござる」
「ルイス~! そんな奴らのこと、もう思い出して落ち込まないで~っ! ウチがいるから~っ! あんなチャラい双子より、ウチの方がずっとずっと可愛いし、一途だよ~っ! ルイスのお嫁さんになってあげるからね~っ!」
コタースが涙目で、俺の背中をギュッと抱きしめてくる。
「なんなのじゃ! 我はそんな性欲の塊みたいな奴を勇者として認めないのじゃ! のじゃ! 我のパパ(かもしれない勇者)を侮辱しているのじゃ! ルイスの方が、よっぽど真の勇者らしい心を持っているのじゃ!」
スルトがプンプンと怒りながら、空中で地団駄を踏んでいる。
「……お兄さん……。辛かったですね……」
ヒナルは、ただ一言そう言うと、俺の前に立ち、俺の震える手を、両手でぎゅっと強く、温かく握ってきた。 その瞳は、俺の痛みを共有するように潤んでいた。 俺も、ヒナルの手を強く握り返した……。 言葉はいらない。心配してくれているのが、俺を必要としてくれているのが、凄く伝わってくる……。俺はもう、独りじゃないんだ。
それから、フィリシアさんと今後の対策について色々な話をしてから……。
「では、私はそろそろ森の異変の調査と、巡回を再開せねばならん……。道中気を付けて……、といったところで、貴殿らなら魔物など蹴散らして大丈夫か。ははは!」
「フィリシアさんも、気をつけて」
そうして、互いの無事を祈り、俺達はまた馬車に乗りながら、夕日に染まる街道を王都へと向かう……。
………。
……。
…。
日が少し降りようとしている頃……、ようやくクレンセントの森の出口ら辺にさしかかる。 森を抜けると、視界が一気に開けた。 辺りは広大な大地と草原が綺麗で美しく、そのずっと奥を見渡すと、目的地である巨大な王国の城塞が、ぼんやりと霞んで視界に入る。
「ルイスどの!」
御者台から、仁さんが振り返って俺に話かけてくる。
「実は、拙者の自宅が、向こうの林に囲まれた湖の側にあるでござる。明日は王都で宿を探すとして、今日は拙者の家で一晩泊まっていくといいでござる。妻の料理は絶品でござるよ!」
「えっ! いいんですか!? ご家族に迷惑じゃ……」
「ルイスどのなら大歓迎で安心でござるからな! 可愛い娘たちも、若いお兄さんが来たら喜ぶでござる! ははは!」
家族の元へ帰れる喜びからか、仁さんの顔が父親の顔になっている。 そうして、俺達は温かい明かりが灯る、仁さんの自宅へと馬車を進めるのだった……。明日はいよいよ、運命の王都だ。
………。
……。
…。




