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31 数体のデスフラッグ


-ルイス視点-


「なっ……ななななっ! なんなんだ! お前達は……! その信じられない強さといい、その異様すぎるパーティーといい……! ま、まさか!? デスフラッグを囮にして、次は私を拉致しようとしてるんじゃないだろうな!?」


 エルフの女性が、ガタガタと膝を震わせ、後ずさりしながら俺達を見て過剰に恐縮している。  ……どんだけ人間不信なんだ。  それからすぐに、さっきの爆音と彼女の悲鳴を聞いて、心配して駆けつけてきたヒナル達が、茂みから飛び出してきた。


「ルイスよ、無事か!? ……むっ! 今度はこの尖り耳のおなごを侍らせるつもりか? 油断も隙もない、あなどれないご主人様ロリコンなのじゃ!」


「ど、奴隷の少女!? それに、あの首輪は!」


 エルフの女性は、スルトを見るなり完全に血の気が引き、その場にへたり込んだ。


「ひぃいいい! さては、強さを見せつけて私を服従させ、縛り上げ、このまだ幼い少女のように、私を性の奴隷にして……あんなことやこんなことを!? 野蛮人! 鬼畜!」


「おっ、おい! スルト! 変なこと言うな! 誤解が広がるだろ!」


 俺は咄嗟に、スルトの頭に軽くチョップをくらわす。


「いっ! つつつ……っ! 痛いのじゃあ! 図星をつかれたからって、DVなのじゃあ~っ!」


「あ~っ、ルイスの浮気性~っ! ……スルト~っ、そのエルフさんを縛るなら、ロープワークはウチにまかせといて~っ! (変な虫がこれ以上増えないように、ぐるぐる巻きにしてやる~っ!)」


「えっ、ええ……。お兄さんには、そういう無理やりなハードな趣味が……。昨日は私で……、一昨日はスルトちゃんで……(一緒に寝たのは……)、毎日日替わりなんですか……!?」


 ヒナルまで、顔を真っ赤にして口元を隠し、とんでもない発言(一部心の声が漏れている)をする。


「こ、来ないで! ちっ、近寄るな! 私を凌辱し、屈辱の中で飼い殺しにする気だろう! そんな事するくらいなら……、エルフの誇りにかけて! くっ……殺せっ!!」


 エルフの女性が、地面に落ちていた石を握りしめ、悲壮な覚悟で叫んだ。


 だ、だめだこりゃ……。カオスすぎる。


「お前達~~っ!! 静かにしろっ!! そんなに俺が、見境のない変態に見えるんかぁああああっ! 傷つくわ!」


「「「うん!!(~っ!!)(なのじゃ!!)」」」


 三人の美少女が、全く迷うことなく、声を揃えて力強く頷いた。  俺は、血を吐きそうになった。


「ひぃいいい! やっぱり変態だー!」


 女性のエルフさんは、再び森に響き渡る悲鳴をあげて、涙目になっていた……。


………。

……。

…。


 それから、三十分後。  仁さんの落ち着いた説得もあり、なんとか、本当に何とかエルフの女性の誤解が解けて、ようやくまともに話ができる状態になった……。  適正検査を受けに王都へ向かうため、メルドアの街からヘルポリアの村経由で街道を通り、ここまで来たという事を軽く手短に説明した。


 説明だけで、デスフラッグと戦うより疲れたよ……。


「そ、そうであったか……。大変な旅の最中だったのだな。本当に、失礼な態度をとってすまなかった! 命の恩人に対して、なんという非礼を……!」


 エルフの女性は、今度は真っ赤になって恐縮し、深く頭を下げた。


「私はエルフの国の森の防人、『フィリシア』という。ここ最近、森の奥のダンジョンから溢れ出したモンスターが異常に多くてな……。睡眠不足で、少々神経質になっていたのだ」


「いえ、分かってくれればいいです。俺はルイス・ガーランドだ」


「私はスガ・ヒナルです。よろしくお願いします!」


「ウチはコタースって言うよ~っ!」


「拙者はジェイでござる」


 ……と、次々と紹介していく。最後にスルトの自己紹介……。


「我は、由緒正しき魔族のスルトなのじゃ! 以後、お見知りおきを!」


 えっ、バカ! 普通に「魔族」って言っちゃってるよ! このロリっ子!


「……ま、魔族だと!?」


 フィリシアはピクッと尖った耳を動かし、先ほどまでの穏やかな表情を一変させ、冷たい警戒の色を浮かべてスルトを睨みつけた。手には無意識に魔槍が握られている。  スルトは、その敵意を向けられた瞬間、さっきの冗談を言っていた表情から一瞬にして、悲しい、怯えた子犬のような顔をする……。


「な、なんじゃ! 武器を向けるな! 我は人間達と……他の種族と、仲良くしたいだけなのじゃ……」


「あ、あぁ…… す、すまん。つい、種族のトラウマで反射的に。……怖がらせてすまんな。違うんだ!」


 フィリシアが慌てて槍を引くと、スルトは顔を斜めに首を傾げて、大きな漆黒の目をさらに丸くする。その顔が、ずるいくらいに凄く可愛い。


「ふぇ?」


「魔族と言っても……、人間やエルフを無差別に襲っている狂った『魔物』たちは、本来の魔族じゃないんだろう? 神によって作られた偽物だと。それくらいの歴史の真実、エルフの長寿である私も、知識として知っているぞ!」


「そうなのじゃ! そうなのじゃ!! 我はこんなに可愛くぷりちーで、無害な魔族なのじゃ! のじゃのじゃ!」


 フェリシアの理解のある言い方に、スルトは一気に安心したのか、普段のスルトに戻り「にゃははは」と、嬉しそうに笑ってフィリシアの腕に抱きついた。フィリシアも、困ったように優しく彼女の頭を撫でる。


「それにしても、ルイスよ。そなたが先ほど使ったあの神々しい光の技は……まさしく『勇者』の技。ルイスは、勇者の血を引く者なんだろ? もしや、何らかの理由で適正検査を受けるのが遅れて、これから王都へ行くのか?」


「えっ、違います! 俺は勇者じゃないし、既にアレックスっていう勇者が存在しますからね。俺のジョブは、五年前の検査で『レア6』って出ただけだったけど……。このジョブが何か分からないし、スキルもずっと分からなかったんだ……。こないだまでスキルすら使えなくて『無能』と呼ばれていたけど…… ヒナルと出会って、最近になって突然スキルが使えるようになった。だから、検査のやり直しを受けにいくんだ!」


「なんと!? しかし、勇者以外の『レア6』なんて、膨大な歴史書を読む私でも初耳だぞ!? それは、ただ事ではない……!」


「そ、そうなんですか?!」


「ああ!! それは……」


 フィリシアが、何か重要な核心に触れようとした、その時だった……。


 ゴゴゴゴゴゴゴッ……!!


「ん? 地震か? なにか地面が揺れたような……」


 地面が激しい地震のように揺れだす。  木々をなぎ倒し、森の奥の暗闇から、カチカチという不気味な甲殻の摩擦音と共に姿を見せてきたのは……。  先ほどの比ではない。  なんと十体近い『デスフラッグ』の群れが、血走った眼で俺たちを取り囲むように姿を見せたのだ。


「ま、まずいだろ……。流石に、A級魔物の群れ相手に、私でもこれは……。ルイス、一旦退くぞ!」


 フィリシアは、絶望的な数に顔面蒼白になり、おろおろとしているが……。


「あぁ……。安心してください。俺達なら、全く問題ない!!」


「また余裕なのか!? お前達は一体なんなんだ!? 今まで何百年も生きてきたが、こんな人たちを見た事がないぞ!」


 うん、全く問題ない。  俺だけじゃない。ジェイさんはもちろん、ヒナルも、コタースも、全員の目に恐れはない。完全に戦闘態勢モードだ。  スルトはとりあえず、フィリシアと一緒に安全な岩陰へと避難させるが……。


「みんなーっ! ウチから行くよ~っ!! 風の精霊さん、ウチに力を! 『爆炎付与』!!」


 コタースは軽やかに巨大な大木に駆け登り、一呼吸をおいてから和弓を構え、全身の魔力を一本の矢に付与する。すると、黄色の眩しい爆炎が矢を包み込み、周囲の気温が一気に上昇する。  狙いを、密集しているデスフラッグの群れに向ける。    「一網打尽だよ~っ! 放て~っ! 『爆発矢エクスプロージョン・アロー』~っ!!」


 ヒュゴォォォォンッ!!  矢は音速を超えて、デスフラッグの群れの中心へと一直線に進み……。中央の一体のデスフラッグに当たると共に、目も眩むような大爆発を起こす。  ドガァァァァァァァンッ!!  その猛烈な衝撃波と炎で、周囲の数体が悲鳴を上げながら吹き飛び、そのまま地面に倒れ伏す。


「すごっ……!」とフィリシアが声を漏らす。だが、これはまだ序の口だ。


 更に、ヒナルが……。前線へと歩み出る。  彼女はそっと目を閉じて、祈るように両手を胸の前で合わせる。


「『聖痕せいこんつける者……。心の聖なる母の愛の懺悔……。司る光とて、闇を沈めん……』」


 ヒナルの口から、美しくも荘厳な、神の言葉のような呪文が紡がれる。無意識のうちに言葉を発している……。聖女としてのスキルを完全に発動するために、太古の詠唱を行っているのだろうか……。


 やがて、無数の光の粒子がヒナルの回りに集まり……。ヒナルは神々しい光の柱に包まれる。  そして、ヒナルの回りにその光が分散した時……。ヒナルはカッと目を開き、両手を魔物の群れに向かって突き出す。  手から、無数の光の槍が出現する……。


「消えなさい……! 『ホーリーランス(聖光の槍)』!!」


 ヒナルの手から放たれた十数本の光の槍が、残った数体のデスフラッグに向かって、流星群のように高速で延びていく。  ズドッ! ズバァァンッ!!  一体…… また一体と、絶対に貫けないはずの漆黒の甲殻を、光の槍がいとも容易く貫通し、突き刺さる。突き刺さったデスフラッグは、内側から光に浄化され、そのまま声も上げずに崩れ落ちる。


「あ、あの神聖魔法は……!? 大司教クラスでも使えないぞ!?」


 フィリシアはそのあまりに神秘的で圧倒的な光景に、腰を抜かして驚愕する。彼女からすれば無理もない……。ついさっきまで、自分が一匹相手に命を賭けて苦戦をしいられていたのだから……。


 そして……。俺は……。  ヒナルから溢れ出た聖なる魔力を受け取り、ミスリルソードを上段に構えた。  その瞬間、頭の中で雷に打たれたように、何かが閃いた……。新たな術式、新たなスキルのイメージを覚えた……。  でも、なんで……? ヒナルの詠唱に、俺の魂が呼応したのか?


「……いくぞ!! 『セイントバーストっ! クロスっ!!!』」


 今まで使っていた、爆発させるだけの「セイントバースト」よりも一回り、いや二回りも巨大な……。  俺が剣を振るうと、空中に二本の巨大な斬撃が交差した、『エックス字』を描いたような極太の白い閃光が出現し、それが回転しながら、残りのデスフラッグの群れの中心に向かい、直撃する。


「おっ……おい!! ルイス!! 森が!! 森が消える!!」


 フィリシアが悲鳴のような言葉を発する前には、既に遅く……。  カッ……!!  音のない閃光が森を白く染め上げ……、直後、鼓膜が破れるほどの大爆発を起こした。


 ズドォォォォォォォォォォォンッ!!!!!


 フィリシアは、口をあんぐりと開けて、その滅びの光景をただ眺めている……。  爆発の物理的な影響は凄まじく、辺り一面の木々がなぎ倒され、地面には巨大なクレーターのような大穴が空いてしまった……。  群れで固まっていた頑丈なデスフラッグ達すらも、肉片一つ残さず、跡形もなく光の中に消し去ってしまっている。


「……あ。しまった! 力が入って、やりすぎたっ!」


「あれはやりすぎだろ、バカ! ここはエルフの聖地だぞ! ちょっとは加減しろ!! 生態系が崩れるわ!!」


 俺は、半泣きでジト目で睨んできたフィリシアに、思い切り怒られてしまう。ごめんなさい。


「ふっ、若者は元気が良くていいでござるな。……残りは、拙者の仕事でござるな。逃しはせぬ!」


 残りの、爆風で吹き飛ばされて逃げようとした敵も、コタースの追撃の矢と、影に潜んでいた仁さんの『忍法・影縫い』によって始末されていく。  二人とも攻撃が早く、残りのデスフラッグの残党を全て始末するのも、あっという間の出来事だった……。  こうして、魔境の森の脅威は、俺たちにとってはただの通過点となったのだった。

………。

……。

…。

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