24 ジェイ VS 抜忍
-ジェイ視点-
隣にいたルイスどのが大男を目掛けて特攻する。彼は強い。そして、優しい気持ちのある好青年でござるな。拙者も彼の言うとおりスキルがまた戻ってる…。不思議なものでござる。
拙者の前にいるのは、かつての兄みたいな存在であるルシルと、その横には一緒に修行をして苦楽を共に歩んだファデューで間違いないでござる…。ルシルとファデューは、拙者の一番の敵であるヒョウ一派の一回目の襲撃時に共に戦ってくれた仲間でもあったでござる…。
「俺達の相手はお前かぁ~?」
「なかなか、ひ弱そうな輩ねぇ~。まさか君がこの煙玉の忍術を使ったわけじゃないのかな~? ん~~っ! ここでアタシ以外の抜忍に会えるなんて~!ちょっとアタシ~ゾクゾクしてきちゃったわ~!」
「……」
二人はこちらを見るなりニヤニヤしている。拙者だとまだ気付いていないのであろう…。里の掟により次の棟梁に選ばれている者の素顔は隠さねばならなく、人と会う時は頭巾を被っていたから無理もないでござるが…。
「こうして拙者の前に現れるとは…、これも何かの縁なのかもしれぬな!ルシル!ファデュー!!」
「ああっ!?まさか!?」
「ほぅ~…」
拙者は背中に背負っていた刀と懐にある短刀を持ち構える…。何も迷うことなく相手の正面へと駆けつけ大きく飛び上がる。短刀をファデューに投げつける。
「やはり、スキルは使えないようね~。いやになっちゃうわ~」
ファデューは動きもせずに瞬時に横へとずれる。これを待っていたのでござる。一人、離れた所でルシルの後ろに回りルシルに一振加えるもルシルもこれを躱す。これも計算の内。ルシルはこれでも拙者の兄弟子みたいなものだ。全て見切られている。
「やはり、貴様かっ! 神牙27代目!!神牙仁!!良く生き延びていたものだな!」
「仁ちゃん~、よく生きていたわね~!でも~、アタシ達には…」
ファデューが剣を縦に構える。
「神牙流奥義!紅桜!!!」
ファデューが掛け声とともに剣を突き立てると剣が赤い桜のような綺麗な細かい炎が拙者を目掛けて一直線に進んでくる。
「なんのこれしき!」
拙者は当たる瞬間に横へとそり、相手にばれない程度に炎を避け…
「ぐっ!!!」
奴の忍術スキルに当たるふりをする。直後にルシルも忍術スキルの構えをとる。
「仁!覚悟しろ!大人しくあの世へ行き、父と母と仲良く暮らせ!!次期棟梁はスザクに任せておけ!お前の嫁さんも娘さんもスザクが可愛がってくれるぞ!」
「ふざけるでない!!拙者はこれしきでは倒れぬ!!」
「スキルを使えないお前になぁ~にができるっ!! 神牙流奥義!!扇風破滅波!」
ルシルは大きく大刀を振り回すと、強い突風が拙者を襲う。これもバレぬようにダメージが酷くならない程度に浸透の術を使い完全に食らって当たったかの様な素振りを見せながらわざと当たるふりをする…。
「っつ!! がはっ!!!」
拙者はわざとらしくあたり…。わざと転がる…。拙者も中々の役柄でござらぬか?わざと当たるのは名演技でござるよ?
「なぁ~、仁?忍術使えないお前にな~ぁにができるってんだ?」
「まったく話にならないわねぇ~!忍術使えないような無能はいらないの~!」
「っ………」
まだだ…。まだでござる。拙者こと、神牙仁…。忍術が使えるようになった今、相手を油断させ奇襲を食らわすチャンスでござる…。
「なんだよ?へたばっちまったか?? 向こうのヤツラの方がつぇ~んじゃねぇか?」
「そろそろ楽にしてあげますわよ!こうやって貴方と懐かし~時を思い出し思い出に浸るのもいいのですが!全てはスザク様の為!」
彼らは既に、拙者が戦闘不能になっていると思い込んでいる…。ルシルもファデューも武器に力が入っていない…。今が絶好のチャンスでござる!!
「隙あり!!」
拙者は分身の術を使い咄嗟に最高奥義の構えをする。
「んっ?! 何をする!!」
隙をついたのが一生の不覚!!拙者の恨みを…味わうが良い!!
「神牙流… 最終秘伝奥義!! 天地滅裂乱激波!!」
閃光とともに相手が震えだし天地が動くように錯覚する…。その刹那、無数の漆黒の光を浴びせ打撃と斬撃を二人に浴びせる。食らった者はまるで天地が裂け殴り切り刻まれるような感覚に落とす技でもある…。
…が!! 半年前の時よりも威力が高くなっている気がするでござる…。当時の2倍…、いや3倍の連撃。拙者は数回この技を使った事があるが…。初めての感覚でござる。
ドスンっ!!!と大きな音とともに二人は無言で倒れこむ…。ファデューはうつ伏せになり瀕死の状態で気を失っている…。
「くっ……、あっ……、ふっ…ふはははははっ…、愉快だ! はぁ…はぁ……、俺は今、愉快だっ!!」
しかし、ルシルはあれだけの攻撃を食らうも立ち上がる…。むっ…?ルシルの表情が少しおかしい気もするが…。
「まだ起てるとは渋いでござるなっ!」
「そ…それにしてもだなぁ~、…っつ…ふぅ…。 じ、仁っ…。お…おめぇ…、まさか…忍術が…!?い、いつの間に…治りやがった!」
「拙者にも分からんが…、あの者達のおかげでござるな…」
ルシルはふらつきながらもニヤリと笑みを浮かべる。
「だ…、だが…、しかしだなぁ…俺は…しかと…受け止めてやったぞ…!!こんな…、こんなちんけなヒヨッコな技が…最終…奥義か…?!」
「流石は元兄弟子!! だか、次で決める!!」
ルシルの表情が先ほどと変わり…、何やら真剣な表情でこちらを見てくる。緊張感がビリビリと伝わるのが分かるでござる…。そう…、まるで拙者に優しく厳しかった時の兄弟子とやり合ったあの日みたいな…。
「まだだ…、まだ、終わらん!俺の…最後の太刀と…、おめぇの覚悟…、どっちがつえぇーか勝負じゃあああ!!」
ルシルは何も考える事なくふらつきながらも真っ直ぐ飛んでくる…。
「神牙奥義!!飛燕無双!!」
飛燕無双!?初めてルシルから教わり…、拙者が初めて会得した初歩の忍術…。ルシルは一体何を考えているのだ?!
「拙者も行くぞ!神牙奥義!飛燕無双~~っ!!」
空中でお互いの蹴りがぶつかり合い、その刹那…、拳により波動撃を喰らわせる…。拙者はこの技の回避も会得している…。無論、これもルシルから教わったのでござるが…。
「ぐふっっ!!!」
ルシルは躱そうとせずに諸に食らう…。
一瞬、静寂に包まれた気がした。何か分からぬが…。何か…昔を思いだし懐かしい記憶が蘇ったような気がしたでござる…。
そして、ルシルは落ちていき…、地面に叩きつけられる。ルシルは仰向けになりながらも視点がまわっていないようだ…。完全にルシルは敗れた…。
「じ、仁…。そ、そこにいるのか…」
「まだ生きておるのか…。渋いでござるな…」
ルシルは苦しそうにしているが、表情には笑みを浮かべ涙ぐんでいるように見える…。
「仁…、すまなかったなぁ~…。俺が操られていた…ばかりに…。酷い事を…してしまったなぁ~」
「…っつ!?今、なんとっ!?」
ルシルが操られていた?いつ?今までのは?!
どういう事でござるか?!




