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21 目の前の敵(かたき)


 目の前には、服が少しはだけて座り込んでいるヒナルと、ヒナルの前に立っているジェイの姿があった。そして、その向こう側には横たわるように、一人の少年のような人が血塗れになりうつ伏せに倒れている。よく見れば、既に生き絶えている髪が黒と銀を散りばめたような髪…。ヒナルを助けた時にヒナルを襲っていた盗賊の一人のように見える。


 「ヒナル!!」


 「ヒナルちゃん!」


 俺は、コタースとともに用心しながら近づき、ヒナルに声をかける。ヒナルはこちらを見つけると直ぐ様、近づき力強く抱き締める。そして直ぐ様、俺の上着をかけてあげる。


 「あっ…、お兄さんも助けに来てくれたんですね…。よかった…。よかったです…。怖かったよ…」


 泣いていたヒナルの目は赤く腫れている。怖かったのだろうか体を通して少し震えが伝わるように感じた。


 「ジェイさん…、一体これはどういう事でしょうか…?」


 ヒナルの様子を見るなり、ジェイがヒナルに何かしたわけじゃないのを感じる。ジェイも少し安心したように、こちらを見ている。


 「ルイス君が来てくれて助かったでごさる…。隠しておいても仕方ないから今、言える事だけ伝えるでござる…」


 ジェイさんは鋭い目つきになり、ジェイの後側に続いている奥の方を振り返る。向こう側もランタンで照らされている。


 「まだヤツラの仲間は来ていないでござるな…。とりあえず、少し離れた場所で隠れるでござる!」


 ランタンや明かりがない暗い洞窟の奥を探して、俺達はいったん休息をとる。水の滴る音だけが響いている…。ジェイさんの話だと、まだ盗賊達はこっちに来ていないみたいだ。逃げた連中が仲間を連れてくるのも時間の問題らしい。


 ジェイさんは、これまでの経緯を手短に詳しく話してくれた。ジェイさんは、ヘルポリア村周辺で村人の話を聞いたらしく、緑骨団の活動が日に日に活発化しているのを聞いた。盗賊達がいつ現れるかわからないため、俺達の安全確保するために警戒をしていた。たまたま村から少し離れて森から帰ってきた時には既に隠密行動に長けた盗賊にヒナルを連れ去られてしまったとの事。俺達を呼びにいけば見失う可能性があったため、俺達がヒナルの異変に気付いた時のために、発光石を落として道標を作ってくれたらしい。


………。

……。

…。



 「ジェイさん…、ヒナルを助けていただきありがとうございます…。疑ってしまってすいません…」


 「ははは!呼びもしないで申し訳ないでござる…。しかし、巻き込みたくはなかったから、あえて言わなかった拙者も悪かったでござる…」


 ジェイさんは紳士らしく深々と一礼をする。


 「気にしないで~っ!ジェイさんはが居なかったら~、ヒナルちゃんが危なかったよ~っ!」


 本当にそうだ。ジェイさんが居なかったら…。そう考えるだけで恐ろしい…。そう、考えているとジェイさんは、真剣な眼差しでこちらを見てくる。 


 「ルイス君達に話さなければならぬ事がある。拙者の仕事はポーターでござるが…。本当のところいうなら、拙者のジョブは忍者でござる…」


 「忍者…?」


 初めて聞くジョブだ…。


 「私、知っています!私の世界では昔、忍者っていうのがいました!おとぎ話では忍術っていう魔法みたいな術という技を使い悪いやつらを倒すって…。身軽だし早くて手裏剣とかも得意って…」


 「もしかして、ウチよりも早い…?」


 コタースは少ししょんぼりして答える…。


 「そうですな。ヒナルの話の通りでござる!中でも"火遁の術"は一般的であった。敵を麻痺させる"影縫い"なんていうのもあるでござる。拙者の術に勝るものは居なかったでござるからな!」


 ジェイさんは「ははは!」と小声で笑い出す。


 「しかしながら、今の拙者は術が使えないでござる…」


 「「「えっ!?」」」


 俺達は、びっくりして声をあげる。


 「拙者は今の奥さんと結婚した時に、奥さんを狙っていた仲間により、奇襲を受けてしまってな…。そやつ達を撃退した後、彼らは罰をくらい忍者の里から追放された。そして、半年前に拙者が長となる就任の儀の時に、抜け忍となったヤツラがまた攻めてきた…。里は悲惨な状態であった…。拙者は油断したところを呪術士の呪いで術が使えなくなってしまってな…。助けに入った父と母も殺され、その隙になんとか奥さんと娘2人と抜け出して王国近くの村に隠れたのだが…。」


 ジェイさんはそう言うと、洞窟の奥を見る。


 「抜け忍の一人…。 いや…二人がどうみつ緑骨団に絡んでいるようであった…」


 彼の拳に力が入る…。


 「ジェイさん…」


 「それじゃあ、敵はあの中に…?」


 ジェイさんは、顔を上げ天井を見つめる。


 「敵がいるのは事実だか、今はルイス君達の荷物を王国まで送り届けねばならぬ…。一先ずはここから出た方が…」


 その時だった…。 二人組の男の声と足音が聞こえてきた…。


 「ここからは逃がさねぇ…。せっかく捕まえた上玉だ!」


 「大人しく観念しなさい~」


 ジェイさんの表情が変わる…。怒りに満ちた目付きだ…。


 「お主達だけでも先に行け!拙者がここを食い止める!!」


 ジェイさんは、立ち上がり前へと進もうとする。それを聞いた俺達はヒナルとコタースの顔をみて、無言で頷く。

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