550話 主従逆転?
体調不良で間に合わなかったので、次回551話の更新は3/35(水)にさせてください。すみません。
「なるほど、つまり——お嬢様はシブニー教の闇の儀式についてお知りになりたいのですか」
向き合う形で座らされた私は、シーナにしぶしぶ話した。どっちが主人なんでしょうか。私の膝の上には重りのつもりなのかクロもいる。
とはいえ、どこまで話すか迷った。
なのでとりあえず簡潔に。
儀式のこと、そしで謎の家のことを話した。
「まぁ、それが今後いろいろな鍵になるといいますか……」
「まぁ話されたくないのであれば、無理には伺いません。我々情報屋は主人の手足にすぎません。それに」
「それに?」
「一応、私は嬢様の侍女ですので」
「一応って言った! 一応って言ったよこの人‼︎」
どーん! みたいな効果音がつきそうな、顔色一切変えない様子で言い切ったよ! 全然敬われてないのは知ってたけどさぁ‼︎
「しかし、情報が欠けたものの成果は期待に添えない可能性もあります。何を探すべきかが変わってきますからね」
そういって立ち上がると、紅茶を淹れてくれる。華やかな柑橘の香りが広がる。
「一応侍女の動きしてる……」
「一応侍女ですから。私のメインの仕事はお嬢様の情報を得ながら組織に回し、それをさまざまな形で活用することですから」
「? 主人の個人情報って守られるべきものでは?」
「いずれ王妃になるお方が何をおっしゃっているのでしょう。プライベートなどあってないようなものですよ」
「え? 私があってますよね? おかしくないよね? 第一今は王妃じゃない!」
丸め込まれそうになったところを反論しておく。シーナってこういう、当然ですけど? みたいな顔で押し通そうとするとこあるよね!
まぁたぶん懲りてないけど……まぁそこから作り出された噂のおかげで、私の評価がやたら高く勘違いされてるのもあるのは知ってるけど。
でも不満は不満だ……。
不服な気持ちを紅茶で流す。
あ、美味しい。
「お口にあったようでよかったです」
「まだなにも言ってない!」
「お顔に出ておいでです」
「ぐぬぬ……悔しいけど美味しいよ、美味しくてちょっと許しちゃったよ」
「心配になるくらいたんじゅ……純粋なことですね」
「言い直せてない! 言い直せてないよ‼︎」
この人今、主人のこと馬鹿にしました!
あれ? でもそれいつもだな。
じゃあいいか?
……よくはなくない?
だけど華やかに香る紅茶はとても美味しく温度もちょうどよくて、怒りの表情が持続しない。むう……このシゴデキ侍女め……。
しかしやっぱり私もちょろいのかもしれない。カップをソーサーに置きながら、少しだけ口を開いた。
「……最近、ノアくんが体調悪そうなの。それが、闇の儀式に関係あるんじゃないかって思ってて」
全部は話せないけれど。
大事な事がここなのは変わらないから。
するとシーナも深くうなずいた。
「あぁ、ローザ公爵家の……同胞、というか生き残りですね」
「シーナはその時のノアくん知ってる?」
「いいえ。なにせ数が多すぎて……というのもありますが。儀式の犠牲になりそうになっていたのであれば、隔離されていたのでしょう」
「隔離?」
「……生贄は、特別で格が高い方が力が強くなります。つまりお気に入り、といいますか」
席に戻ったシーナが、目を合わせずにそう言う。
あぁ。ぼかして言われているけれど、非人道な実験されてたんじゃないかってことかな……シブニー教自体、非人道なことをしていたみたいだけど。
もしかしたら、シーナも昔された教育という名のひどい扱いを思い出したのかもしれない。やっぱり話すべきじゃなかったかな……。
しかし読心術でも使えるのか、シーナは首を振った。
「お忘れかもしれませんが、闇の儀式は、『悲願のギフト』を受け取るための儀式です。苦しむ魂を捧げて、初めて成功する術です」
「……内容、詳しく知ってるの?」
「だてに隠密諜報部隊に配属されていたわけではありませんから——今も結構、出世しましたからね。私って結構、仕事できる方ですし」
「自分で言うんだ……」
だけどこの軽口は、空気を変えようとしてくれたからだと私でもわかる。シーナなりの気遣いのワンクッションなんだろう。
「……お嬢様は、効率的に人を苦しめるにはどうしたらいいと思いますか?」
言いづらそうにやけに物騒なことを聞かれて、だけどそれが本題であるのも感じて。考えたくないけど、考えてみる。
「拷問、とか」
「そうですね。しかし相手の身体を傷つけたくない、精神を壊したい時は少し別です」
「別……?」
「代わりに受けさせているのを見せる、などでしょうか」
あ、なんか考えちゃいけない気がする。
見そうになったものをあわてて脳を停止させて止める。なんかもう、まともな人が思いつかない領域の話だ。
けれどフリーズした私に遠慮なく、シーナは告げる。
「赤の他人であっても恐怖や罪悪感は心を支配します。特にそれが、子供ならば」
「……。」
「しかも儀式の器になる予定の者であれば、魔力量が元から多い方がよいですね。しかしそんな人間は普通、平民には生まれません」
「…………。」
「魔力は貴族の方が強い傾向にありますから。そしてですね、供物に捧げる魂も魔力が強い人間の方がいいとされます。それが叶わなければ数を用意するしかないですが……」
私は、今あんまり考えたくないことを考えている。
あの家はなんの家だったか。
なぜ子供服があったのか。
なぜ血の跡があったのか。
まだ確定ではない。だけど……。
「……精神を削るには、家族の方が有効だよね。それがしかも、魔力の強い子なら——家族も魔力が強い」
「その可能性は高いと思います。ローザ公爵家に入られたご子息の光魔法は、聖女様に匹敵する——そのおかげでお嬢様がここに生きていらっしゃいますし」
「まぁ、フィーちゃんみたいな偶然がそう重なることは、ほとんどないよね……」
奇跡とは、偶然とは、そんなに起きないから奇跡で偶然なのだから。
私は、王様の妹姫が亡くなっているらしいことも知っている——神に近い血を持つなんて、捧げものには上等すぎる。
だけど、何もかも私の仮説だ。
証拠は何もない。何も。
だけどやっぱり、確認しなきゃ。
「儀式が行われてた場所は……」
「もう埋められていますよ。お嬢様でも立ち入ることはできないと思います」
「じゃあ家の方を確認しに行く!」
勢いで立ちあがろうとしたら……あ、クロがいるんだった! なぜか降りてくれないし‼︎
「にゃおん」
「え? なに? ちょっと降りて……」
「おひとりで行くのは得策ではないでしょう。お嬢様は何を探されるおつもりですか?」
「……なにって、なにかだけど」
シーナは「もう忘れたのですか」と言って、首を振って。
「無知の前では証拠は存在しないのと同じことです——けれどその道のプロなら違います。お嬢様はジョーカーをお持ちのはずですが」
主人に有無を言わせぬ圧をかけて、シーナはただ私を見つめた。




