102話 飼い犬宣言
「おねえちゃん! おねえちゃんなの‼︎」
氷から溶けたリリちゃんがとてとてと、こちらに走ってくる。そしてそのままぎゅっと、しがみ付く。
可愛い。可愛いしかない。さすがお姫様。
バカにされた私の心は癒された‼︎
満面の笑みで頭撫でちゃう‼︎
「リリちゃんは今日も可愛いね〜!」
「おねえちゃん元気になった! よかった! もう会えないかもってきいて、リリーはたくさんおいしくないのたべたの!」
「うん? どゆこと?」
「君が教えたんでしょう、ティア」
首を傾げると、横からぬっと影が現れた。
おや、悩みは解決したのかなアル。なぜ呆れているのかを聞きたいな。そして何をだろう?
「頑張ったご褒美の話ですよ」
「リリーがんばったのー! おねえちゃんにあいたかったの! ほめて?」
え、それってまさか……?
好きな物は後に取っておくって話のやつ……?
えっそれそういう風に捉えたの?
つまり私はご褒美で好きなものだと……。
リリちゃんがキラキラのおめめをこちらに向けて、上目遣いでぱちくりしている。オマケに頭こてんっとして……くっ!
この幼女、完全に自分のアピール方法分かってるぞ!
そういうとこだぞ! そういうところが……。
「可愛くて大好きだーーーー‼︎」
「わぁーい! リリーもおねえちゃんだいすきなのー‼︎」
溢れた気持ちは全て抱擁に込めました!
でも足りないので頭もやっぱりなでなでしました‼︎
スーパーなでなでタイムよ‼︎
いや可愛すぎじゃない?
家に持って帰っていいですか?
ダメですか、そうですね。それ悪役令嬢じゃなくて犯罪者だね。
でもね? 考えてほしいの。
腕の中に抱きしめられて、撫でられて、ほわ〜んとしてる可愛い生き物がいたら、持って帰るでしょ?
え? ダメ? 大人しくお縄につけ?
「はっ‼︎ 私今回の件でアルとヴィンスには、とびっっっきり、謝って謝って感謝して来いって言われたんだった‼︎」
「えっと……」
「助けてくれて、ありがとうございます! この御恩は一生忘れません‼︎」
癒しで頭がお花畑になっていたところを、無理やり現実に戻す。何かしてくれたら、ありがとうは大事‼︎
まぁなんか、アルがちょっとびっくりしてる気はするけど!
「いえ……。どちらにしても『ギフト』の把握は、しておかなければなりませんでしたからね。今回の件でそのリストも見つかりましたし、良かったです」
「そーそー。うちも『子供が欲しい』は本当に言ってたしな。オレしか男いないから、ちょうど良かったというか」
あれ? えーーーっと?
「それは、あのー。養子になった子は、男の子って事?」
「うん? そうだぞ」
「えっ! そうなの⁉︎」
素直に頷かれて、びっくりのポーズを決めてしまった。
光の魔法で、私の魔力を回復させた事は家で聞いた。とびっきり強い魔力じゃないと、回復できないから大変だったと。
だから、私てっきりフィーちゃんかと思ってたんだよ……。子供としか、聞いてなかったし。
いや、それだとシナリオ変わっちゃうんだけどさ?
でももう既に。私が『シブニー教』解体させたりして、だいぶ変わってるしね?
ヴィンスのとこなら、公爵だからアルとの結婚も問題ないし良かったー! ……とか実は思ってたのに。別の子なの?
フィーちゃん級なの? そんなの……はっ‼︎
「それ、もしかして儀式の時にいた子っ⁉︎」
頭をよぎったのは、女神様から聞いた『世界を滅ぼす原因』の話。
闇も、光も持つ者。闇は後天的なら、最初から持っているのは光だ。私を倒せるほどの光は、フィーちゃんと話に聞くーーその人しか知らない。
「えっそうだけど、なんでわかったんだ?」
ちょっとびっくりした顔で、ヴィンスが聞いてくる。やべ!
「えーと、予知で見たから! ていうかそれより、その子大丈夫だった⁉︎ ちゃんと無事なのね⁉︎ アフターケアが! アフターケアがまだなの‼︎」
「わわわ、わかったから、ちょっと落ち着いて話せ! ノアは大丈夫だったよ! だからクリスのとこに連れて行けたんだ」
「そっかぁ……よかったぁ……! 私体張った甲斐あったよ……」
無事ならなにより。それずっと気になってたんだよ! その前に倒れちゃったんだもん‼︎
掴みかかっていた手を下ろし、そっと胸も撫で下ろした。
「……ティア、まさか助けようと無茶を?」
「いやーギリギリだったんだもん! でもローブの人たちがノア君? に手を伸ばしてたから、咄嗟にやってそこで倒れて……」
えへへ……まぁでも結果オーライ!
するとヴィンスが感慨深げに言ってきた。
「そっか……じゃあクリスにお礼言わないとな」
「え? なんでヴィンスが?」
「だってノアはもう僕の弟だからな!」
えっへん! という感じに胸を張り格好をつける。
そっか年下なのね。
しかしヴィンスが、お兄ちゃんかぁ……。
「え⁉︎ それなでなで大丈夫⁉︎」
「そーなんだよ‼︎ なでなでがヤバいんだよ‼︎ このままじゃ僕は可愛い弟をなでなでできない!」
やはりそこが大事だった!
「それは大変だよ⁉︎ どんなに可愛くても、なでなでを我慢しなきゃいけないなんて……拷問だよ‼︎」
「まだ特訓が終わってないのに……っ!」
「早く鍛えないと‼︎」
「2人ともストップ。今その話じゃありません」
脱線し始めた私たちを、しらーっとした目で眺めながら、冷静に言うアル。でもこれ結構大変で……!
「後にして下さい。それにまだ正式な手続きをしてませんから、ヴィンスが彼に会えるのはもう少し先です」
私の訴えたげな目を見て、アルが首を振った。
「あれっもう弟じゃないの?」
「ティアの所に連れて行った時は、まだ養子になる仮契約のような状態で、無理矢理通したんです。正式にはまだ、彼はローザ家の子供ではありません」
そういつも通りの調子で、淡々と答える。
おー、そっか。どおりで養子申請が通るの早すぎると思ったんだよね。
「そうなのかぁ。じゃあ、私はいつお礼をしたら良いんだろう……」
「ノアも疲れて、寝込むかも知れないらしいからまだちょっとわかんねぇな」
その言葉に、考え込んでた顔を上げた。
「えっ! 寝込んでるの⁉︎」
「そうだぞ。クリスのせいだぞ」
「いやぁぁぁあ⁉︎ ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ‼︎ ていうかそんな無理させて大丈夫なの⁉︎ アフターケア出来てないのにっ‼︎」
私は幼子にとんだ無理を強いてしまった‼︎
なんと謝罪したら良いのか‼︎
「お、落ち着けって。冗談だよ」
「え? 寝込んでないの?」
「いや寝込んでるけど」
ダメじゃん!!!!
「冗談じゃないじゃないの‼︎ せ、切腹⁉︎ 切腹したら良いのか⁉︎ ハラキリさよならバイバイ⁉︎」
「なんだかよくわかりませんが、せっかく助けた命を粗末に扱わないでください」
子供に似合わぬ重いため息をつきながら、アルに言われてしまった。
だって! そんな目に遭わせるために助けたわけじゃないのにっ‼︎
「それより、アフターケアってなんのことだよ?」
それよりとは何だねヴィンス君⁉︎
寝込むのは重症だぞ‼︎
弟ならもっと労われ‼︎
いや多分、ヴィンスなりに気を遣ってくれたんだけども! 長い思いを噛みしめながら、口に出した。
「辛い記憶を、緩和させないと……」
つまり、あそこに捕まってた生贄の人たちにしたみたいに、記憶を曇らせるって話なんだけど……。
「あ、それなんだけど」
「ん?」
「ノア、記憶ないんだ」
「……え?」
今、なんて?
「多分、何かされたショックなんじゃないかと思う。だからそこは、気にしなくて良い」
淡々と言われたその言葉が、静かな空間に響く。
それ……辛すぎて、自分で忘れちゃったって事……?
え……え……!
そんなの……そんなの‼︎
「辛すぎるよおおおお‼︎ 幸せにしてあげてよおおお‼︎」
「うわっ⁉︎ なんだよ急に泣くなよ⁉︎」
「ヴィンスぅぅぅ‼︎ 絶対すごいかわいがって幸せにしてあげてよぉぉぉぉ」
戸惑ってるヴィンスを掴んで揺らす。
なんでよー‼︎
この世界は乙女ゲームのくせに!
なんでこんなに優しくないのよー⁉︎
闇の魔力を宿すために、何をされたか知らないけど! 絶対死にたくなるようなヤツだよ‼︎ もっと子供に優しくしてあげてよー‼︎ 辛い話は嫌いなのぉぉぉ‼︎
「……ティア」
呼ばれて振り返ると……あれ? アルなんでここに移動して、っていうか、え?
「まったく、怒るつもりだったのに……。これでは怒れなくなってしまいました」
あったかい……あれ?
あの、気のせいでなければ。
抱きしめられてます?
「まぁ良いです。君はすぐどこかに行こうとするから、それなら首輪を付けるまでです」
「あ、アル?」
ヒュー! とヴィンスが口笛を吹いた。
あの、そうじゃないよね? これ私がヴィンス虐めてたから、止めに入っただけだと思うよ?
ほら見てよ、リリちゃん呆然だよ?
「隣にいれば私がなんとかしますからね。大丈夫です。もう逃しませんよ?」
キラキラと後光がさしそうな、女の子腰抜けの王子様キラースマイルで。アルは言った……。
あの、なんの話なんですかね?




