夢
大きな掌が、私の眼前に迫ってくる。
窓から入る満月の明かりに照らされて、その掌は青白く光って見えた。
私はその美しさに目を離せなくなってしまう。
いけない、早く逃げなくては──この掌に捕まってしまう前に。
けれど、なぜだか私の身体は言うことを聞かない。
なぜ──?
瞳だけ動かして周りを見ると、掌の主が私をベッドに押し倒している。
掌の主の体躯は私よりずっと大きくて、私は少しも動くことができない。
それならばと、私は声をあげて助けを呼ぼうとした。
けれど唇を開いたところで、その掌は私の首筋を捕まえてしまった。
両の掌が、私の首を包み込む。
冷たくて気持ちがいい──そう思えたのは束の間で、あっという間に呼吸を奪われ苦しみが襲ってきた。
美しく思えた掌が一瞬のうちに筋立って、私の首を絞めているのだ。
徐々に徐々に、その力は強くなる。
最初こそひんやりとしていた掌は、いつのまにか熱を帯び汗ばんでいた。
息ができない、苦しい、やめて──……!
掌は私の声を全て押し留め、唇からは掠れた呻き声しかでてこない。
どうにかこの苦しみから逃れようともがいたけれど、かろうじて自由になったのは片腕だけだった。
その片腕で掌に触れ、引き離せないかと抵抗してみる。
けれど非力な私では、逃れることはとても無理そうだった。
掌はその力を緩めず、掌の主は私を押さえつけて離さない。
そうしているうちにも呼吸はどんどん苦しくなって、私の身体からは力が抜けていってしまう。
それでも私は残った力を振り絞って、なんとか掌を遠ざけようと腕をばたつかせた。
すると、指先に何か温かいものが触れたのがわかった。
何──?
遠のきつつある意識の中で、私の瞳がその正体を捉える。
それは、掌の主の涙だった。
掌の主は、私の首を絞めながら泣いているのだ。
なぜ──?
そう問いたいけれど、変わらず私は声が出ない。
月明かりが涙の雫を輝かせながら、掌の主の顔を映した。
私より幾分か年嵩の殿方で、端正な顔立ちをしている。どこか懐かしくも思えるのだけれど、私の記憶にその人はいない。
その掌の主は涙を流しながら、悲しそうに、けれど強い意志を持って、私が死にゆく様を見ていた。
「すまない……君は、何も悪くないんだ」
掌の主が、初めて口を開く。
低く絞り出すような声をしていて、とても苦しそうだった。
苦しんでいるのは私なのに、この人はなぜこんなにも辛そうなのだろう。
あなたはいったい、誰──……?
唇からかすかに息が漏れたところで、私は意識を手放した。




