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悪役令嬢の凶器はドス黒いパイプ椅子です ~目指すは最強の悪役、あらゆる理不尽はこのパイプ椅子でぶっ飛ばしますわ~  作者: みやもと春九堂@月館望男
【第9部】無人島サバイバル編  ~悪役令嬢、無人島に漂着す。大自然が相手なら、島ごと「整地」させていただきますわ~
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第071話 遭難:VSクラーケン

 ズズズズズ……!!


 唐突に、島全体が大きく揺れた。


 地震ではない。


 もっと生物的な、地面の下から何かが這い出してくるような振動。


 そして、ジャングルの奥深くから、空気を震わせるような咆哮が響き渡った。


「グオオオオオオオオオッ!!!」


 木々がなぎ倒される轟音と共に、拠点の目の前に巨大な影が現れた。


 それは、海でわたしたちの船を襲ったあの「大王烏賊(ギガント・クラーケン)」――いや、違う。


 無数の触手の下に、太く強靭な「脚」が生えている。


 陸上環境に適応し、さらに凶暴化した島の主、「陸戦型ギガント・クラーケン」だ。


「うわぁぁぁ! イカが歩いてるぅぅ!?」


 アリスが悲鳴を上げる。


「なんて大きさ……! 推定重量三百トンはあります!」


 ミリアもリュックを抱えて後ずさる。


(……なるほど。あの魔力嵐は、こいつを封じ込めるための檻でもあったわけね)


 ダンジョンの警備システムを壊して檻が消えたことで、島の主が活動を再開したのだ。


 怒り狂うクラーケンが、触手を鞭のように振り回し、わたしたちの愛する拠点(ヴィータヴェン城(仮))を破壊しようと迫る。


 だが、わたしは不敵に笑った。


「……あら。冷蔵庫を手に入れたと思ったら、さっそく中身(イカ)の方から歩いて来るとはね。手間が省けたわ」


 わたしは足元の影に意識を向けた。


 そこには、深く、冷たい闇の空間が広がっている。


 そしてその奥底で、愛おしい相棒が「待っていた」とばかりに震えたのがわかった。


 通じる。


 繋がっている。


 今度の出番は農機でも建機でも重機でもない。


「――来なさい、相棒!」


 わたしは影の中に手を突っ込み、一気に引き抜いた。


 ズヌゥッ……!!!


 影からせり上がってきたのは、光さえ吸い込むような絶対的な黒。


 ドワーフの秘法とわたしの魔力で焼き直された、物理最強の鈍器。


 ガシャン!


 重厚な金属音と共に、『漆黒の玉座(オリジン)』が展開される。


 わたしはそれを片手で軽々と担ぎ上げ、クラーケンを見据えた。


「さあ、お待たせ。……ここからは『完全武装』の悪役(ヒール)令嬢が相手よ!」


 漂着、4日目:朝食。


「総員、調理開始(戦闘配置)!」


 わたしの号令と共に、戦いの火蓋が切って落とされた。


「行くよ、新装備! もう魔力残量(ガス欠)なんて気にしないんだから!」


 アリスが『星光の聖杖(スターライト・ロッド)』を掲げる。


 杖の先端にある宝石が、太陽のように輝いた。


 無限のリソース供給による、最大出力の光魔法。


「大いなる光よ、切り裂け! 極大聖光破斬(極太レーザー乱れ撃ち)ッッ!!」


 チュドォォォォォン!!!


 極太の光線が雨あられと降り注ぎ、クラーケンの触手を焼き払う。


 再生しようとする肉体を、光の熱量が上回る。


「食材は鮮度が命です! 捌きますよぉぉ!」


 ミリアが『永久の包丁《アダマンタイト・ナイフ》』を構えて疾走する。


 その切れ味は凄まじい。


 鋼鉄のようなクラーケンの皮膚を、まるで豆腐のようにスパスパと切り裂いていく。


 切断面が美しすぎて、クラーケンも切られたことに気づいていないほどだ。


「はい! イカ刺し一丁あがりです!」


 そして、わたしは。


「墨袋は破らせ(自爆はさせ)ないわよ!」


 身体強化フルパワー。


 わたしは砲弾のように飛び出し、クラーケンの懐に潜り込んだ。


 振り下ろされる巨大な脚を、「玉座」で受け止め、弾き返す。


 ガギィィンッ!!


「邪魔よッ!」


 わたしは玉座をフルスイングし、クラーケンの足を一本、また一本と物理的にへし折っていく。


 骨があるかどうかはどうでもいい。


 全てブチ折ってやるのだ。


 巨体がバランスを崩し、グラリと傾く。


「仕上げよ! アリス、目潰し! ミリア、油!」


「了解! 『閃光(フラッシュ)』!」


「はいッ! 特製ごま油、行きます!」


 アリスの放った強烈な閃光がクラーケンの目をくらませ、ミリアが足元に大量の油を撒く。


 わたしは玉座をハンマーのように振りかぶり、体勢を崩したクラーケンの脳天めがけて跳躍した。


「美味しく焼けなさいッ!! 『直火焼きプレス(バーニング・ハンマー)』ッ!!!」


 ドゴォォォォォォンッ!!!


 玉座の一撃がクラーケンの頭部を地面に叩きつけると同時に、ミリアの種火が油に引火した。


 爆発的な炎が巻き起こり、クラーケンを包み込む。


 ジュワァァァァァッ!!!


 香ばしい、あまりにも香ばしいイカ焼きの匂いが、浜辺いっぱいに広がる。


 クラーケンは完全に沈黙し、ただの巨大な食材へと変わった。


 その直後。


 浜辺では、盛大な「イカ焼き&海鮮ちゃんこパーティー」が開催された。


「ショーユの焦げる匂いこそが、勝利の凱歌よ!」


「イカリング食べ放題だー!」


「保存食用の燻製も作りますよー!」


 大自然の脅威を物理と食欲でねじ伏せたわたしたちは、満腹になるまで勝利の味を噛み締めたのだった。



 ◆◆◆



 漂着、10日目。


 建造、6日目。


 クラーケン討伐から数日。


 島の入り江には、クラーケンの強化骨格とダンジョンの廃材、そして古代樹を組み合わせて建造した、巨大な「イカダ」が浮かんでいた。


 イカダというか、見た目は完全に魔導戦艦だ。


 動力にはダンジョンの魔導タービンを搭載している(冷蔵庫ごと引っこ抜いてきた)。


 だが、まだ完成ではない。


 わたしには、最後の仕上げが残っていた。


「うわぁ、真っ黒……。でもこれ、塗料に使うにはさすがに臭くない? 生臭いよぉ……」


 アリスが鼻をつまんで顔をしかめる。


 浜辺には、解体したクラーケンから丁寧に取り出した、巨大な墨袋が置かれていた。


 中には大量の魔力を含んだ墨が入っている。


「失礼ね。これは勝利の証よ。……それに、ただ捨てるなんて『獣の穴』の流儀に反するわ」


 わたしはニヤリと笑い、島の火山地帯を指差した。


「この墨をベースに、火山の近くで見つけた黒曜石と、地層に埋まっていた炭化木を混ぜ合わせるの。……ミリア、調合比率は任せたわよ」


「はい! 接着剤代わりの松脂と、防腐効果のある薬草も加えましょう! お料理と同じですね!」


 わたしは巨大な岩の窪みを「すり鉢」代わりにして、黒曜石と炭化木を放り込んだ。


「硬い素材を粉末にするには、これが一番よ」


 ズドン!! バキバキバキッ!!! ゴリュォッゴリュォッゴリュォッ!!!


 わたしは『漆黒の玉座』を杵(きね)のように振り下ろし、鉱石を物理的に粉砕・微粒子化していく。


 そこへ、アリスが涙目で魔法をかける。


「くっさぁ~! ほんともう臭いのだけは勘弁してよね! 『浄化(ピュリフィケーション)』! ……あ、なんか光が墨に吸い込まれていく?」


 アリスの聖なる光による浄化(脱臭)と、わたしの魔力を帯びた玉座による物理撹拌。


 そしてクラーケンの墨に含まれる強力な魔力が化学反応を起こし、窪みの中の液体は「闇よりも深い、星空のように輝く黒い液体」へと変貌した。


「ミリア! 『眼鏡』でチェックして!」


「はいッ! 装着!」


 ミリアが『賢者アスケンの眼鏡』を装着し、出来上がった液体を凝視する。


 すると、彼女の顔色がサァーッと青ざめ、次いで紅潮した。


「す、すごいです……! 表示された成分表が文字化けしていますけど……かろうじて読める効果だけでもとんでもないです!」


 ミリアは震える声で読み上げた。


「名称『深淵の防汚塗料(アビス・コーティング)』……。効果:物理耐性(極大)、魔法耐性(極大)、自動修復機能……そして、『威圧感(カリスマ)補正+500%』!? ちなみに食用は『不可』だそうです!!」


「上出来ね。さあ、イカダをこの『黒』で染め上げるわよ!」


 数時間後。


 完成した巨大イカダは、不気味なほど艶やかな漆黒に塗り固められていた。


 しかし、その上には何も乗っていない。


 今はまだ、ただの広い甲板だ。


 浜辺では、増築を重ねて要塞化し、さらにダンジョンの遺物で近代化改修されたログハウス「ヴィータヴェン城(DX改)」の前で、ミリアが柱にすがりついて泣いていた。


「……うっ、ううっ……」


「なにをしんみりしているのよ? ようやく脱出できるっていうのに湿気るわねぇ」


 わたしが声をかけると、ミリアは涙目で振り返った。


「だってレヴィーネ様! イカダが完成したら、この島(パラダイス)とも、いよいよお別れなんですよね……」


 ミリアは愛おしそうに、システムキッチン(ダンジョンの遺物)や、手作りの燻製小屋を撫でる。


「ここまで快適にしたヴィータヴェン城の寝室も、リビングも、キッチンも……あとキッチンとも、それにキッチンとも! お別れになっちゃうんですよぉ? この『三口コンロ』ともお別れなんて……私の青春がぁ……!」


「キッチンへの未練が重すぎるよミリアちゃん!」


 アリスがツッコむが、ミリアの嘆きは止まらない。


 わたしはきょとんとした後、呆れたように、しかし不敵に笑った。


「……は? 何を言っているの、あなた」


 わたしはドレスの裾をまくり、手袋をキュッと締め直した。


「あらやだ、言ってなかったわね。作ったもの、奪ったもの、拾ったもの。――全部持っていくわよ?」


「……え?」


 ミリアとアリスが固まる中、わたしはヴィータヴェン城の土台(基礎部分)に手をかけ、深く腰を落とした。


 身体強化フルパワー。


 筋肉全開。


「ふんッ!!!」


 ズゴゴゴゴゴ……ッ!!!


 地響きと共に、巨大なログハウスが一軒まるごと、ズズズと持ち上がった。


「「えええええええええええっ!!??」」


「物理的な『引っ越し』だコレ!!」


 アリスの絶叫をBGMに、わたしはヴィータヴェン城(DX改)を担いで浜辺を歩き、そのまま海に浮かぶ巨大イカダの上へと設置した。


 ドズゥゥゥン!!!


 イカダが大きく沈み込み、そして安定する。


 完璧なサイズ感だ。


「よし。これで『船室(キャビン)』の完成ね」


 さらにわたしは影魔法「暗闇の間」を全開にしながら、わたしの「影」を島中に広げた。


 この十日間、この狭い孤島でわたしが足を踏み入れなかった場所などない。


 ここにも、そこにも、どこにでも。


『わたしは、いる』。


「あ、あのヤシの木、日除けにいいわね」


 ズボッ。


(引っこ抜く)


「温泉が湧いてた岩場、露天風呂として持っていきましょう」


 バキィッ。


(岩盤ごと切り取る)


「ダンジョンの入り口の石像、魔除けにいいかしら」


 ヒョイッ。


(回収)


 島のめぼしいものを次々と「収納」し、あるいはイカダに積んでいく。


「レヴィちゃん……それ、出航っていうか……『領土の強奪』だよ……」


 アリスが遠い目で呟く。


 かくして――。


 漆黒に塗られ、家を乗せ、完全に「動く島」と化した船の上で、わたしたちは優雅にティータイムを始めた。


 潮風が心地よいテラス(元・家のベランダ)で、冷えたトロピカルジュースを飲む。


「快適ね。……さて、目指すは東。黄金の国よ」


 いざ出航。


 わたしが魔導タービン(動力)に魔力を流し込んだ、その瞬間だった。


『ヌゥォオオオォォォォォォォォォォォォォォン…………』


 船のどこかから、腹の底に響くような、地獄の釜の蓋が開いたような、重苦しくも禍々しい「音」が鳴り響いた。


 汽笛などつけていない。


 それは、塗料に含まれたクラーケンの魔力と、船の構造体が共鳴して生まれた、魂の叫びのような音だった。


「ひぃぃぃッ!? なに今の音!? 船が唸った!?」


 アリスが腰を抜かす。


「す、凄まじい重低音……! お腹に響きます!」


 ミリアもリュックを抱きしめて震えている。


 だが、わたしはフッと笑った。


「……いい産声じゃない」


 わたしは黒い鉄扇を開き、高らかに宣言した。


「野郎ども、聞きなさい! この声こそが、我らが進撃の合図よ! 邪魔するものは、幽霊だろうが海賊だろうが、その悲鳴で道を空けさせなさい!!」


『ヌゥォオオオォォォォォン…………!!』


 もはや怪獣映画の登場シーンのような威圧感を撒き散らしながら、漆黒の要塞ヴィータヴェン号は、東の海へと滑り出した。


 最強の悪役令嬢は、家ごと、そして禍々しい「黒船」と共に旅をする。


 目指す舞台は、極東の島国。


 彼らがこの船を見てどんな顔をするのか、今から楽しみで仕方がない。

 【第9部 無人島サバイバル編】、これにて完結です。


 次章では東の島国トヨノクニへ。鎖国への「開国(物理)」が始まります。


 もしよろしければ、作品ページ下部からの【★★★★★】評価やご感想を

 いただけますと励みになります。


 それではまた次の部でお会いしましょう。

 押忍!!

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