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悪役令嬢の凶器はドス黒いパイプ椅子です ~目指すは最強の悪役、あらゆる理不尽はこのパイプ椅子でぶっ飛ばしますわ~  作者: みやもと春九堂@月館望男
【第7部】黄金の都・カジノ&地下闘技場編 ~借金1億? ならば筋肉とプロレスで倍返しですわ~
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第056話 演技終了

「ひ、ひぃッ! や、やれ! 誰かこいつを殺せ! 私は逃げる!」


 ゴルドーは部下に抱えられ、足を引きずりながらVIP席の奥――金庫室の方へと逃げ出した。


「逃がさないわよ。……地獄の果てまで『請求』してあげる」


 わたしは、金網の外に鎮座している「相棒」を見つめた。


 ゴルドーの足を粉砕した、あの重厚な鉄塊。


 わたしは、両腕に巻いていた黒いバンテージの端を掴んだ。


 魔力を抑え込み、わたしを「なるべくただの人間」に近づけてくれていた枷。


 もう、必要ない。


 シュルリ、と音を立てて、バンテージが解け落ちる。


 ドクンッ!!


 瞬間、堰を切ったように魔力が全身を駆け巡った。


 圧縮されていた力が爆発し、大気がビリビリと震える。


 抑制から解放された筋肉が歓喜の声を上げ、視界がクリアになる。


「……ふぅ。やっぱり、全開は気持ちいいわね」


 わたしは右手を差し出し、優しく、しかし力強く呼びかけた。


「――来なさい。相棒」


 わたしの指先から魔力のパスが伸び、椅子へと繋がる。


 瞬間、黒鋼がわたしの呼びかけに呼応し、震えた。


 ズドォォォォンッ!!!


 地面を砕き、倒れた金網を突き破り、黒い鉄塊が弾丸のように飛来する。


 それは吸い込まれるようにわたしの手元に収まった。


 ガシィッ!!


 掌に伝わる、ずしりとした重み。


 冷たさ。


 そして、何よりも頼もしい「本物(オリジン)」の感触。


 贋作とは違う。


 これはわたしの魂の一部だ。


「……ああ。やはり貴方は、何よりも手に馴染むわ」


 全身の血が沸騰するような高揚感が、わたしを包み込む。


 解放された魔力による身体強化。


 原初の重みを持つ最強の鈍器。


 そして、悪役として暴れるべき最高の舞台。


 役者は揃った。


 今の「究極の悪役令嬢《パーフェクト・レヴィーネ》」は、何よりも強く、理不尽で、そして傍若無人だ。


「さあ、始めましょうか。――世界で一番派手な『解体ショー』を!」


 わたしは相棒を肩に担ぎ、ゴルドーが逃げ込んだVIP席を見上げた。


 ゴルドーは部下たちを盾にしながら、必死にVIP席へと続く階段を登っていく。


 部下たちが魔導銃を乱射してくるが、わたしは「玉座」を盾にして全て弾き返した。


「遅い!」


 わたしは階段を使わず、垂直に近い壁を身体強化した脚力で疾走する。


「う、嘘だろ!? 壁を登ってきやがった!」


 頂上に達したわたしは、そこからさらに跳躍した。


 狙うは、VIP席の防弾ガラス。


「お邪魔するわ、よッ!!」


 パリィィィィンッ!!!


 わたしはガラスを「玉座」で粉砕し、VIPルームへと飛び込んだ。


 破片がダイヤモンドダストのように舞い散る中、わたしは着地する。


「ひぃぃぃッ!! 来るな! 化け物ぉぉッ!」


 ゴルドーは部屋の奥にある、分厚い金属製の扉――「金庫室(パニックルーム)」へと逃げ込んだ。


 ドン! と重い音を立てて扉が閉まり、ロックがかかる。


「はぁ、はぁ……! こ、ここは絶対防御の金庫室だ! 核魔法でも壊せん! 貴様ごときに入ってこれるものか!」


 中からゴルドーの震える声が聞こえる。


 わたしは金庫の扉の前に立ち、コンコン、とノックした。


「……開けなさい。ミリアとアリスはどこ?」


「し、知らん! ここにはいない! 諦めて帰れ!」


「ふうん。……なら、無理やりこじ開けて聞き出すまでね」


 わたしは「玉座」を構え直した。


 絶対防御? 核魔法でも壊せない?


 ……ドワーフの魔導炉で古代龍の息吹に焼かれ、わたしの魔力を吸い続けたこの「相棒」より重く硬い物質なんて、この世にあると思って?


「――『開け、ゴマ(物理)(オープン・セサミ)』ッ!!!」


 わたしは全身全霊の力を込め、扉の中心に「玉座」を突き立てた。


 ズゴォォォォォォォォンッ!!!!!


 凄まじい衝撃音が響き渡り、カジノ全体が揺れた。


 分厚い金属の扉が、飴細工のようにひしゃげ、蝶番ごと吹き飛んだ。


「な、な、な……」


 扉の向こうで、ゴルドーが腰を抜かしていた。


 彼の周りには、山積みの金貨と宝石。


 そして――。


「あ、レヴィちゃん! お疲れー! うわぁ、派手にやったねぇ」


「レヴィーネ様! お待ちしておりました! ちょうどお鍋の〆の雑炊ができたところです!」


 金庫室から鉄格子を隔てた軟禁部屋(という名のコタツ付き堕落の園)から、アリスとミリアが手を振っていた。


 二人は無事だ。


 それどころか、ミソ鍋の残りを食べている。


「……たくましいことで」


 わたしは苦笑し、ゴルドーを見下ろした。


「さあ、年貢の納め時よ、ドン・ゴルドー。……このカジノの全財産、ファイトマネーとして没収させてもらうわ」


「あ、あぁ……私の金が……私の王国が……」


 ゴルドーは泡を吹いて気絶した。


 カジノの支配者は、物理の前に敗れ去ったのだ。



 ◆◆◆



 騒動の後。


 わたしたちは壊滅した地下闘技場の瓦礫の上で、ささやかながら盛大な「打ち上げ」を行っていた。


 カジノから没収した高級酒と食材、そしてミリアが作り続けていた大量のちゃんこ鍋が振る舞われる。


「かんぱーい!!」


 わたし、アリス、ミリア。


 そして解放された奴隷剣士たちや、賭けに勝って(あるいはわたしが勝つことを見越して)生き残った観客たちが、ジョッキをぶつけ合う。


「いやー、レヴィちゃんの『くっ殺』演技、動画に撮りたかったなぁ~! あの時の会場の盛り上がり、ヤバかったよ!」


 アリスがゲラゲラ笑いながら、高級ワインをラッパ飲みする。


「ふふ、あの角度と声のトーン、完璧でした! さすがレヴィーネ様、被害者の演技も超一流です! あ、ついでにゴルドーの金庫から『権利書』関係も全部いただいておきましたので、後でお父様に送っておきますね」


 ミリアが肉を頬張りながら、恐ろしいことをサラッと言う。


 この子、本当に抜け目がない。


「……うるさいわね。あれも仕事のうちよ」


 わたしは赤面をごまかすように酒を煽った。


 周りでは、自由を得た元・奴隷剣士たちが「姐さん、一生ついていきます!」「筋肉万歳!」「V&C商会万歳!」と勝どきを上げている。


 なんでも、わたしのファンになったという富豪とミリアが、ミソ・ショーユの独占輸入契約を結んだらしい。


 解放奴隷達の雇用を条件にわたしも許可を出した。


「ちゃんこ道場・ゴールドベガス支部」として彼らが独自に運営していくことになったらしいのだけど、どうにも飲食店のフランチャイズ契約に思えてならない。


 契約内容に毎日のスクワットの回数も加えておくべきだったかしら?


「……でも、楽しかったわ」


 わたしは天井の崩れた穴から見える、夜空を見上げた。


 ノアを喪った悲しみは、消えることはない。


 けれど、こうして騒いで、暴れて、汗を流して、理不尽をぶっ壊している間だけは、前に進んでいる実感が湧く。


 翌朝。


 わたしたちは、港に停泊していた最高級の豪華客船の前に立っていた。


 ゴルドーが自分用に隠し持っていた船だが、今は「賠償金の一部」としてわたしたちが接収した。


「……さて。随分と派手にやってしまったわね」


 振り返れば、カジノホテルの一部が半壊し、地下からはまだ黒煙が上がっている。


 だが、見送りに来た街の人々の顔は明るかった。


 恐怖政治が終わり、新たな時代の予感に満ちている。


 ミソと醤油の味を知った彼らは、きっと強く生きていくだろう。


「レヴィーネ様ー! 行っちゃうんですかー!?」


「いつでも帰ってきてくださいねー! ミソ鍋用意して待ってますからー!」


 港には、昨日の騒ぎで解放された闘士たちや、ミソ・ディップのファンになった富裕層たちが見送りに来ていた。


 相変わらず、わたしの去り際は賑やかだ。


 その中には、首に包帯を巻いたゲイルの姿もあった。


 彼は、自由の身となった仲間たちと共に、晴れやかな顔で立っていた。


「……行くのか、嬢ちゃん」


「ええ。ここはもう退屈だもの」


「次はどこへ行く? 東の島国か?」


 わたしは首を横に振った。


「いいえ。南へ行こうと思うわ。……おじさまの話を聞いて、どうにも気になってしまったから、ね」


 わたしの言葉に、ゲイルは一瞬目を見開き、そしてニヤリと笑った。


「南……そうか、『サン・ルーチャ王国』へ行くんだな」


「ええ。灼熱の太陽と、情熱の国。……そこには、麻薬シンジケートに支配された『マスクマン』たちのリングがある、そうでしょ?」


「まいったな、前途ある若者に余計なことを教えちまったか?」


 ゲイルは頭をかきながらも、真剣な目で忠告してくれた。


「あそこにゃあ、こんなおっさん以上の使い手がゴロゴロいるぞ。派手な空中技やマスクに惑わされがちだが、中身は本物の殺し屋だ」


「望むところよ」


 わたしは不敵に笑う。


「ただ、麻薬シンジケートが政府や警察の大半までを掌握している国でもある……おっさんが『遠征』したのはもう何年も前だが、治安が悪くなることはあっても良くなることはないだろうな」


「……ふふ。治安が悪い? 最高じゃない」


 わたしは鉄扇を開き、口元を隠した。


「悪徳組織に、汚職警官、そして堕ちたヒーローたち……。私が暴れるには、おあつらえ向きの舞台だわ」


「ハッ! 違いないな。……達者でな」


 ゲイルの言葉に、わたしはウインクで応え、タラップを登った。


 アリスとミリアも、ゴルドーのコレクションだった美術品や宝石を大量に抱えて続く。


「レヴィちゃん次はどこにいくのー?」


 アリスが期待に満ちた目で尋ねる。


 わたしは船首に立ち、南の水平線を指差した。


「南よ! 情熱と太陽の国へ!!」


「南大陸! スパイスにフルーツに美味しいお肉! 販路拡大のビッグチャンスです!」


 ミリアが歓声を上げる。


 船が汽笛を鳴らし、黄金の都を離れていく。


 海風が、新しい冒険の匂いを運んでくる。


 最強の悪役令嬢と愉快な仲間たちの旅は、まだまだ終わらない。


 次のリングでも、ド派手に暴れてやろうじゃないの。


(……見ていてね、ノア。お姉ちゃんは、今日も元気よ)


 わたしは空に向かって、小さくウインクをした。

 【第7部 黄金の都・カジノ&地下闘技場編】、これにて完結です。


 次章では情熱の国サン・ルーチャへ。ルチャリブレと魔薬カルテルへの「教育的指導」が始まります。


 もしよろしければ、作品ページ下部からの【★★★★★】評価やご感想を

 いただけますと励みになります。


 それではまた次の部でお会いしましょう。

 押忍!!

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