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悪役令嬢の凶器はドス黒いパイプ椅子です ~目指すは最強の悪役、あらゆる理不尽はこのパイプ椅子でぶっ飛ばしますわ~  作者: みやもと春九堂@月館望男
【第7部】黄金の都・カジノ&地下闘技場編 ~借金1億? ならば筋肉とプロレスで倍返しですわ~
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第049話 船旅の始まり

 帝国の港を出て、数日。


 わたしたちを乗せた帝国の交易船は、どこまでも続く青い海原を滑るように進んでいた。


 甲板のデッキチェア(もちろんわたしが持ち込んだものだ)に寝そべり、潮風に当たっていると、隣でトロピカルジュースを飲んでいたアリスが、ふと思い出したように尋ねてきた。


「ところでレヴィちゃん、行く先は決めているの?」


「それが、特に決めてはいないのよね……」


 わたしはサイドテーブルに広げた世界地図(そこそこの精度のものだ)に視線を落とし、東の果てにある島々を指先でなぞった。


「ただ、漠然と考えているのはこのあたりかしら。……ジンのご先祖さまと、ミリアのお母様にショーユとミソの作り方を伝授した旅人。どちらも『東の島国』の出身だというから、きっと『そう(日本がモデル)』だと思うのよ」


「あー、なるほどね。『あっち(和風ファンタジー)』ね。わかるわかる」


 アリスがポンと手を打ち、ニシシと笑う。


 前世の記憶を持つわたしたちにとって、味噌と醤油、そしてカタナが存在する国といえば、答えは一つだ。


「だから、そのあたりを目指そうかとは考えているのだけれど……」


 わたしは地図の上で、現在地から東の果てまでの距離を指で測り、ため息をついた。


「どう考えても、航路の最後の経由地なのよね。ここからだと、船を乗り継いで数ヶ月はかかるわ」


「うへぇ、さすがに遠いねえ。いくらレヴィちゃんとの旅が楽しくても、ずっと船の上じゃ干からびちゃうよ」


「ええ。まあ、今回の旅は見聞を広めることが第一だから、焦る必要はないわ」


 わたしは懐から、一枚の豪奢な金属プレートを取り出した。


 表面には帝国の紋章が刻まれ、魔力で青白く輝いている。


 これは今回の出立に際し、第二皇子と第一皇女から餞別として押し付けられた……いただいたものだ。


「この『皇帝の道(カイザー・パス)』があることだしね。帝国の船ならどこの泊地からでも、無期限で、最上級船室に乗れるフリーパスよ。どこで降りてもいいし、気ままに羽を伸ばすとしましょう」


「さすが皇族だね! 太っ腹スポンサー!」


 アリスが無邪気に喜ぶ横で、わたしはプレートを握りしめ、水平線の彼方を見つめた。


(……ノア)


 胸の奥が、チクリと痛む。


 あの小さな「兄弟(ブラザー)」を看取った時の、手の冷たさと、魂の熱さ。


 わたしはまだ、あの別れから完全に立ち直れてはいない。


 ふとした瞬間に、彼の笑顔や、最後に交わした約束が蘇り、心に穴が空いたような寂しさに襲われる。


 けれど、わたしは「悪役(ヒール)」だ。


 湿っぽい顔をして周りに気を遣わせるなんて、三流のすること。


 だからわたしは、精一杯の強がりで、口角を吊り上げた。


「せいぜい楽しむわよ。……世界は広いんだもの」


 そう、自分に言い聞かせるように呟いた、その時だった。


「――むぅ! またお二人だけで、私にはわからない言葉でお話しして!」


 背後から、不満げな声が飛んできた。


 振り返ると、両手に大量のトウモロコシ(おやつ用らしい)を抱えたミリアが、頬を膨らませて立っていた。


「ミリア。別に内緒話をしていたわけじゃないわ。どこに行こうか話していたのよ」


「むー、怪しいですよ! 『そう』とか『あっち』とか、絶対私だけ仲間はずれにしてます!」


 ミリアはズカズカと歩み寄ると、テーブルの地図を覗き込み、そして瞳をキラリと光らせた。


「……レヴィーネ様。この旅の最大の目的は、『見聞を広めること』なんですよね?」


「ええ、まあそうね。世界の理不尽をへし折りながらね」


「でしたら! 何はともあれ、まずは『懐』を潤しませんか?」


「懐?」


 ミリアはニヤリと笑い、地図上のある一点――現在地からほど近い、巨大な島を指差した。


「船員さんから聞きました。次はここ、『ゴールド・ベガス』に寄港するそうです。……大陸有数のカジノと、世界中の富が集まるリゾート地ですよ!」


「カジノ……?」


 その単語を聞いた瞬間、アリスがガタッと身を乗り出した。


「カジノ!? レヴィちゃん、私、行きたい! 任せてよ、この手のゲームは『昔(前世)』から得意なの! 廃課金ガチャとRTAで鍛えた『乱数調整』の勘、見せてあげる!」


「あ、アリスさんばかりズルいです! 私だって、この島なら『ヴィータヴェン産ミソ・ディップ』が高値で売れると踏んでいるんです! 富裕層の舌を唸らせて、活動資金を稼ぎましょう!」


 二人の目が、欲望(ベル)のマークになっている。


 ……やれやれ。


 感傷に浸っている暇なんてなさそうだ。


 わたしは苦笑し、鉄扇を開いた。


「いいでしょう。……まずはその『黄金の都』とやらで、運試しと行こうじゃないの」


 船の前方に、煌びやかなネオンと、欲望の匂いを漂わせる巨大な人工島が見えてきた。


 新たなリングの予感に、わたしの心が、少しだけ高鳴った。



 ◆◆◆



 夜。


 甲板に出たわたしは、月明かりの下で「相棒」の手入れをしていた。


『漆黒の玉座』を影から取り出し、クロスで丁寧に磨き上げる。


「……ふふ。いい艶ね。潮風に負けないよう、コーティングもしっかりしておきましょう」


 わたしは椅子に語りかけるように、魔力を注ぎ込んでいく。


 ドワーフの遺跡で出会い、わたしの魔力で生まれ変わったこの黒鋼(クロムアダマン)は、わたしの魔力に敏感に反応する。


 最近では、言葉を交わさずとも意志が通じ合っているような気さえしていた。


「ねえ、レヴィちゃん。何してるの?」


 背後からアリスが顔を出した。


 ミリアも一緒だ。


「あら、起きてきたの? ……少し、この子と『対話』をしていたのよ」


「対話って……椅子と?」


 アリスが呆れたような顔をする。


「ええ。この『黒鋼(クロムアダマン)』という素材はね、注ぎ込む魔力の密度によって、その『質量』を変化させる特性があるみたいなの」


 わたしは実験の成果を見せることにした。


「アリス、これを持ってみて」


「え? うん、いいけど……」


 アリスが椅子の背もたれを掴み、持ち上げようとする。


 ビクともしない。


「っぐぬぬ……! お、重っ……!? 何これ、床に張り付いてるの!?」


 アリスが顔を真っ赤にして踏ん張るが、数ミリも動かない。


 数百キロの鉄塊なのだから当然だ。


「ふふ。……じゃあ、次はどうかしら」


 わたしは椅子の背に手を添え、優しく魔力を流し込んだ。


 イメージするのは「羽毛」。


 重力からの解放。


 わたしの魔力回路と椅子の分子構造がリンクし、質量への干渉が行われる。


「――はい、どうぞ」


「えー、変わんないでしょ……って、うわっ!?」


 アリスが再び力を込めると、今度は勢い余って椅子ごと後ろにひっくり返りそうになった。


 彼女の手の中で、あの重厚な鉄塊が、まるでバルサ材の模型のように軽々と舞っている。


「か、軽い!? 風船みたい!」


「魔力制御による『軽量化モード』よ。これなら、あなたでも片手で持てるでしょう?」


「すごいですレヴィーネ様! これなら、私たちでもレヴィーネ様の『相棒』をお運びできますね!」


 ミリアが目を輝かせる。


「ええ。これからの旅、何があるかわからないわ。いざという時は、あなたたちにこの子を預けることもあるかもしれない。……その時は頼んだわよ?」


 わたしが言うと、二人は真剣な顔で頷いた。


「任せて! レヴィちゃんの魂(椅子)、絶対守るから!」


「命に代えても!」


 ……まあ、命に代えるほどではないのだけれど。


 わたしは軽くなった椅子を撫で、夜空を見上げた。


(頼むわよ、相棒。……これからは、もっと身軽に暴れまわりましょう)


 最強の悪役令嬢、次はカジノへ殴り込みである。

 本日より【第7部 黄金の都・カジノ&地下闘技場編】がスタートです。


 借金1億? ならば筋肉とプロレスで倍返しです。


 それでは、ここから先もどうぞよろしくお願いします。

 押忍!

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