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悪役令嬢の凶器はドス黒いパイプ椅子です ~目指すは最強の悪役、あらゆる理不尽はこのパイプ椅子でぶっ飛ばしますわ~  作者: みやもと春九堂@月館望男
【第5部】帝都帰還・数値(ステータス)至上主義粉砕編 ~泥棒猫のチート能力、物理でへし折って差し上げます~
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第041話 VSチート能力

「始めッ!!」


 ゴングが鳴ると同時、ケビンが動いた。


「まずは挨拶代わりだ! 食らえ、Sランクスキル『剣聖連斬』ッ!!」


 ケビンの魔剣が閃く。


 確かに速い。


 数値上の速度はSランクそのものだ。


 だが。


 カァン! カンッ!


 わたしは鉄扇一本で、その斬撃をすべて弾き返した。


「な、なにィッ!?」


「軽い」


 わたしは一歩も動かず、吐き捨てるように言った。


「速いだけ。重さがない。……ジンが見せたあの剣技には、彼の人生(おもみ)が乗っていたわ。アンタの剣にあるのは、ただの『データ』だけよ」


「黙れぇッ! ならば質より量だ! 俺のスキルコレクションを見せてやる!」


 ケビンが半狂乱になって叫ぶ。


 彼は魔剣を掲げ、まるでカタログを読み上げるようにスキル名を連呼し始めた。


「『豪雷』! 『ブリザード』! 『ソニックブーム』! 『アースクエイク』! 『ポイズンミスト』! 『重力プレス』ッ!!」


 雷が落ち、氷礫が飛び、衝撃波が走り、地面が揺れ、毒の霧が舞う。


 属性も系統もバラバラ。


 連携も何もない、ただ持っているだけの強力なスキルを、手当たり次第にぶっ放すだけの弾幕。


 普通なら、これだけの飽和攻撃を受ければ跡形もなくなるだろう。


 だが。


 パァン! バシッ! ドォン!


 わたしは鉄扇を開き、舞うようにステップを踏んだ。


 雷を扇子で受け流し、氷を砕き、毒の霧を風圧で吹き飛ばす。


「雑よ! 芸がないわ! 組み合わせの美学も知らないの!?」


「な、なんでだ!? なんで当たらない!? 数値は全部Sランクなんだぞ!?」


 息を切らすケビン。


 わたしは傷一つないドレスのまま、涼しい顔で彼を見据えた。


「……もうおしまい? なら、これをお返しするわ」


 わたしは鉄扇を懐にしまい、一歩前に出た。


 その威圧感に、ケビンが後ずさる。


「ひッ……く、来るな! だったら、これを使わせてもらうぞ!」


 ケビンの全身から、ドス黒い紫色のオーラが噴き出した。


 それは、この会場にいる誰よりも高貴であるはずの、しかし今は最も汚らわしく見える覇気。


「跪け、愚民ども! ユニークスキル『王の威光』ッ!!」


 ドォォォォン……!


 空気が重くなる。


 第一皇子から奪い取った、人を強制的に平伏させる王の力。


 観客席の生徒たちが、次々と意識を失ったり、ガタガタと震えて膝をついたりしていく。


「ハハハハ! 見ろ! これが王の力だ! さあレヴィーネ、お前も俺の前に額を擦りつけ……」


 ケビンの高笑いが、ピタリと止まった。


 わたしが、眉一つ動かさず、悠然と立っていたからだ。


「……な、なぜだ? なぜ平気なんだ!? これは絶対の支配スキルだぞ!?」


「……返してもらうわよ、それ」


 わたしの声が、絶対零度まで冷え込んだ。


 怒り。


 純粋な怒りが、わたしの内側から溢れ出す。


「その力は、第一皇子殿下が生まれながらに背負い、苦悩し、それでも国のためにと磨き上げてきた『責任』の結晶よ。……アンタのような、覚悟のないコソ泥が使っていい代物じゃない!」


 ゴォォォォォッ!!


 わたしの体から、ケビンのそれを遥かに凌駕する、本物の「悪役(ヒール)」の覇気が噴出する。


 それは借り物ではない。


 わたし自身の魂が放つ、圧倒的な「格」の差。


 ケビンの紫色のオーラが、わたしの覇気に飲まれて霧散する。


「ひ、ひぃぃッ!? 消えた!? 俺の威光が……かき消された!?」


「――そもそも皇族でもないのに威光もクソもないでしょ?」


「黙れぇッ! 調子に乗るなよ、物理攻撃も精神攻撃も通じないなら、これで消し炭にしてやる! 食らいやがれ、SSランク禁呪『死の獄炎(インフェルノ)』ッ!!」


 錯乱したケビンの掌から、闘技場全体を飲み込むほどの巨大な業火が放たれた。


 熱波が観客席まで届き、悲鳴が上がる。


 逃げ場のない広範囲殲滅魔法。


 だが、わたしは足元の影に手を伸ばした。


「……熱いわね。少し、風を入れましょうか」


 ズヌゥッ……。


 影から引き抜かれたのは、わたしの魂の半身『漆黒の玉座』。


 わたしはそれを盾のように構え、真正面から業火を受け止めた。


 ゴオォォォォォォッ!!


 炎が玉座に当たり、左右に分かれる。


 玉座の後ろにあるわたしのドレスは、焦げ目ひとつついていない。


「な、なんだその椅子は!? 俺のSSランク魔法だぞ!?」


「あら。この子はドワーフの魔導炉にエンシェントドラゴンのブレス以上の炎を入れて焼き上げられたのよ? その程度の種火じゃ、温まりもしないわ」


 わたしは玉座を片手で振り払い、炎を霧散させた。


「くそっ、くそっ! なぜだ! なぜ効かない! ……なら、これならどうだ! SSSランク『次元切断』ッ!!」


 ケビンが聖剣を振りかぶる。


 その刀身に、空間そのものを切り裂く、禍々しい亀裂が走る。


 防御不能、回避不能の概念攻撃。


 当たれば椅子ごと両断される必殺の一撃。


「死ねぇぇぇッ!!」


 振り下ろされる聖剣。


 だが、その「概念」が発動するよりも速く――わたしは動いた。


「遅いのよ!!!」


 ドゴォンッ!!


 わたしは踏み込み、聖剣の「腹」を、玉座の座面で横からフルスイングした。


 バギィィィンッ!!!


 次元を斬るはずの聖剣が、物理的な衝撃に耐えきれず、根元からひん曲がって弾き飛ばされた。


「あ、あああ……!? 俺の、俺の最強武器が!?」


「発動しなければただのなまくらよ。……もう手札はおしまい?」


 わたしがジリジリと歩み寄ると、ケビンは後ずさり、引きつった顔で右手を突き出した。


「く、来るな! 止まれ! 隠しスキル発動! 『システム権限:絶対命令(コマンド・ストップ)』ッ!!」


 王の威光などではない。


 世界の理そのものに干渉し、対象の動作を強制的に停止させる管理者権限。


 ジンの動きを封じたあの力の、最大出力版だ。


 ブォン……。


 世界が灰色に染まり、わたしの手足に見えない鎖が絡みつく感覚が走る。


「ハハッ! かかったな! これで貴様は指一本動かせな……」


 パリーン。


 鎖が砕ける音がした。


 わたしは、何事もなかったかのように一歩を踏み出した。


「……は?」


「……『止まれ』? それだけ?」


 わたしは呆れ果ててため息をついた。


「わたしはね、もっと強烈な『強制終了(ゲームオーバー)』を、この身で味わってきたのよ。それに比べれば……アンタの権限なんて、そよ風みたいなものね」


 ラノリアの地下で対峙した、あの世界そのものを塗り替えるような圧力。


 それに比べれば、この男の権限など、子供のわがままレベルだ。


 わたしの魂と筋肉は、こんな安い命令には従わない。


「う、嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ! 俺の数値はオールSSSだぞ! システム最強なんだぞ!?」


 ケビンは錯乱し、空中に自身のステータスウィンドウを展開した。


 そこには『筋力:99999』『敏捷:99999』といった、バグじみた数値が羅列されている。


「見ろ! この数値を! お前の攻撃力じゃ、俺の防御数値は抜けない! システム的に不可能なんだよォッ!!」


 ケビンはウィンドウを盾にするように構え、その数値の壁に縋り付いた。


 哀れな男だ。


 現実を見ようとせず、最後まで数字という幻想の中に逃げ込んでいる。


 わたしは『玉座』を大上段に振りかぶった。


「数値? 計算? ……そんな板切れ一枚で、わたしの『人生(おもみ)』を測れると思って?」


 全身の筋肉が唸りを上げる。


 魔力が爆発し、大気が悲鳴を上げる。


 これはただの物理攻撃ではない。


 理不尽な運命、借り物の力、魂のないシステム――それら全てを否定し、粉砕する、断罪の一撃。


「消えなさい、三流ッ!!!」


 ブォォォォォォンッ!!!!!


 音速を超えた『玉座』が、ケビンの展開したステータスウィンドウに直撃する。


 ガシャアアアアアアアンッ!!!!!


 本来、物理干渉などしないはずの「システム画面」が、ガラスのように砕け散った。


 数値が、文字が、破片となって宙に舞う。


「あ、が……あァァァァァッ!?」


 ウィンドウごと、ケビン自身もまた、粉々に砕かれた。


 鎧が弾け飛び、剣が折れ、その身ひとつで彼方へと吹き飛ばされる。


 ドゴォォォォンッ!!!


 闘技場の壁に深々とめり込み、ケビンは崩れ落ちた。


 白目を剥き、泡を吹いている。


 その体から、無数の光の玉――奪い取っていたスキルたちが、解放されて空へと舞い上がっていくのが見えた。


 静寂。


 わたしは『玉座』を石畳に突き立て、仁王立ちした。


 砕け散ったステータスウィンドウの破片が、キラキラと光りながら消滅していく。


「勝者、レヴィーネ・ヴィータヴェン!!」


 審判の声が響くと同時に、闘技場が爆発した。


「うおおおおおッ!!」


「すげええええッ!!」


「物理最高! 筋肉最高!!」


 親衛隊だけではない。


 数値に縛られ、鬱屈していたすべての観客たちが、総立ちで拳を突き上げている。


 見えない檻が壊された瞬間だ。


 わたしは観客席に向かって、優雅にカーテシーをしてみせた。


 ただし、その顔には最高の「悪役(ヒール)スマイル」を浮かべて。



 ◆◆◆



 ケビンは廃人となり、地下牢へと幽閉された。


 彼が持っていたチート能力はすべて消滅し、ただのひ弱な少年に戻ったという。


 そして、解放されたスキルたちは、それぞれの持ち主の元へと帰っていった。


 第一皇子は生気を取り戻し、ジンは再び剣の道に邁進している。


 学園からは「鑑定プレート」が一掃され、再び矜持の声と汗と努力の音が響くようになった。


 そして、わたしは。


「……さて。ここも少し、退屈になってきましたわね」


 ヴィータヴェン領の屋敷で、わたしは窓の外を眺めていた。


 帝国の英雄として祭り上げられるのは御免だ。


 わたしは悪役。


 一つの場所に留まるのは性に合わない。


 それに――最近、母上のお腹が目立ってきた。


 新しい命の予感。


 それは、ヴィータヴェン家に新しい風が吹く予兆でもあった。


「……次のリングは、どこかしら」


 わたしは影の中の相棒を撫で、不敵に笑った。


 最強の悪役令嬢の旅は、まだまだ終わらない。

 【第5部 帝都帰還・数値(ステータス)至上主義粉砕編】、これにて完結です。


 次章では故郷へ帰り、死の運命にある少年との魂のタッグマッチが始まります。


 もしよろしければ、作品ページ下部からの【★★★★★】評価やご感想を

 いただけますと励みになります。


 それではまた次の部でお会いしましょう。

 押忍!!

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