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悪役令嬢の凶器はドス黒いパイプ椅子です ~目指すは最強の悪役、あらゆる理不尽はこのパイプ椅子でぶっ飛ばしますわ~  作者: みやもと春九堂@月館望男
【第5部】帝都帰還・数値(ステータス)至上主義粉砕編 ~泥棒猫のチート能力、物理でへし折って差し上げます~
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第038話 本物の剣士

 御前試合の前日。


 わたしは学園からの帰り道、人気のない裏路地を歩いていた。


 隣にはアリス、後ろには荷物持ちのミリア。


「……ねえ、レヴィちゃん。さっきから視線を感じるんだけど」


「ええ。隠す気もない殺気がビンビンよ」


 わたしは足を止めず、口元だけで笑った。


 ケビンからの第二陣、刺客のお出ましだ。


 ヒュンッ!


 突如、空間が歪み、わたしの背後に一人の男子生徒が現れた。


 転移魔法――いや、スキルの強制発動による「瞬間移動」か。


「死ねッ! 『瞬間移動(テレポート)』からの死角攻撃ッ!」


 男は勝ち誇った顔で短剣を振り下ろす。


 だが、その動きはあまりに軽率で、重心がブレブレだった。


「……位置が変わっただけで、動きが止まって見えるわよ?」


 わたしは振り返りもせず、裏拳を放った。


 バキィッ!!


「ぐべぇっ!?」


 男は顔面を陥没させ、ゴミ袋のように路地の壁に叩きつけられた。


 彼は白目を剥いて痙攣している。


「な、なんだと……!? 俺のSランクスキルだぞ!?」


 路地の陰から、さらに数人の生徒が飛び出してきた。


 それぞれが派手なオーラを纏っている。


「俺の『豪炎魔法』で焼き尽くしてやる!」


「僕の『音速剣』が見えるか!」


 彼らは口々に叫び、強力な魔法や剣技を放ってくる。


 炎が渦を巻き、剣閃が走る。


 数値上は間違いなくSランク級の出力だ。


 だが――。


「熱いだけ。速いだけ。……中身がスカスカなのよ!」


 わたしは鉄扇一振りで炎の渦を霧散させ、迫りくる音速の剣を、最小限の体捌きで回避した。


 そして、すれ違いざまに足を払い、バランスを崩したところへ掌底を叩き込む。


 ドォォン!!


「がはっ……! な、なぜだ……スキルは最強のはずなのに……!」


 地面に転がる彼らを見下ろし、わたしは冷たく言い放った。


「あなたたち、そのスキルを使って何年になるの?」


「な、何年……? 昨日、ケビン様にいただいたばかりだが……」


「だからよ」


 わたしは呆れてため息をついた。


「最高級の魔石(パワー)を積んでも、それを制御する機構(ボディ)と技術(テクニック)がガラクタでは、暴走して事故を起こすのがオチでしょう? 借り物の力に振り回されているだけのピエロですわ」


 アリスが眼鏡の位置を直しつつ、補足する。


「やっぱり……。彼らのスキル、ケビンから『譲渡(ギフト)』されたものね。データとしてはSランクでも、本人の熟練度がゼロだから、ただ暴発させてるだけだわ」


「ええ。つまらない余興だったわ。……さあ、帰りましょうか」


 わたしが踵を返そうとした、その時だった。


 ゾクリ。


 肌を刺すような、鋭利で静かな殺気。


 これまでの連中とは違う、研ぎ澄まされた気配が、路地の奥から滲み出してきた。


「……へえ。ゴミの中にも、一粒くらいは宝石が混ざっているようね」


 わたしは足を止め、振り返った。


 そこに立っていたのは、一人の小柄な少年だった。


 ボロボロの制服に、手には古びた木刀。


 胸元にはプレートをつけていない。


 だが、その立ち姿には一切の隙がなく、重心は大地に根を張ったように安定している。


「……どけ、雑魚ども。邪魔だ」


 少年が低く呟くと、地面に転がっていた「借り物Sランク」の生徒たちが、ヒッと悲鳴を上げて這いずり逃げていった。


「……お前がレヴィーネか。噂通りの『圧力(プレッシャー)』だ」


 少年が木刀を構える。


 ただの構えではない。


 数百万回、数千万回の素振りの果てにたどり着いた、洗練された「型」だ。


「名は?」


「……ジン。ただの剣士だ」


 ジンと名乗った少年が、一歩踏み込む。


 瞬間、彼の姿が消えた。


(――速いッ! 査定(チェック)する隙さえない!)


 転移や加速スキルではない。


 純粋な脚力と、独自の歩法による急接近。


 わたしは反射的に『鋼鉄級贋作パイプ椅子(フェイク)』を顕現させ、ガードした。


 ガギンッ!!


 重い衝撃が腕に走る。


 木刀とは思えない威力だ。


 彼はわたしのガードを見て、即座に追撃を入れてくる。


 上段、下段、突き。


 流れるような連撃。


 その一つ一つに、確かな「意志」と「重量」が乗っている。


「……いいわね! 貴方、それは『自分自身の力』ね!?」


 わたしはニヤリと笑い、攻勢に転じた。


 パイプ椅子を振るう。


 彼はそれを紙一重で躱し、カウンターを合わせてくる。


「……俺は生まれつき『剣鬼』のスキルを持っていた。Sランクだ」


 ジンは無表情のまま、剣戟の中で語る。


「だが、ケビンの『鑑定』は、俺を評価しなかった。俺の剣は地味で、派手なエフェクトもないからだ」


「見る目のない節穴ね! こんなにいい筋肉(バネ)をしているのに!」


「奴は俺のスキルを奪おうとしなかった。……『地味なスキルはいらない』とな。だが、条件を出された。『レヴィーネを倒せば、病気の妹を救う薬をやる』と」


 ガガガガッ!!


 火花が散るような近接戦闘。


 彼の剣は、システムから与えられた安易な「正解」ではない。


 彼自身が悩み、苦しみ、血反吐を吐いて磨き上げた「過程」の結晶だ。


(……ああ、久しぶりだわ。この手応え!)


 わたしは歓喜した。


 これは「作業」ではない。


「試合」だ。


「事情はわかったわ。でも、手加減はしない!」


「望むところだ……!」


 ジンが深く息を吸い込み、構えを変えた。


 全身の筋肉が収縮し、魔力が木刀に収束する。


「奥義――『一閃』」


「こっちもとっておきで行くわよ! 『正眼・袈裟打ち(椅子チャンバラ)』!!」


 交差する一瞬。


 静寂。


 カァン……!


 乾いた音が響き、ジンの木刀が半ばから折れて宙を舞い、落ちた。


 打ちおろしから返した、わたしのパイプ椅子は彼の首元寸前で止まっている。


「……俺の、負けか」


 ジンはその場に膝をついた。


 わたしはパイプ椅子を霧散させると、彼を見下ろした。


「いい太刀筋だったわ。……ケビンごときには勿体ない人材ね」


「……殺せ。妹を救えなかった俺に、生きる価値はない」


「馬鹿ね。死んだらそれまでよ」


 わたしは懐から、ラノリアで手に入れた最高級の万能薬(エリクサー級の代物だ)を取り出し、彼に放り投げた。


 家族へのお土産にする予定だったが、必要経費だ。


「え……?」


「妹さんにはそれを使いなさい。その代わり」


 わたしはニヤリと笑った。


「貴方のその腕、わたしが買ったわ。……御前試合でケビンをぶっ潰した後、わたしの『道場』に来なさい。もっといい男に鍛え直してあげるから」


 ジンは呆然と薬を握りしめ、やがて深く頭を下げた。


「……ああ。この命に代えても」


 こうして、わたしはまた一人、骨のある手駒を手に入れた。


 やはり、物理と筋肉は嘘をつかない。


 さあ、準備運動は完璧だ。


 いよいよ、メインイベントの幕が開く。

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