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悪役令嬢の凶器はドス黒いパイプ椅子です ~目指すは最強の悪役、あらゆる理不尽はこのパイプ椅子でぶっ飛ばしますわ~  作者: みやもと春九堂@月館望男
【第4部】聖教国ラノリア・殴り込み編 ~聖女の「運営」システム、ちゃんこ鍋で破壊しました~
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第028話 聖騎士団

 そのアリスの無邪気な呼びかけに呼応するように、教皇が口を開いた。


『――対象ノ、座標ヲ確認。シナリオ「断罪」ヲ、開始シマス』


 その声には、抑揚がなかった。


 老人のかすれ声ではない。


 複数の無機質な音声を合成したような、耳障りな響き。


 だが、バルバロスもアリスも、信者たちも、その異常な声に疑問を抱いていない。


 認識を阻害されているのだ。


(なるほどね……。トップが傀儡どころか、「人間ですらない」とはね)


 わたしは瞬時に理解した。


 あれは生き物ではない。


 このふざけたシナリオを強制進行させるための「運営(システム)の端末」だ。


 バルバロスは自分が教皇を操っているつもりなのだろうが、実際はシステムの都合の良いように思考誘導されているだけのピエロに過ぎない。


 わたしは鉄扇で口元を隠し、ニヤリと笑った。


「……へえ。面白い『置物』を飾っていますのね、枢機卿」


 アウェイこそが、悪役(ヒール)の輝く場所。


 そして今日は、頼もしい「セコンド」たちも一緒だ。


「さて、ギル。そして野郎ども」


 わたしは背後に控える筋肉の精鋭たちに声をかけた。


「これからここで、派手な『解体工事』を始めるわ。……でも、観客席にゴミ(一般信徒)が残っていると、埃がかかって迷惑でしょう?」


 わたしの意図を瞬時に理解したちゃんこ道場門下生の面々が、獰猛な笑みを浮かべて頷く。


 これから起きる大破壊。


 そこに一般信徒がいれば、ただの虐殺になってしまう。


 だからこそ、強制的に退場願うのだ。


「――会場清掃の時間(クリアリング)よ! 一匹残らず外へ放り出しなさい!!」


「応ッッ!!!」


 号令と共に、百人の筋肉の塊が弾けた。


 彼らは蜘蛛の子を散らすように大聖堂内の客席へと雪崩れ込むと、呆然としている信徒たちを次々と捕獲し始めた。


「失礼しますよっと!」


「軽い軽い! 米俵より軽ぇや!」


 一人が右脇に一人、左脇に一人、さらに肩に一人。


 合計三人もの成人男性を軽々と抱え上げると、彼らは猛ダッシュで入り口へと走る。


 そして、壊れた扉の外へ向かって――ポイッ。


「ひぃぃぃぃ~っ!?」


「あ~れ~っ!?」


 放り投げられた信徒たちは、外の広場の植え込みや、先に投げられた信徒の柔らかい腹の上に、見事な放物線を描いて着地する。


 受け身の取れない素人を怪我させずに投げる、絶妙な力加減。


 これもまた、筋肉の制御(コントロール)の賜物だ。


「な、何をしている貴様ら!? 神聖な信徒たちを荷物のように!」


 バルバロスが杖を振り回して激怒するが、ちゃんこ道場門下生たちの手は止まらない。


 彼らはピストン輸送のように、抱えては走り、投げては戻るを繰り返す。


 その速度は常人の倍以上。


 数千人いたはずの信徒たちが、まるで吸い出されるように減っていく。


「暴れないでくださいねー、舌噛みますよー」


「はい次! おばあちゃんは優しくお姫様抱っこで特急搬送だ!」


 それは避難誘導ではない。


「人間投擲リレー」だ。


 慈悲などないかのような乱暴さで、しかし結果として誰一人傷つけることなく、彼らは会場を清掃していく。


「ば、馬鹿な……! あの数の人間を、たった百人で……!?」


 バルバロスが戦慄する。


 わたしは扇子をパチンと閉じ、悠然と告げた。


「言ったでしょう? 彼らはわたしの自慢の『作品』だと。……さあ、これで心置きなく暴れられますわね?」


 最後の信徒が入り口から放り出されると同時に、わたしは右手を高々と掲げた。


「始めましょうか。――『大聖堂崩し』のメインイベントを!」



 ◆◆◆



 最後の信徒が、放物線を描いて壊れた扉の外へと消えていく。


 部隊のリーダー格の生徒が、額の汗を拭いながらわたしに向き直った。


「姐さん! 一般人の排除、完了しました! ……ですが、あそこから出てきた連中は、俺たちの手には余ります!」


 彼が指差した先――祭壇の裏手から、全身を白銀の鎧で覆った騎士たちが隊列を組んで現れていた。


 教団騎士団の中でも精鋭部隊、『白き断罪者』。


 彼らから放たれる魔力と殺気は、これまで相手にしてきた不良生徒たちとは次元が違う。


「賢明な判断ね。自分の力量を見極めるのも、強さのうちよ」


 わたしは満足げに頷いた。


 彼らはまだ「ヒヨッコ」だ。


 ここで無理をさせて壊すわけにはいかない。


「入り口を封鎖しなさい! 一匹たりとも中に入れるな、そして外に逃がすな! ここを完全な『密室』にするのよ!」


「了解ッ! 野郎ども、入り口を固めろ! ここからはボスの独壇場だ!!」


 ちゃんこ道場門下生たちは即座に散開し、破壊された大扉の前にバリケードのように立ちはだかった。


 これで、邪魔者は入ってこられない。


 そして、中のネズミも逃げられない。


 わたしは祭壇に向き直り、ポキポキと指を鳴らした。


「おのれ、おのれぇぇッ!! 神聖な儀式をここまで冒涜するか!!」


 バルバロスの顔が怒りでどす黒く染まる。


 彼の号令と共に、祭壇を守るように展開した数十名の騎士たちが、一斉に武器を構えた。


 長大なハルバード、魔力を帯びた大剣。


 彼らの目もまた、黒いモヤに覆われ、自我を失った殺戮人形と化している。


「殺せ! 神の敵を八つ裂きにせよ! 教団騎士団、突撃ッ!!」


 騎士たちが雄叫びを上げ、殺到してくる。


 床石を踏み砕く金属音。


 迫りくる白銀の波。


 普通の令嬢なら悲鳴を上げて気絶する場面だろう。


 だが。


(――さて、お仕事の時間ね)


 わたしの脳内時間は極限まで加速し、冷徹な「査定(チェック)」が始まる。


(敵戦力確認。……総勢三十名。全員がフルプレート装備)


(生体反応……あり。魔法生物(ゴーレム)の類じゃない、中身の入った生身の人間ね)


 相手が人間である以上、「漆黒の玉座(オリジン)」は使えない。


 あんなもので殴れば、大聖堂がスプラッタハウスになってしまう。


 だが、彼らは限界を超えた身体強化を施され、魔法防御に優れた鎧を着込んでいる。


 つまり――生半可な攻撃では止まらないが、殺してもいけない。


(耐久力査定……よし! 鎧込みで『頑丈』判定! 多少骨が折れても死にはしない!)


(武装選択……『パイプ椅子』級贋作、二刀流(ダブルクロス)解禁!)


 カッ!


 わたしの両手に、魔力で構成された無骨なパイプ椅子(贋作)が顕現する。


 左手に一脚、右手に一脚。


 両手それぞれで攻防を切り替えられる、いわば二丁拳銃ならぬ「二丁椅子」だ。


「神の敵に死をッ!」


 先頭の騎士が、目にも留まらぬ速さでハルバードを突き出してきた。


 ガギンッ!!


 わたしは左手の椅子でその穂先を強引に受け止め、火花を散らす。


 そして、がら空きになった騎士の脇腹へ、右手の椅子の脚を深々と突き入れた。


 ズドォッ!!


「がはっ……!?」


 鎧の上からでも内臓を揺らす衝撃。


 騎士がくの字に折れる。


「姿勢が悪いわよ、神の使いさん!」


 すかさず左手の椅子の背もたれで、騎士の兜を横からフルスイングする。


 ガァァンッ!!!


 鐘のような音が鳴り響き、騎士が吹き飛んで後続の数人を巻き込んで倒れる。


 左手で受け止め、右手で突き、また左手で薙ぎ払う――防御と攻撃を絶え間なく入れ替えながら、相手の勢いだけを利用して畳みかける。


 これがわたしのオリジナル技、「チェア・ダブルクロス」。


 攻防一体の連撃だ。


 脳震盪を起こして気絶、あるいは肋骨数本がお逝きになったはず。


 これで一丁上がり――そう思った、次の瞬間だった。


「――殺ス、殺ス、殺ス……」


 倒れたはずの騎士が、糸で釣られた人形のように、不自然な動作でゆらりと立ち上がった。


 兜の隙間から覗く瞳は焦点が合っておらず、口からはうわ言のように呪詛を吐き続けている。


 鎧の脇腹は陥没し、足はありえない方向に曲がっているにも関わらず、だ。


「……チッ。厄介ね」


 わたしは舌打ちをした。


 わたしの信条は「健全な肉体に健全な精神が宿る」。


 鍛え上げた肉体が精神を牽引し、限界を超えさせることこそが強さだ。


 だが、これは逆だ。


 強力な洗脳(精神)が、壊れた肉体を無理やり駆動させている。


 肉体の悲鳴を無視し、ただ命令を遂行するためだけに動く、おぞましい操り人形。


 わたしの美学に反する。


 何より、生理的に不快だ。


「鬱陶しいわね……!!」


 ちまちま殴って気絶させる程度では止まらない。


 ならば、物理的に「機能停止」するまで粉砕するのみ。


 わたしは両手の椅子を霧散させ、今度はより巨大で質量の高い椅子を魔力で練り上げた。


(武装再選択! 『スレッジハンマー』級贋作・展開!)


 顕現したのは、通常の倍はある座面と、太いパイプで構成された特大のパイプ椅子。


 わたしはそれを大上段に振りかぶった。


「どきなさいッ!!」


 ブォォォォンッ!!!


 空気を引き裂く音が、もはや打撃音ではない。


 暴風だ。


 横薙ぎに一閃されたスレッジハンマー級の椅子が、殺到する騎士たちを鎧ごと吹き飛ばす。


 ガシャァァァン!! ドゴォォォォン!!


 人間がピンのように宙を舞い、壁に激突しては崩れ落ちる。


 鎧はひしゃげ、武器は折れ、手足はあらぬ方向へ曲がる。


 物理的に「立つ」という機能そのものを破壊された彼らは、もはや洗脳の力をもってしてもピクリとも動かなくなった。


「ば、化け物め……! なぜだ、なぜこちらの『聖女の祈り(デバフ)』が効かん!?」


 アリスが祭壇で杖を振り回しているが、彼女が放つ精神干渉魔法は、わたしの周りで霧散していた。


 影魔法の深淵を覗いたわたしにとって、アリス程度の浅い干渉など、そよ風にも劣る。


「残念でしたわね。わたしの心は、あなたのような三流脚本家には書き換えられなくてよ!」


 わたしは最後の騎士の脳天をパイプ椅子の座面で打ち抜き、祭壇への道を切り開いた。


 その足元には、三十人の騎士たちが、悪趣味な椅子の残骸を首にぶら下げ、今度こそ沈黙している。


「さあ、次はどうするの? まだ駒は残っていて?」


 わたしは贋作の椅子を消し、悠然と祭壇の階段に足をかけた。

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