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転生魔王はガチャで軍勢を育てる  作者: もかどら


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第1話 魔王として転生する

――死んだ、はずだった。

最後に覚えているのは、雨の夜と、視界いっぱいに迫ってきた光。

次に気がついたとき、俺は黒い石床の上に立っていた。

「……どこだ、ここ」

声が妙に若い。

自分の喉に触れると、手もまた前より細く、白かった。

人間というより、少しだけ魔族じみた見た目だ。

目の前には、巨大な玉座。

周囲には古い魔法陣。

窓の外には赤黒い空が広がっている。

どう見ても、まともな場所じゃない。

そのとき、頭の中に無機質な声が響いた。

『黒瀬レンの転生を確認しました』

「……転生?」

『対象者に魔王適性を付与します』

「は?」

俺は一瞬、何を言われたのか理解できなかった。

死んだと思ったら転生して、しかも魔王。

情報量が多すぎる。

『続いて、転生特典を選択してください』

目の前に、淡い光の文字が浮かぶ。

統率補正

魔力成長補正

同種配合適正

潜在評価眼

召喚安定化

「……ちょっと待て」

本当に待ってくれるわけではない。

だが、待たずにはいられなかった。

死んだ実感すらまだ曖昧なのに、いきなり特典を選べと言われても困る。

しかも魔王だの、適性だの、意味が分からない単語ばかりだ。

「え、何? 俺、これから魔王になるの?」

『はい』

「いや、はいじゃないだろ……」

『現在地は魔界の魔王継承領域です』

「魔界……?」

少しずつ、現実感が増してくる。

増してきたところで、最悪だった。

俺はしばらく黙った。

選択肢を見つめる。

どれが正解なのか分からない。

というより、正解なんてあるのかも分からない。

「統率補正……配下をまとめやすい、ってことか」

『はい』

「魔力成長補正は?」

『魔力の上昇効率が上がります』

「同種配合適正」

『同一種族の重複個体を強化・進化させやすくなります』

「潜在評価眼は?」

『配下の隠れた価値や役割適性を視認できます』

「召喚安定化は?」

『召喚時の暴走や不確定要素を軽減します』

なるほど。

どれもそれっぽい。

そして、どれも大事そうだ。

だが、ここでようやく俺は気づいた。

魔王として強くなるなら、自分が殴るより、配下をどう使うかの方が重要なんじゃないか?

それに――

こんな見知らぬ世界で、一人で全部やるのは無理だ。

なら、まず必要なのは力そのものじゃない。

力を回す仕組みだ。

「……統率補正と、同種配合適正、かな」

『選択を確認しました』

「待て。二つ選べるのか?」

『転生特典は複数選択可能です。ただし、上位補正は一部制限があります』

「最初から言え」

少しだけ腹が立ったが、今はそれどころではない。

俺はもう一度、選択肢を見直した。

統率補正。

同種配合適正。

潜在評価眼。

迷った末、最後の一つを足す。

「……潜在評価眼も頼む」

『確認しました。付与を開始します』

体の奥がじんわり熱くなる。

何かが、確かに変わった気がした。

まだよく分からない。

だが少なくとも、ただの丸腰ではないらしい。

『魔王権限の一部が解放されます』

その声と同時に、石床の魔法陣が淡く光った。

『魔界ガチャ機能を使用できます』

「……は?」

『魔界における配下召喚、軍勢編成、育成補助の基本機能です』

「ガチャって、そういうのなのか」

もっと軽いものを想像していた。

だが説明を聞く限り、これはかなり重要な仕組みらしい。

『初回無料十連を実行しますか』

「……する」

ここで引かなきゃ始まらない。

そう直感した。

『魔界ガチャ、開始』

魔法陣が強く輝き、赤い光が渦を巻く。

空気が震え、石床の上に次々と影が浮かんだ。

『ゴブリン x100』

「多っ」

床一面に、同じ顔の小鬼がずらっと並ぶ。

槍を持ったやつ、石を持ったやつ、何も持っていないやつ。

見分けがつかないが、たぶん全員ゴブリンだ。

『スケルトン x30』

骨がカタカタ鳴りながら現れる。

死んでいるくせに妙に整然としていて、使い捨てには向いていそうだった。

『インプ x10』

小さな悪魔が飛び出す。

口が悪そうな顔をしている。

嫌がらせや撹乱が得意そうだ。

『オーク x3』

少しはマシな見た目の連中も出てきた。

だが三体だけ。

しかも全員、周囲を見回して「ここどこだ?」みたいな顔をしている。

最後に、黒いローブの男が現れた。

『軍師ユニット・リゼル x1』

眼鏡を押し上げたその男は、周囲を見て、即座に顔をしかめた。

「……最悪です」

「初対面で言うことじゃないだろ」

「事実です。かなり」

リゼルはゴブリンの群れを見て、スケルトンを見て、最後に俺を見た。

「普通ならハズレです。かなり」

「普通なら、か」

「ええ。ただし――あなたにその特典があるなら、話は別です」

「どういう意味だ」

「統率補正、同種配合適正、潜在評価眼。

要するにあなたは、弱い配下を“弱いまま”使う魔王ではない。

弱い配下を育てて、戦力に変える魔王です」

……なるほど。

派手な当たりではない。

だが、悪くない。

ゴブリン百体。

スケルトン三十体。

インプ十体。

オーク三体。

そして、臆病だが頭の回る軍師。

数はある。

育てれば伸びる。

使い方次第で化ける。

それなら十分だ。

「リゼル」

「はい」

「これ、強いのか?」

「普通なら弱いです」

「普通なら、か」

「ええ。ただし、あなたが扱うなら別です」

その言葉に、少しだけ笑ってしまった。

弱いなら弱いでいい。

どうせこの世界では、最初から強い側にいる必要なんてない。

必要なのは、弱いものをどう使うかだ。

そのときだった。

ドン。

玉座の間の扉が、外から乱暴に叩かれた。

ドン、ドン。

リゼルの顔色が一気に悪くなる。

「来ましたね……」

「何がだ」

「隣接領の魔族領主です。新しく魔王が生まれたと聞いて、潰しに来たのでしょう」

扉の向こうから、太い笑い声が響いた。

「おい、弱小魔王! 生きてるなら出てこい!」

なるほど。

この世界の挨拶は、どうやらかなり物騒らしい。

俺はゆっくりと玉座に視線をやったあと、立ち上がった。

「リゼル」

「はい」

「何か作戦を立てろ」

リゼルは今の戦力をじっくり観察する。

「初陣だ。派手にやる」

リゼルは一瞬だけ黙って、それから深く息を吐いた。

「では、正面から殴るのはやめます」

「いいな」

「まずゴブリンで包囲し足止めします。インプで視界を乱します。スケルトンで敵の攻撃を受け止めます。そして背後に回らせたオークで指揮官を潰します」

「よし」

「最後に、あなたが止めを刺してください」

俺は玉座を背にして歩き出した。

「それでいい」

扉が、ついに蹴破られた。

現れたのは、熊みたいにでかい魔族だった。

鎧は雑で、斧は巨大。

だが手入れはしていないのかボロボロに見える。

顔には、俺たちを見下すような余裕がある。

「こんなガキが魔王だと? 笑わせるな。今ここで潰してやる」

俺は敵を見た。

そして、その背後にいる取り巻きの気配も見た。

ざっとゴブリン50匹と、狼のような二足歩行の魔物が20匹ぐらいか。

数は多くないが、全員が殺気立っている。

だが、強くもない。

「リゼル」

「はい」

「倒せるか」

「……普通なら厳しいです」

「普通じゃないのがいるだろ」

リゼルは数秒黙ったあと、観念したように頷いた。

「……やれます。かなり嫌な戦い方になりますが。相手は全員バラバラで統率というもの取れていません。そこを狙うのが唯一の勝ち筋です。」

「それでいい」

俺は手を上げた。

「全軍、動け」

ゴブリン百体が左右に散る。

スケルトンが前に出る。

インプが天井付近から一斉に飛びかかる。

その隙にオークが敵の死角へ回る。

熊魔族が、初めて顔をしかめた。

「なっ――数だけの雑魚だろうが!」

「雑魚じゃない」

俺は一歩踏み出した。

「軍勢だ」

戦場が動いた。

ゴブリンの群れが敵の足を止める。

スケルトンが斧を受け止める。

インプが視界を乱し、オークが背後に回る。

「さすがリゼル。同じゴブリン同士でも統率でこんなにも変わるのか」

熊魔族が叫んだ。

「馬鹿な、なんだコイツら、こんな――!」

「お前は」

俺は低く言った。

「一番大事なものを見ていない」

相手が振り向いた、その一瞬。

オークの一撃が、敵の首筋を深く裂いた。

巨体が崩れる。

床を揺らしながら、熊魔族は倒れた。

静寂。

ゴブリンたちは勝ったのか分からずきょとんとしている。

インプは勝ち誇るように飛び回り、スケルトンは無言のまま槍を構えていた。

リゼルだけが、ひどく疲れた顔で息を吐く。

「……勝ちましたね」

「当然だ」

「初陣で、ですか」

「初陣だからだ」

俺は倒れた敵を見下ろした。

魔界はバラバラだ。

無駄に潰し合い、無駄に消耗し、無駄に弱い。

なら、まとめた方が早い。

「次はどこだ?」

リゼルが一瞬だけ目を見開く。

「……次、ですか?」

「鉱山だ」

「鉱山?」

「資源があれば、ガチャを回せる」

リゼルは、心底あきれた顔をした。

「……本気で魔界を統一する気ですね」

「ああ」

俺は玉座の間を出る扉へ歩きながら、振り返った。

「この世界は、引きがすべてだ。

だったら俺が、全部引いてやる」

外では、まだ敵の軍勢がざわめいている。

だがもう遅い。

魔王は転生した。

特典は十分。

初回十連も悪くない。

そして、次の一手も決まった。

――魔界統一は、ここから始まる。

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