魔法都市
「野営をある程度済ませた時だった。突然の獣の咆哮が空気を揺るがした。
「なんだ?」
すると、森の奥から巨大な山羊の獣人が現れ、両手で持っていた大戦斧で木々をなぎ倒しながら向かってきた。
「うわ!」
「化け物!」
悲鳴にも似た騎士たちの叫ぶ声にナスルは檄を飛ばした。
「クラウス殿を守れ!」
数名の騎士たちが化け物の前に立ち塞がる。しかし、巨大な戦斧の餌食になるだけだった。
「ブモォォォ!」
咆哮し威嚇する化け物、クラウスは負けじと叫んだ。
「足を止めるな!木に隠れるんだ!」
足が竦んでいた騎士たちは咄嗟に木の陰に隠れ、クラウスは懐からリボルバーを取り出して化け物に撃った。
ビシッ
胸に銃弾を受け喀血した化け物は逆上し大戦斧をクラウス目掛けて振り下ろした。
『大振りの攻撃、当たるか』
パン!
クラウスはローリングして振り回される大戦斧をよけ、もう一発鼻に見舞った。化け物の攻撃で焚き火が蹴飛ばされて火が飛び散った。
「今だ!」
それまで隠れていたナスルは化け物の前に出ると凄まじい突風を起こして化け物を攻撃した。
突風は炎を巻き上げて化け物を覆った。
「ピギィ!」
風にその身を切り刻まれ、炎に巻かれた化け物は明らかに弱っていた。
「はぁ!」
ナスルは間髪入れずにサーベルで斬り掛かった。
ズバッ
左脚を斬られて立てなくなった化け物は膝をついた。
「ふん!」
シルビウスの槍で胸を貫かれた化け物は大量出血してその場に崩れた。歓声が上がる。騎士たちは各自さまざまなものを用いて消火作業に当たった。すると化け物の亡骸は消し炭のように崩れていった。
「召喚獣だ」
騎士の誰かが呟く。回復魔法で治療に当たっていたシルビウスも手をとめた。
「魔法都市の奴らか犯人は」
「どうする?」
ナスルは応えた。
「行ってみますか?クラウス殿」
クラウスは頷いた。
「夕方の男たちのこともある。行こう」
シルビウスは周囲の部下に警戒をするように言うと、ナスルと一緒に夕飯の用意をし始めた。
「こんな時に食事か?」
クラウスが聞くとシルビウスはナスルのチェストプレートを外しながら答えた。
「ガイアエピタフの反動で大食いをしないといけないので……」
「みっともない話ですよね?」
ナスルが恥ずかしそうに言う。
「携帯食しかないが我慢しろ」
「ないよりマシさ」
二人の会話を遠巻きに聞いていたクラウスだったが携帯食の多さに絶句した。
「そんなに食べるのか?すごいな」
携帯食にむしゃぶり付きながらナスルが言う。
「経費がバカになりません(むしゃむしゃ)」
シルビウスはその間に明日の予定を言った。
「魔法都市ゼノンには強行軍になりますが、明日中には着きます」
「わかった」
お腹がパンパンにしながらナスルが恥ずかしそうに手を合わせた。
「ごちそうさま」
◇◇◇◇◇
朝早くに出発して魔法都市ゼノンに着いたのは昼を過ぎていた。一行は都市の責任者のいる建物へ向かった。
大きな建屋の吹き抜けのある大広間にその人たちはいた。
大きなステンドグラスを背景に座りながら宙に浮いていた。
「ようこそ、魔法都市ゼノンへ。私は都市運営責任者のノーラ」
真ん中に座る美魔女が言った。白いスーツ姿だ。
「コッチは紋章魔法のセバス。コッチは魔砲技術者のザラ」
金髪ロングの美魔女セバス。銀髪ショートの一番若い魔女ザラ。みんな目の周りに濃いクマがあった。三者三様の服装であった。
「クラウスだ。話を聞きたい。黒ずくめの男たちや召喚獣について知ってることは?」
「知らなーい」
クラウスの問にザラが魔砲をいじりながら答えた。
「お前だけだ、知らんのは。皇子殿が命を狙われてるのは知っている」
顔の入れ墨をゆがませながらセバスが横槍を入れた。
「目的までは知らないが、ローリタニアのおえらいさんが暗殺を企ててるって話さ」
「一体どうして?」
クラウスは食い下がった。それには一番上にいたノーラが応える。
「大方、金で後継者争いの手伝いでもしているのでしょう」
「魔法都市が企ててないという証拠は?」
シルビウスは魔法都市が関与していると思っているらしい。ノーラがシルビウスの目の高さまで降りてきて言う。
「私達は関係ないです。神に誓って」
その言葉にザラが吹き出した。
「あっはっは、そんなものなんの信頼もない!実利がないと」
セバスが頷く。
「その通り。何かくれてやるのがいい」
「……そうだ。飛び道具はもってるか?魔砲に改造してやろう」
そうザラは言うと手を出した、早く出せと言うように。クラウスがリボルバーを取り出すとうれしそうにザラは受け取った。
「次に会うときまでには仕上げてやるよ」
「それじゃ困る」
クラウスが困惑するとセバスが「それなら」と言った。
「魔法が使えたらいいか?」
「どうやって?」
それまで黙っていたナスルが問いかけた。
「紋章魔法だ。何、すぐ済む」
セバスはクラウスに左腕を出すように言うと、呪文を詠唱しだした。するとクラウスの腕にスルスルとルーン文字が取り付いてサークレットのように定着した。
「火球の紋章魔法だ。注意して使え」
「なら、私はこれを授けましょう」
ノーラはクラウスのもとに降りてくるとランプの様なものを手渡した。
「持ち主に対する殺意に反応するアーティファクトです。どうぞお持ちください」
「ありがとうノーラ、セバス、ザラ」
「気にするな。火球はせいぜい5連続使用だろう」
「死ぬなよ、少年!あっはっは!」
ノーラは地上に降り立つと丁寧にお辞儀をして一行を送り出した。
「負けないでくださいね」
◇◇◇◇◇◇
夕暮れ間近に、まちのほとりの河川敷まで来た一行はクラウスの火球の試し撃ちにつきあわされていた。
先ずは火球を出して地面に置き、ゴール目掛けて蹴り飛ばす。
ドン!
ドガァン!
ドン!
ドガァァ!
「ふぅ、こんなものかな」
遠巻きに見ていたナスルが問いかける。
「サッカーをされてたんですか?」
「学生時代な」
その時、クラウスには弟ジュリアスの幻影が見えていた。
ーすごいや、兄さんはー
「俺はまだ、ソッチに行くつもりはない(ボソッ)」
「何か言いました?」
クラウスの独り言にナスルが問いかけた。
「いいや。独り言だ。そろそろ宿に戻ろう」
「引き上げるぞー!」
シルビウスの大きな声が夕闇に響いた。
◇◇◇◇◇
宿に着いた一行は各々、夕飯をとった。
「茹で前2kgって多いな」
クラウスはナスルの前に置かれたパスタのあまりの大きさに、持っていたハムチーズのサンドイッチを落としそうになった。
「具材1kgソース1kgで6kgって所でしょうか(テレテレ)」
「保存技術が発達した魔法都市でよかった」
ナスルの傍らにいたシルビウスが応えた。
「それはそうと、クラウス殿はすごいです。我ら任せではなく、ちゃんと自分の身を守ろうとしてらっしゃる」
フォークとスプーンを動かしながらナスルは続ける。
「普通の王族なら怯えてることでしょう」
「自分のことは極力、自分でしないと、な」
クルクルクル……
ゾバッゾババッ!
モグモグ……
チュルルル
「み、見事な食べっぷりだ」
半ば呆れたようにクラウスは感嘆した。
「エヘヘへ、そうですか?」
気を良くしたナスル。その傍らのシルビウスが事務をこなした。
「明日はいよいよローリタニアの首都ローリタンになります」
「わかった」
クラウスはサンドイッチを片付けると部屋に戻っていった。




