第3話 ガラクタ戦士
「うわあ——!」
男の村人の悲鳴が上がった。
悪人どもの頭目が、
男の手のひらに刃を突き立てている。
顎いっぱいに黒く縮れた髭。
半禿の頭に、片目の眼帯。
長袍の襟元からは、
胸当ての革鎧が覗いていた。
頭目は、
刺さったままの刃をぐり、と捻る。
男は泣き叫び、必死にもがく。
口から飛び出す言葉は――聞き取れない。
「……何を言ってるのか、わからねえ……」
『ゴーレム自動翻訳機能、起動』
「カナートの水門の鍵を出せ。
聞こえねえのか!」
頭目の怒号が広場に響いた。
拷問を受ける男以外、
村人はみな俯いたままだ。
「鍵さえ出せば、
財産だけで済ませてやる。
――命は助けてやる」
刃を前後に揺らしながら、
頭目は歪んだ笑みを浮かべる。
「それとも、てめえの娘を遊んでから、
砂漠の魚人の巣の近くに
投げ込んでやろうか?」
吐き気がするほど下卑た顔。
……盗賊団、ってやつか。
この翻訳、すげえ……
試驗に持っていけたら英語赤点で済むのに
「お父さん、やめて!
鍵を渡して! 苦しまないで!」
娘が泣きながら訴える。
だが男は、歯を食いしばって言った。
「……お前らが水門の鍵で何をするか、
わかってる……。
イチネ流域の他の村のために、
俺は言えない」
「へえ。
じゃあ、指の爪、
何枚まで耐えられるか試してみるか」
頭目が鉗子を取り出し、
小指の爪を挟んだ。
――見ていられない。
俺は誰にも気づかれないよう、
近くの民家へ滑り込んだ。
外から、断続的な叫び声が聞こえる。
耳を塞ぎたい。
でも、衝動で飛び出したら終わりだ。
家の中は荒らされ放題で、
家具は叩き壊されていた。
だが逆に、分解の手間が省ける。
やることはひとつ。……即席装備を作る
帯と縄をかき集め、
台所から鍋を引っ張り出して頭に被る。
縄を取っ手に通し、顎の下で縛った。
鍋の蓋は左腕に固定して盾にする。
背中に枕を背負い、
椅子の座面を剥がして胸当てに。
椅子脚を毛布で巻き、
手足に縛り付けて鎧代わり。
武器は麺棒。
腰には包丁を何本か差した。
装備を整え、
居間を抜けて外へ――としたとき、
鏡に映った自分の姿が目に入る。
……ひでえ格好だ。
思わず笑いが漏れた。
『新称号獲得:ガラクタ戦士』
『戦闘中、ステータス小幅上昇』
『斬・打・突・熱 防御+1』
戦闘用の称号……?
奇襲の鍵になるかもしれない
俺は悲鳴の合間を縫って、外へ出た。
広場の様子をうかがうと、
時折、盗賊の一、二人が離れていく。
俺はそのうちの一人を尾けた。
そいつは別の家に入り、
勝手に物色を始める。
頭目に隠れて小遣い稼ぎ――ってところか。
……好都合だ
俺は「被害者」のまま近づく。
奴は、俺を完全に無視した。
麺棒を高く掲げ、後頭部に狙いを定める。
振り下ろす直前で、称号を切り替えた。
ガラクタ戦士!
コンー!
奴は何が起きたか理解する前に、
白目を剥いて崩れ落ちた。
頼む、死ぬな……。
後頭部の鈍器、致死率高いんだよ
考える余裕はない。
その場にあった服を裂いて縛り上げると、
後頭部から血が滲み出してきた。
「……お願いだから……」
足元の熱砂ゴーレムが、
ぽよん、と跳ねた。
丸い体が男の後頭部に張り付き、
砂で傷口を押さえる。
見た目は最悪だが――止血している。
……少しはマシか
俺は同じ手で、もう一人を無力化した。
全員がこんなに
油断してりゃいいんだが……
ゆっくり広場へ戻り、数を数える。
まだ――十一人。
……一人ずつは無理だ。




