表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水門のガーディアン——Water Gate Guardian——  作者: 上部乱


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/39

第27話 死の海


テッテレー!

『神魚の試煉イベントが終了。

ゴーレムコアがアップグレード』


『ゴーレム:Lv6

 全能力:+2

 攻撃への属性付与機能の開放

 両腕常態装備へと換裝

 プレートアーマーとの融合

 新材質:スティール・ゴーレム』

 

「ボール……お前、一体どこまで進化するつもりなんだ?」

俺は嬉しそうにボールを眺めた。

 

今のそれは、もはや二本の足が生えたただの球体ではない。

両腕を広げ、堂々とした侍のような佇まいを見せている。

 

すぐにでも時間を取って、ボールの新しい能力をテストしてみたいところだった。

 

だが、この忌々しい航路は、俺たちに一息つく暇さえ与えてはくれない。俺たちはバハムートが巻き起こした聖なる海流に乗っていた。それは神霊が遺した最後の贈り物だ。

 

海流は、暗い洋流の中に一本の青い発光レールの如き通路を強引に切り開いていた。

 

『立ち止まるな! 最大の速度をもって、この海域を去れ!』

バハムートの重低音のような警告が、今も耳の奥で鳴り響いている。

 

海流が進むにつれ、周囲の景色は不安を煽るような異変を見せ始めた。

十五隻の戦艦は、まるで深淵へと無理やり引きずり込まれる風鈴の列のように、呪われた死の海へと突入した。

 

ここの空には、もはや色がなかった。

風も雨もない快晴のはずなのに、ある無形の境界線を越えた途端、鉛のような分厚い暗雲がのしかかってきた。

 

湿度は異常なほど高く、呼吸をするたびに冷たい鉄錆を飲み込んでいるような感覚に陥る。

 

「この臭い……おぇ……」

グルルは自分のエラを固く閉じた。

 

海面は深い青ではなく、吐き気を催すような黒赤色を呈していた。

それは数日間放置され、腐敗して凝固し始めた血の色に似ていた。


水面には脂ぎった膜が浮き、波がうねるたびに、鼻を突く血腥さと屍臭が立ち込める。

 

船体には時折、鈍い衝撃音が伝わってきた。それは木材が肉体にぶつかる音だ。

 

海面には無数の巨大な血肉の塊が漂っていた。皮を剥がれた牛のようなものもあれば、絶え間なく蠢く肉腫のようなものもある。

 

「あの音は何だ……?」

シーリンがシャムシールを握りしめ、鋭い眼差しで霧の向こうを睨みつけた。

 

初めは風の音かと思った。

だがすぐに、その音は無数の人間が上げる低い哀鳴へと変わった。

恐怖、怒り、そして飢餓が入り混じった咆哮が、海面の四方八方から染み出してくる。

 

漂う肉塊の中から、一つ、また一つと生首が突き出してきた。

皮膚のないその顔、眼窩には虚ろな緑の光が宿っている。

彼らはいななき、残された指の骨で俺たちの船縁にしがみついてきた。

 

「こいつら……登ってこようとしてるぞ!」

水手の一人が悲鳴を上げた。

 

これらの肉塊は海の中で互いに惹かれ合い、つなぎ合わさって、その体積を急速に拡大させていく。


中には数メートルの高さに達する肉の山も珍しくなかった。数日前にバチェラシュの城壁外で焼き払った不死者たちと同じだ。

 

戦艦の兵士たちは即座に反応した。バチェラシュの戦士たちはロングフックやヤリを繰り出し、船体にしがみつく肉塊を海へと突き落とそうとする。

 

バリスタが絶え間なく火を噴くが、鋼鉄の矢は腐肉を貫通しても穴を開けるだけで、怪物たちには退く気配すら微塵もない。

 

「助け……助けてくれ!」

悲鳴が混乱を切り裂いた。

 

身を乗り出しすぎた一人の兵士が、肉塊を押し戻そうとした瞬間、突如として伸びてきた数本の白骨の腕に掴まれたのだ。

彼はまるでスープに落ちたクッキーのように、一瞬にして黒赤色の死海へと引きずり込まれた。

 

「くそっ!」

俺は叫び、駆け寄ろうとした。

 

しかし、距離が遠すぎる。俺が海に飛び込んで救出すべきか迷ったその時、ボールが動いた。

 

それは俺の指示を待たなかった。

アップグレードされたボールは、驚くべき自律的な判断力を発揮したのだ。

 

それは瞬時に鋼鉄から高い延展性を持つスライムゴーレムへと形態を変え、その側面からグライダーを展開した。

 

ボールは銀色の光を放つ巨大なアホウドリのごとく、落水した兵士へと急降下していった。


飛行中、ボールの前方の機械構造が急速に組み替わり、強化されたクロスボウがセットされる。

 

今回、矢の先端には不安定な火赤色の光が明滅していた。

 

「バシュゥッ!!」

 

火属性の追加ダメージを纏った火箭ひやが、兵士が落ちた場所のすぐ傍に正確に着弾した。

激しい炎が油じみた海面の上で燃え広がり、可燃性の腐肉が耳を劈くような「チリチリ」という音を立てて萎縮していく。

 

ボールはそのまま降下し、粘着性のある組織を長いロープのように伸ばして、兵士の襟元を正確に捉えた。


その後、海面の火災によって生じた上昇気流を検知すると、優雅に旋回し、兵士を連れて旗艦の甲板へと戻ってきた。

 

ボールの一連の流れるような動作を見て、シーリンが即座に状況を察し、艦隊全体に叫んだ。

「物理攻撃はこいつらには効かない! 弩矢を無駄にするな! 火を放て! 火攻めだ!」

 

命令が下ると、兵士たちは予備の燃焼油や火矢を取り出した。暗い海の上に、次々と火光が点る。

 

ここの海水は粘り気が強く腐敗しているため、火の塊が海に落ちればすぐに消えてしまうが、炎が放つ瞬間的な熱量と強光は、確かに血に飢えた不死者たちを焼き払い、その侵入を阻んだ。

 

「忘れるな! バハムートが言った通り、こいつらを殲滅しようとするんじゃない!」

俺は船尾に立ち、ジェット・プロパルジョンの出力を維持しながら叫んだ。

「この海の死者は殺しきれない! 船縁を死守し、奴らを船に乗せなければいいんだ!」

 

十五隻の戦艦は陣形を組み、暗黒の海を緩やかに移動する火の塊のように進んだ。

兵士たちは息の詰まるような悪臭に耐えながら、忠実に、そして機械的に防衛任務を繰り返した。

 

このまま耐え忍べば、この死域を抜けられると俺たちは思っていた。

 

……あの時までは。

「何だ、あれは……山なのか?」

グルルが震える指で前方を見た。

 

巨大な島の影――。

俺たちの想像を絶する巨大な存在。

 

航路の真っ只中に現れたのは、島のように広く、火山のように高くそびえ立つ、巨大な「血肉の集合体」だった。

 

それは自然の島ではない。数万、いや数十万もの屍骸と腐肉が、邪悪な力によって無理やりね合わされて作られた産物だ。

 

血肉の島は病的な暗紫色を湛え、海面で緩やかに波打っている。まるで島そのものが呼吸しているかのように。

 

そして何より絶望的だったのは、その上に蠢く生物たちだった。

 

何万ものスケルトンが、腐った肉の壁から束縛を振り切って這い出してきていた。

彼らはもはや、海の中で蠕動するだけの肉塊ではない。完全な骨格を保ち、血肉の島の斜面を闊歩している。

 

この死に絶えた海域で、彼らはついに生者の気配を、温かい血の香りを再び嗅ぎつけたのだ。

 

死者たちにとって、これは「戦い」ではない。

これは……新たな肉を補充するための、「饗宴うたげ」であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ