第27話 死の海
テッテレー!
『神魚の試煉イベントが終了。
ゴーレムコアがアップグレード』
『ゴーレム:Lv6
全能力:+2
攻撃への属性付与機能の開放
両腕常態装備へと換裝
プレートアーマーとの融合
新材質:スティール・ゴーレム』
「ボール……お前、一体どこまで進化するつもりなんだ?」
俺は嬉しそうにボールを眺めた。
今のそれは、もはや二本の足が生えたただの球体ではない。
両腕を広げ、堂々とした侍のような佇まいを見せている。
すぐにでも時間を取って、ボールの新しい能力をテストしてみたいところだった。
だが、この忌々しい航路は、俺たちに一息つく暇さえ与えてはくれない。俺たちはバハムートが巻き起こした聖なる海流に乗っていた。それは神霊が遺した最後の贈り物だ。
海流は、暗い洋流の中に一本の青い発光レールの如き通路を強引に切り開いていた。
『立ち止まるな! 最大の速度をもって、この海域を去れ!』
バハムートの重低音のような警告が、今も耳の奥で鳴り響いている。
海流が進むにつれ、周囲の景色は不安を煽るような異変を見せ始めた。
十五隻の戦艦は、まるで深淵へと無理やり引きずり込まれる風鈴の列のように、呪われた死の海へと突入した。
ここの空には、もはや色がなかった。
風も雨もない快晴のはずなのに、ある無形の境界線を越えた途端、鉛のような分厚い暗雲がのしかかってきた。
湿度は異常なほど高く、呼吸をするたびに冷たい鉄錆を飲み込んでいるような感覚に陥る。
「この臭い……おぇ……」
グルルは自分のエラを固く閉じた。
海面は深い青ではなく、吐き気を催すような黒赤色を呈していた。
それは数日間放置され、腐敗して凝固し始めた血の色に似ていた。
水面には脂ぎった膜が浮き、波がうねるたびに、鼻を突く血腥さと屍臭が立ち込める。
船体には時折、鈍い衝撃音が伝わってきた。それは木材が肉体にぶつかる音だ。
海面には無数の巨大な血肉の塊が漂っていた。皮を剥がれた牛のようなものもあれば、絶え間なく蠢く肉腫のようなものもある。
「あの音は何だ……?」
シーリンがシャムシールを握りしめ、鋭い眼差しで霧の向こうを睨みつけた。
初めは風の音かと思った。
だがすぐに、その音は無数の人間が上げる低い哀鳴へと変わった。
恐怖、怒り、そして飢餓が入り混じった咆哮が、海面の四方八方から染み出してくる。
漂う肉塊の中から、一つ、また一つと生首が突き出してきた。
皮膚のないその顔、眼窩には虚ろな緑の光が宿っている。
彼らは嘶き、残された指の骨で俺たちの船縁にしがみついてきた。
「こいつら……登ってこようとしてるぞ!」
水手の一人が悲鳴を上げた。
これらの肉塊は海の中で互いに惹かれ合い、つなぎ合わさって、その体積を急速に拡大させていく。
中には数メートルの高さに達する肉の山も珍しくなかった。数日前にバチェラシュの城壁外で焼き払った不死者たちと同じだ。
戦艦の兵士たちは即座に反応した。バチェラシュの戦士たちはロングフックやヤリを繰り出し、船体にしがみつく肉塊を海へと突き落とそうとする。
バリスタが絶え間なく火を噴くが、鋼鉄の矢は腐肉を貫通しても穴を開けるだけで、怪物たちには退く気配すら微塵もない。
「助け……助けてくれ!」
悲鳴が混乱を切り裂いた。
身を乗り出しすぎた一人の兵士が、肉塊を押し戻そうとした瞬間、突如として伸びてきた数本の白骨の腕に掴まれたのだ。
彼はまるでスープに落ちたクッキーのように、一瞬にして黒赤色の死海へと引きずり込まれた。
「くそっ!」
俺は叫び、駆け寄ろうとした。
しかし、距離が遠すぎる。俺が海に飛び込んで救出すべきか迷ったその時、ボールが動いた。
それは俺の指示を待たなかった。
アップグレードされたボールは、驚くべき自律的な判断力を発揮したのだ。
それは瞬時に鋼鉄から高い延展性を持つスライムゴーレムへと形態を変え、その側面からグライダーを展開した。
ボールは銀色の光を放つ巨大なアホウドリのごとく、落水した兵士へと急降下していった。
飛行中、ボールの前方の機械構造が急速に組み替わり、強化されたクロスボウがセットされる。
今回、矢の先端には不安定な火赤色の光が明滅していた。
「バシュゥッ!!」
火属性の追加ダメージを纏った火箭が、兵士が落ちた場所のすぐ傍に正確に着弾した。
激しい炎が油じみた海面の上で燃え広がり、可燃性の腐肉が耳を劈くような「チリチリ」という音を立てて萎縮していく。
ボールはそのまま降下し、粘着性のある組織を長いロープのように伸ばして、兵士の襟元を正確に捉えた。
その後、海面の火災によって生じた上昇気流を検知すると、優雅に旋回し、兵士を連れて旗艦の甲板へと戻ってきた。
ボールの一連の流れるような動作を見て、シーリンが即座に状況を察し、艦隊全体に叫んだ。
「物理攻撃はこいつらには効かない! 弩矢を無駄にするな! 火を放て! 火攻めだ!」
命令が下ると、兵士たちは予備の燃焼油や火矢を取り出した。暗い海の上に、次々と火光が点る。
ここの海水は粘り気が強く腐敗しているため、火の塊が海に落ちればすぐに消えてしまうが、炎が放つ瞬間的な熱量と強光は、確かに血に飢えた不死者たちを焼き払い、その侵入を阻んだ。
「忘れるな! バハムートが言った通り、こいつらを殲滅しようとするんじゃない!」
俺は船尾に立ち、ジェット・プロパルジョンの出力を維持しながら叫んだ。
「この海の死者は殺しきれない! 船縁を死守し、奴らを船に乗せなければいいんだ!」
十五隻の戦艦は陣形を組み、暗黒の海を緩やかに移動する火の塊のように進んだ。
兵士たちは息の詰まるような悪臭に耐えながら、忠実に、そして機械的に防衛任務を繰り返した。
このまま耐え忍べば、この死域を抜けられると俺たちは思っていた。
……あの時までは。
「何だ、あれは……山なのか?」
グルルが震える指で前方を見た。
巨大な島の影――。
俺たちの想像を絶する巨大な存在。
航路の真っ只中に現れたのは、島のように広く、火山のように高くそびえ立つ、巨大な「血肉の集合体」だった。
それは自然の島ではない。数万、いや数十万もの屍骸と腐肉が、邪悪な力によって無理やり捏ね合わされて作られた産物だ。
血肉の島は病的な暗紫色を湛え、海面で緩やかに波打っている。まるで島そのものが呼吸しているかのように。
そして何より絶望的だったのは、その上に蠢く生物たちだった。
何万ものスケルトンが、腐った肉の壁から束縛を振り切って這い出してきていた。
彼らはもはや、海の中で蠕動するだけの肉塊ではない。完全な骨格を保ち、血肉の島の斜面を闊歩している。
この死に絶えた海域で、彼らはついに生者の気配を、温かい血の香りを再び嗅ぎつけたのだ。
死者たちにとって、これは「戦い」ではない。
これは……新たな肉を補充するための、「饗宴」であった。




