五色 この下校の世界で
今現在、俺の隣にはなぜか学校で知らない者はいないほどの女子生徒が歩いて下校している。そう、津雪華澄である。
不思議な気分だ。一歩一歩ゆっくり歩く足音、制服とカバンが擦れる音。彼女はその音を気にすることなく、さも当然、ごく当たり前の日常のように俺の隣を歩く。その話のない下校は俺に緊張感を生み出し、全ての事象において敏感になる。自分の心臓の音や息の吐く音にさえ。
「ねえ、夕日、綺麗オレンジ色だね」
気まずさからなのかは定かではないが俺は今、話しかけられた。
「え?夕日?」
太陽を見る。太陽は相変わらず'白いまま'だ。夕日自体は知っている。夜になる前の太陽のことだ。小学生の頃も見たことがあるように気がするがあまり覚えていない。夕日がどんな色なのか、なぜ綺麗なのか、俺にはわからない。
色というものが解らない。唯一わかるのは白と黒ぐらいだ。この色は変わる前も後も変わらない。
少しばかりの沈黙。彼女は少し考える素振りを見せると慌てて話してきた
「ご、ごめん。和樹君はその、目が…」
気まずそうに喋る
「別にいいよ、でも実際、どんなものなのか見て見たいよ」
「夕日?」
「うん、それ以外にもみんなが見てる景色とかさ」
「治らないの?」
「あるにはあるらしいけど、よく分からなくてね」
俺の目は、医者からは強い刺激を感じると治るとかと言われている。でも実際、その刺激がなんなのかは分からない。本当にそれで治るのか、はたまた医者が俺に一筋の希望を与えるために吐いた嘘なのか。
「そう…治るといいね」
「うん」
駄目だこの話は。暗すぎる。そう思い俺は話題を逸らすために話しかける。
「ねえ、津雪さんは他の友達と帰らなくて良かったの?」
素朴な疑問をぶつける。いつもあんなに人が集まっているのになんで俺なんかと帰るのかが不思議だ。
「なに?私と帰るのは嫌だ?」
「ち、ちがうよ」
彼女は意地悪そうに言ってくる
「別に、同じ家の方向の人少ないし、それに…」
「それに?」
彼女はこちらにくるりと向き、そして笑顔になる
「君も友達でしょ!」
心が暖かくなっていくのが感じた。彼女の優しさが身に染みる。緊張とはまた別に鼓動が速くなる。空は夕日によって白くなり、静かな住宅街から微かに聞こえる車の音と夏の近づきを知らせる虫の声。
友達…か、そんな事を言われたのは久しぶりだ。高校2年にしてやっと友達が二人か。けど、それでいい、斗弥と津雪さん、この二人はきっと俺の高校生活を楽しくしてくれるだろう。俺はそんな気がする。
そうこうしているうちに家が近くなる。二人はそれぞれ自然と自分の家に足を向ける
「じゃあ、また明日」
「おう、また明日な」
彼女が手を振ると俺も呼応するように振り返す。アパートに着き鍵を取り出し、ドアを開けて入る。
「ただいまーっと」
誰もいない部屋に声だけが響く。カバンをテーブルに置き、制服を脱ぐとベッドに横たわる
最近津雪さんのことばかりを考えてしまっている一緒にいるだけで胸の鼓動が速くなる。なんでだ、もうあんな事を経験したくないはずなのに。けど楽しかった。また今度でいいから一緒に帰りたいな。そんな事を思いつつ今日が終わった。
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