私は嫌い。
再び、現在に。
コンビニからの帰り道。
「で……また、彼女の名前が明日香?」
「うん」
2人共アイスを食べ終え、残った棒を齧ったり舐めたりしながら、家を目指す。
「明日香病?」
今日が最後だなんて、明日、この街から君がいなくなるだなんて、嘘のようだった。涼夜がよく吐く、分かり易い嘘のようだった。
「それとも何かに呪われてるの?」
「何だよそれ」
涼夜は馬鹿にしたように鼻で笑った。が、数秒、真顔になって何かを考え出した。涼夜は時たまこうやって、真剣に1人で考えることがある。この横顔は嫌いじゃない。
涼夜は、濃紺色に染まった空を見上げた。
街の明かりで、星は殆ど見えない。
「……でもさ、今カノの明日香も、元カノの明日香にどことなく似てるんだよなー。色白なとことか、何か消えちゃいそうな笑顔とか……可愛いなー、って」
はぁ、最後の最後まで、明日香、明日香って……。
「やっぱり、明日香病? 病気なの?」
「だから、何だよそれ」
涼夜の顔にはいつもの笑顔が戻っていた。
「呪われてるのか」
「だから、違うって」
どうやら、おかしいのは、私だけじゃないみたいだ。
「……涼夜?」
涼夜は立ち止まったまま、動かなくなった。
私の隣で、俯いて、小さな声で、自分に言い聞かせるように……。
「……いや……そうかも、しれないな……。明日香が基準になってるのかもな。考え方も生き方も、何事も。全部、全部……明日香に……」
涼夜の背中が震え出した。
「せっかく……せっかく、こんな……」
「……ねぇ、涼夜」
泣いてる……の? 何で、涼夜が? 君は明日、この街から去れるんだよ。何もない、廃れていくだけの、この街から。
それなのに……。
「……俺さぁ、こうやって、依夜とアイス食べながら駄弁って帰る金曜日の夜、好きだったなぁ……」
そう言い残すと、涼夜は夜道を走り出した。私を置いて、家に向かって。
ずるい。
「……ずるいよ、そんなの」
1人、静かな夜に取り残された。肌寒さも、風の音も、街灯も、涼夜がいないと、全部、冷たく感じた。
「……私は嫌い」
涼夜のそういうところ。臭いことでも、思ったことを正直に言えてしまうところ。そんな言葉に喜んでしまう、私自身も。……嫌い。大っ嫌い。
私は見えなくなった涼夜の背中を見つめた。
ねぇ、涼夜。
「……私じゃ、駄目だったの?」