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同棲癖。  作者: 濃紺色。
同棲癖。
9/16

私は嫌い。

再び、現在に。

コンビニからの帰り道。

「で……また、彼女の名前が明日香?」

「うん」


2人共アイスを食べ終え、残った棒を齧ったり舐めたりしながら、家を目指す。


「明日香病?」


今日が最後だなんて、明日、この街から君がいなくなるだなんて、嘘のようだった。涼夜がよく吐く、分かり易い嘘のようだった。


「それとも何かに呪われてるの?」

「何だよそれ」


涼夜は馬鹿にしたように鼻で笑った。が、数秒、真顔になって何かを考え出した。涼夜は時たまこうやって、真剣に1人で考えることがある。この横顔は嫌いじゃない。

涼夜は、濃紺色に染まった空を見上げた。

街の明かりで、星は殆ど見えない。


「……でもさ、今カノの明日香も、元カノの明日香にどことなく似てるんだよなー。色白なとことか、何か消えちゃいそうな笑顔とか……可愛いなー、って」


はぁ、最後の最後まで、明日香、明日香って……。


「やっぱり、明日香病? 病気なの?」

「だから、何だよそれ」


涼夜の顔にはいつもの笑顔が戻っていた。


「呪われてるのか」

「だから、違うって」


どうやら、おかしいのは、私だけじゃないみたいだ。


「……涼夜?」


涼夜は立ち止まったまま、動かなくなった。

私の隣で、俯いて、小さな声で、自分に言い聞かせるように……。


「……いや……そうかも、しれないな……。明日香が基準になってるのかもな。考え方も生き方も、何事も。全部、全部……明日香に……」


涼夜の背中が震え出した。


「せっかく……せっかく、こんな……」

「……ねぇ、涼夜」


泣いてる……の? 何で、涼夜が? 君は明日、この街から去れるんだよ。何もない、廃れていくだけの、この街から。

それなのに……。


「……俺さぁ、こうやって、依夜とアイス食べながら駄弁って帰る金曜日の夜、好きだったなぁ……」


そう言い残すと、涼夜は夜道を走り出した。私を置いて、家に向かって。

ずるい。


「……ずるいよ、そんなの」


1人、静かな夜に取り残された。肌寒さも、風の音も、街灯も、涼夜がいないと、全部、冷たく感じた。


「……私は嫌い」


涼夜のそういうところ。臭いことでも、思ったことを正直に言えてしまうところ。そんな言葉に喜んでしまう、私自身も。……嫌い。大っ嫌い。

私は見えなくなった涼夜の背中を見つめた。

ねぇ、涼夜。


「……私じゃ、駄目だったの?」

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