57.証言
宍粟探偵らは、ご隠居との打ち合わせ通り、勝手口から養父邸へ入った。
お松の案内で、但馬に与えられた部屋へ通される。
宍粟探偵が声を掛けると、但馬とご隠居が同時に返事をした。
お松が茶を置いて去るのを待ち、宍粟は二人を紹介した。
「こちら、湊第二警察署の篠山刑事と、人相書きの係、青垣さんです。こちらは、養父医院のご隠居さんと、シロアリ盗賊団の正体を見た但馬君」
宍粟探偵はそこで一旦、言葉を切って口調を改め、篠山刑事らに事情を説明した。
「但馬君は、料亭六花、海上家のご長男ですが、安全の為、家族にも知らせず、こちらに身を寄せています」
「この少年が?」
篠山刑事が目を見張る。
但馬は、緊張に強張る顎をぎこちなく引いた。
「但馬君、女将さんが脇浜通を雇ったところから、お話しして下さい」
宍粟探偵に促され、但馬少年はこれまでの経緯を語った。
脇浜に関することのみを述べ、兄弟妹が母から受けた仕打ちなどは、一切省く。
篠山刑事は熱心に耳を傾け、少年の話を手帳へ控える。
「待っている間に描きました」
但馬は書き物机の上から、一枚の紙片を取り、刑事に手渡した。
首飾りの絵だ。拙いが、特徴はよく伝わる。
鎖は細く、玉虫くらいの大きさ形の水晶、或いは、金剛石……透明の煌びやかな石を、銀の台座が囲んでいる。
台座には、文字とも紋様ともつかぬ物が彫られていた。
文字だとすれば、外国語で、但馬には全くわからない。絵も、くしゃくしゃと蚯蚓がのたくったような線で描かれてあった。
脇浜は、これを首に掛けることで、顔を変えていた。
篠山刑事が頭を抱え、呻った。
「道理で捕まらん訳だ……」
「首飾りを外した本当の顔が、この、貧相なツラなんだな?」
似顔の係が、出来上がった人相書きを示して念を押す。但馬は力強く頷いた。
「野郎を探すより、首飾りを探す方が確かだな」
「でも、襟の詰まった服だと、見えませんよ?」
宍粟探偵が口を挟むと、篠山刑事は煩そうに言った。
「んなこたぁわかっとる。風呂へ入る時は脱ぐだろう。当面、湯屋巡りだな。風呂で顔が変わっちゃ、騒ぎんなるから、着けたまんま入るだろ」
「はぁ、でも……」
「お屋敷の内風呂じゃ、わかんねぇってんだろ。知ってらぁ。それでも、何もせんよりゃマシだ。雇われてねぇ今を狙うんだよ」
篠山刑事は、先回りして宍粟探偵を黙らせ、但馬に向き直った。
「坊主、教えてくれてありがとよ。きっと捕まえて、仇を取ってやるからな」
力強く少年の肩を叩き、わしゃわしゃ頭を撫で、慌ただしく出て行く。
但馬は、乱暴に撫で回されて乱れた髪に手を遣り、呟いた。
「俺、まだ、生きてんだけどな……」




