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彷徨う香炉  作者: 髙津 央


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41/61

41.伝令

 宍粟(しそう)探偵はその足で、雲教区(うんきょうく)の骨董屋妙見(みょうけん)へ向かった。

 日之本帝国の古陶(ことう)は、外国人にも愛好家が居る。双魚ならば、居留地とも付き合いがあるだろう。


 丁度、主人と一緒に双魚(そうぎょ)が店表へ出ていた。

 手桶を床に置き、二人で話している。

 まず、日之本語で主人の朝来(あさご)氏に声を掛け、東方語で双魚にも挨拶する。


 「例のお医者の件、いよいよ、お呼びが掛かるのかい?」

 「いや、それとはちょっと別口で……」

 六花(むつのはな)の絵皿が盗まれた件を掻い摘んで説明する。


 「妙見(みょうけん)さんは、舶来品に切り替えてらっしゃいますが、組合の(せき)は、まだ置いてらっしゃいますよね?」

 「えぇ、まぁ、毎月、会合には顔を出してますよ」

 「多分、警察からも連絡があるかと思いますが、うっかり贓物(ぞうぶつ)を掴まされることがないよう、皆様に(よろ)しくお伝え下さい。それから……」

 双魚に向き直り、東方語で説明する。


 「居留地の方とも、お付き合いがありますよね? 先ほど申し上げた絵皿を見かけても、買わないようにお伝えいただけましたら、助かります」

 「うん、まぁ、会ったら一応、伝えはするが、最近、あんまりあっちにゃ行かねぇからなぁ」

 「この国では、それと知りつつ、盗品を買ったりもらったりした人も、処罰されるんですよ」

 「……それ、居留地の連中にゃ、教えねぇ方がいいんじゃねぇか? 盗品と知った後で手に入れたら、お縄になるんだろ?」

 双魚が首を(ひね)った。


 「そのまま売られて、外国に持ち出されたら、六花(むつのはな)の人たちが気の毒ですよ」

 「う~ん……それもそうだなぁ。何か用ができたら、ついでに言っとくゎ」

 「ありがとうございます」

 あまり期待できそうにもないが、他に打てる手がない。

 宍粟(しそう)探偵の直接の知り合いは、数年前に帰国していた。


 昼餉時(ひるげどき)が終わった頃に、千代草区の養父(やぶ)医院を(おとな)う。

 正午から午後二時までは、医院を閉めている。

 居間へ通され、食後のお茶を飲む医師の兄弟とご隠居に、このところの状況を報告する。


 「何と! あの女狐め、とうとう手が後ろに回ったか!」

 「まだ、罪人と決まった訳ではありませんよ」

 ご隠居が膝を打つのを、次男の健二(けんじ)医師が(たしな)めた。

 「それで、如何(いかが)致しましょう?」

 宍粟(しそう)探偵の問いに、三人は考え込んだ。


 「もしや、泥棒に入られたのも、香炉のせいなのでは……」

 「双魚さんは、あれにはそんな力はないと仰ってましたよ」

 健二医師が辺りを(はばか)るように言う。宍粟(しそう)探偵は即座に、その不安を打ち消した。


 ご隠居が身を乗り出し、宍粟(しそう)探偵に問う。

 「そうだ。その双魚さんとやら、女将との面通しは当面、できぬだろうが、一度、その話を詳しく聞いてみたい。ひとつ、話を通してくれぬだろうか?」

 「双魚さんのご都合が合いましたら、連絡と通訳はお引き受けしますよ」

 専門家として店を手伝っている者を借りるのだから、と幾許(いくばく)か包むことが決まり、宍粟(しそう)探偵は妙見(みょうけん)へ取って返した。


 店主の朝来(あさご)氏と双魚に、それぞれ伝言する。

 明日から、ゲオドルムへ買付けに行くので、帰国後、今月半ばに養父邸(やぶてい)を訪れることで話がまとまった。

 養父氏の方は、ご隠居が応対する為、日取りは自由だ。


 妙見の意向を伝えに、養父邸へ戻る。

 ついでに、氷ノ山(ひょうのせん)へも贓物(ぞうぶつ)の件で声を掛ける。


 一日、伝令役として駆けずり回り、事務所へ戻る頃には、すっかり日が暮れた。

 「魔法が使えれば、簡単に連絡がつくんでしょうにねぇ」

 宍粟(しそう)探偵が書生にぼやくと、有年(うね)にしては珍しく、笑った。

 贓物(ぞうぶつ)=犯罪で手に入れた品物。盗品など。

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地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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