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彷徨う香炉  作者: 髙津 央


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27/61

27.僧侶

 巡査に誰何(すいか)された。

 面倒なことになったと思いつつ、正直に身元を明かす。


 この家に雇われた探偵で、香炉の行方を追っている。もし、盗まれたなら、賊はどこからどう入り、どう逃げたのか、実地に見ながら考えていたのだ、と。


 (いぶか)しむ巡査へ、逆に質問する。

 「最近、この辺りで、他に空巣でもありませんでしたか?」

 「そんなことに答える義務はない」

 にべもない。


 「最近、お縄になった泥棒で、香炉を盗んでいた者はありませんか?」

 「貴様に答える義務はない」

 「そうですか。では、私も私の仕事へ戻ります」

 生垣の観察に戻ると、巡査はそれ以上言わず、離れて行った。


 宍粟(しそう)探偵はその後ろ姿を見送り、養父邸のぐるりを一周する。生垣に切れ目はない。途中から土塀になる。昼日中(ひるひなか)にこれを乗り越えれば、嫌でも人目につく。


 生垣の前で立ち止まり、中を(うかが)うことさえ目につき、巡査に声を掛けられたのだ。


 機を窺うにしても、生垣の内部に入ってからのことだろう。

 かじかんだ手に息を吹きかけ、移動した。


 養父(やぶ)夫人から、本日のお茶会は、出石邸(いずしてい)で行われると聞いている。

 週に一度の裁縫教室の後、仲良しの家が持ち回りでお茶会を催す。


 夫人によると、過去に何度か、(そば)で遊んでいた下の子の玩具(おもちゃ)が混じり、誤って持ち帰ったことがあると言う。

 気付かずに香炉を持ち帰り、その後、裁縫箱を開けなかったにしても、今日にはわかる筈だ。


 日高家と村岡家は、事業で大きな失敗をし、資金繰りが苦しくなっている。

 動機は充分あるが、そんな短絡的な事をすれば、得るカネより失う物の方が大きい。

 子供らの縁談などにも(さわ)る。しかも、知り合いから盗ったとあらば、猶更(なおさら)だ。


 カネ目当てでの盗みの線は、薄いような気がしてきた。


 翌朝も雪は溶けずに残り、人通りの多い所は凍りついていた。

 骨董屋妙見(みょうけん)は、雲教区(うんきょうく)にある。どこかその近所の者の犯行かもしれない。


 宍粟(しそう)探偵は、石畳の雪に足を取られぬよう気を付けつつ、雲教区内の寺を回った。

 双魚(そうぎょ)の言葉通り、雑妖が憑いた薄気味悪い香炉なら、持て余して寺に預けた可能性がある。


 最初の寺では、住職が腰を痛めて入院中で、若い僧が応対した。

 「さる骨董屋さんで小耳に挟んだんですが、付喪神(つくもがみ)だか何だかが取り憑いた香炉で、お困りのご婦人が居るそうなんですよ。売ろうとしたら、断られたそうですが、こちらにそんな物が持ち込まれたと言うことは……」


 「いや、全く。あなたはそれを知って、どうなさるお積もりか?」

 「いえ、面白そうなんで、ちょっと見てみたいと思いまして……」

 「そのような物を興味本位で見るのは、感心しませんな。魅入られると危ない」

 「魅入られますか?」

 「その(おそ)れは大いにある。浮ついた気持ちで対してはなりません」

 「気を付けます。では、ご婦人はどうやれば助かるんでしょう?」

 自分の半分程の年齢の僧に、宍粟(しそう)探偵は素直に頭を下げた。


 「見て見ないことにはわかりませんが、その物を手放し、その物への執着心も共に手放し、心を(たい)らかにすれば、怪異も(まぬか)れましょう」

 合掌した若い僧からは、意外にしっかりした答えが返って来た。


 「私は、そのご婦人がどこのどなたか存じませんが、お坊さんのお話が伝わるように、骨董屋さんに伝言します。有難うございました」


 持ち込まれた香炉が、本当に危険な存在なら、興味本位の赤の他人になど、その所在すら教えてくれぬだろう。

 宍粟(しそう)探偵は、雲を掴むような思いで、寺社回りに半日を費やした。

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地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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