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彷徨う香炉  作者: 髙津 央


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24/61

24.弔問

 仏間へ通され、焼き菓子を仏前に供えて、型通りに手を合わせる。

 改めて仏壇を見た。位牌の隣に若者の写真がある。もしや、との思いに宍粟(しそう)探偵の目が釘付けになる。


 視線に気付き、女将が涙声で説明した。

 「主人に続いて息子まで……病気で……」

 「これは……存じませんで。ご愁傷様です」

 (なだ)記者も、宍粟(しそう)探偵と揃って一礼した。


 女将は姿勢を正し、震える声で言う。

 「いえ、私も悲しんでばかりは……主人が残してくれたお店と、次男と長女を守らないといけませんので……」

 「そうですね。でも、女将さん一人で頑張らずに、板長さんやご親戚に頼れるところは力を借りて、くれぐれもご無理はなさいませぬよう」

 「お気遣い、痛み入ります」


 「料理にお変わりありませんか? 知り合いに勧めておきますよ」

 宍粟(しそう)探偵が、声の調子を少し明るくして提案する。


 女将は、折り目正しく頭を下げて答えた。

 「ありがとうございます。板長が忠実に主人の味を守ってくれております。今時分は、牡蠣が旬でございます。お知り合いの皆様にも、(よろ)しくお伝えいただきとう存じます」

 女将が灘記者をチラリと見たが、記者は気付かぬフリをした。


 宍粟(しそう)探偵が、同じ調子で助言する。

 「ここらには、養父(やぶ)先生や出石(いずし)さんのような、腕のいいお医者さんや、確かな薬屋さんが居ますから、大袈裟(おおげさ)と思わず、少しのことも、早め早めに診ていただくといいですよ」

 「そうですね……息子も、もっと早く診せていれば……」

 表情を曇らせる女将に、宍粟(しそう)探偵が眉根を寄せて聞く。

 「ご主人と同じ頃に、同じご病気で?」


 「いえ、今年です。熱を出しまして、風邪ならすぐ良くなるだろう、と。あの子は、お医者を嫌がるものですから……こんなことなら、無理にでも診せるのでした」

 悔やんでも悔やみきれぬと言う風情で嘆く女将に、決まり文句の慰めを並べ、二人は海上(うみがみ)家を出た。


 鈍色(にびいろ)の空からは、今にも雪が降り出しそうだ。

 客の目に付く所へ盗品の香炉を置く筈もなく、その辺りは期待していなかったが、長男が亡くなった時期を上手く聞き出せなかった。


 ……まだまだ、だな。


 襟巻(マフラー)を巻き直しながら、事務所へ戻る。


 湯呑で手を温めながら、考えをまとめる。これから、どう調べを進めるか。

 警察のように令状を以って強権を発動させ、家探しの上、押収すると言う具合には行かない。


 養父(やぶ)医師の依頼は、付き合いに波風を立てぬよう、香炉を回収することだ。

 女将の反応を見ようと、養父氏の名を出してみたが、今ひとつ、わからなかった。


 妙見に香炉を持ち込んだ女と、六花(むつのはな)の女将が同一人物であると言う証拠もない。

 共通するのは、長男を亡くした女、と言うただ一点のみだ。

 妙見(みょうけん)の主人か双魚(そうぎょ)に面通しすれば、すぐにわかることだが、会わせる口実が見つからない。


 そもそも、カネ目当てと言う動機には、当て()まらない。

 (なだ)記者の調べや、薔薇園亭(ばらえんてい)から得た情報、村岡酒店の話では、料亭六花(りょうていむつのはな)の経営は、主人亡き後も、順調だと言う。


 女将である海上(うみがみ)夫人も、娘と二人で趣味の洋裁教室に通っている。女中なども置き、暮し向きに不自由はなさそうだ。


 怨恨だろうか。或いは、この推測そのものが、見当違い(はなは)だしく、妙見(みょうけん)を訪れた女は、別人の可能性もある。

 資金繰りが苦しく、最も動機がありそうなのは、日高夫人と村岡夫人だ。各家の家族構成について、改めて、養父(やぶ)夫人に尋ねることにした。

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地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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