24.弔問
仏間へ通され、焼き菓子を仏前に供えて、型通りに手を合わせる。
改めて仏壇を見た。位牌の隣に若者の写真がある。もしや、との思いに宍粟探偵の目が釘付けになる。
視線に気付き、女将が涙声で説明した。
「主人に続いて息子まで……病気で……」
「これは……存じませんで。ご愁傷様です」
灘記者も、宍粟探偵と揃って一礼した。
女将は姿勢を正し、震える声で言う。
「いえ、私も悲しんでばかりは……主人が残してくれたお店と、次男と長女を守らないといけませんので……」
「そうですね。でも、女将さん一人で頑張らずに、板長さんやご親戚に頼れるところは力を借りて、くれぐれもご無理はなさいませぬよう」
「お気遣い、痛み入ります」
「料理にお変わりありませんか? 知り合いに勧めておきますよ」
宍粟探偵が、声の調子を少し明るくして提案する。
女将は、折り目正しく頭を下げて答えた。
「ありがとうございます。板長が忠実に主人の味を守ってくれております。今時分は、牡蠣が旬でございます。お知り合いの皆様にも、宜しくお伝えいただきとう存じます」
女将が灘記者をチラリと見たが、記者は気付かぬフリをした。
宍粟探偵が、同じ調子で助言する。
「ここらには、養父先生や出石さんのような、腕のいいお医者さんや、確かな薬屋さんが居ますから、大袈裟と思わず、少しのことも、早め早めに診ていただくといいですよ」
「そうですね……息子も、もっと早く診せていれば……」
表情を曇らせる女将に、宍粟探偵が眉根を寄せて聞く。
「ご主人と同じ頃に、同じご病気で?」
「いえ、今年です。熱を出しまして、風邪ならすぐ良くなるだろう、と。あの子は、お医者を嫌がるものですから……こんなことなら、無理にでも診せるのでした」
悔やんでも悔やみきれぬと言う風情で嘆く女将に、決まり文句の慰めを並べ、二人は海上家を出た。
鈍色の空からは、今にも雪が降り出しそうだ。
客の目に付く所へ盗品の香炉を置く筈もなく、その辺りは期待していなかったが、長男が亡くなった時期を上手く聞き出せなかった。
……まだまだ、だな。
襟巻を巻き直しながら、事務所へ戻る。
湯呑で手を温めながら、考えをまとめる。これから、どう調べを進めるか。
警察のように令状を以って強権を発動させ、家探しの上、押収すると言う具合には行かない。
養父医師の依頼は、付き合いに波風を立てぬよう、香炉を回収することだ。
女将の反応を見ようと、養父氏の名を出してみたが、今ひとつ、わからなかった。
妙見に香炉を持ち込んだ女と、六花の女将が同一人物であると言う証拠もない。
共通するのは、長男を亡くした女、と言うただ一点のみだ。
妙見の主人か双魚に面通しすれば、すぐにわかることだが、会わせる口実が見つからない。
そもそも、カネ目当てと言う動機には、当て嵌まらない。
灘記者の調べや、薔薇園亭から得た情報、村岡酒店の話では、料亭六花の経営は、主人亡き後も、順調だと言う。
女将である海上夫人も、娘と二人で趣味の洋裁教室に通っている。女中なども置き、暮し向きに不自由はなさそうだ。
怨恨だろうか。或いは、この推測そのものが、見当違い甚だしく、妙見を訪れた女は、別人の可能性もある。
資金繰りが苦しく、最も動機がありそうなのは、日高夫人と村岡夫人だ。各家の家族構成について、改めて、養父夫人に尋ねることにした。




